レッジョ・エミリア教育とは?
「レッジョ・エミリア」は、北イタリアにある都市の名前です。
戦後、破壊された街を再建するにあたってレッジョ・エミリアの市民がまず建てたのは、幼稚園と学校でした。
これに感動した教育家のローリス・マラグッツィ(1920年~1994年)は、故郷で市とともに学校を運営し、幼児教育施設を建設します。
マラグッツィは「100のことば」を教育理念に掲げ、芸術的観点から子どもの無限の可能性を伸ばしていく独自のメソッドを、市のおよそ70カ所の施設で実践してきました。
1960年ごろから始まったこのメソッドが「レッジョ・エミリア教育」です。
レッジョ・エミリア教育では、「社会性」「時間」「子どもの権利」の3つに重点を置いています。
レッジョ・エミリア教育の特徴
プロジェクト活動
レッジョ・エミリア教育の最大の特徴が「プロジェクト活動」です。
子どもたちは4~5人のグループごとに、ひとつのテーマに1ヶ月から数ヶ月かけて取り組んでいきます。
「何をテーマにするか」「誰がどんな役割をするか」「どのように進めるか」については子どもたち自身で話し合って決めます。
たとえば5歳児のあるグループは「変身」をテーマに、フォトショップを使って制作物を作ることにしました。
「アトリエスタ」と呼ばれる美術専門の先生が子どもたちにやり方を教え、子どもたちは自ら操作を覚えて制作活動を行います。
子どもたちの間で意見の食い違いが出てきたときには、交渉をし、他の子どもの話を聞き、歩み寄り、お互いを尊重してプロジェクトを進めます。
この間、先生はあくまでもガイド・コーチ・ファシリテーターとして子どもたちに寄り添うのです。
この活動を通して、子どもたちは「社会性」を身につけていきます。
園には明確なカリキュラムはなく、期限や活動時間の制限もありません。
子どもたちの持っている「時間」が大切にされています。
先生がタイムマネジメントをしないので、子どもたちは急かされることなく、本来持っている想像力や好奇心を発揮することができます。
また、レッジョ・エミリア教育では、「子どもの権利」が尊重されています。
子どもたちには喜ぶ権利、楽しむ権利、何かを試してみる権利、発言する権利、黙る権利、迷う権利、間違う権利などがあります。
子どもたちは思い思いの行動をとることができます。
個人が社会に合わせていくのではなく、個人に合った社会を見つけていくことが大切にされているのです。
ドキュメンテーション
レッジョ・エミリア教育のもうひとつの柱が「ドキュメンテーション」です。
先生たちは子どもたちの日々の活動や成長を、子どもたちがなぜそのことに興味を持ったのか、どんなことが楽しいのかを質問しながらノートやビデオに記録していきます。
記録はパネルにまとめられ、誰もが見られる場所に展示されます。
子どもたちがそれを見て自分の活動を振り返り、次に活かすのが目的です。
もちろん保護者たちに教育内容を伝える役割も果たします。
壁のない空間
レッジョ・エミリア教育では、施設のデザインにも特徴があります。
イタリアの都市は、噴水や市場のある広場を中心に広がっていますが、レッジョ・エミリアの施設でも同じように、建物の中央に「ピアッツァ(広場)」と呼ばれる空間があります。
建物の中には壁で仕切られた部屋はなく、広場、教室、アトリエ、キッチン、昼寝部屋などがすべてつながっています。
先生の目が届きやすい安全な環境で、子どもたちはのびのびと過ごします。
本やパソコンもすべて同じ空間にあり、誰でも自由に使ってよいのです。
建物の中にあるものだけではなく、園庭や海岸、公園にあるものなどすべてが教材になり、石や砂、貝殻、落ち葉なども作品に使われます。
こうして子どもたちは、身の回りの物すべてに興味を示すようになっていきます。
専門家の存在
先に挙げた「アトリエスタ」と呼ばれる美術専門の先生は園にひとりずつ、また、「ぺダゴジスタ」という教育学専門家も複数の園にひとり配置されています。
ペダゴジスタは週に1回ほど園を訪問し、アトリエスタや他の先生に教育のアドバイスをするほか、運営についても関わります。
レッジョ・エミリア教育でどんな力が身につくのか?
プロジェクト活動を通して身につく力には、次のようなものがあります。
・自分で考える自主性や創造性
・自分の考えを相手に伝えるプレゼン力や交渉力
・相手の意見を聞き、話し合って進める協調性
・自分たちで目的を見つける探求心
・周りのものすべてに関心を持つ好奇心
・グループの中で自分の役割を見つけ、理解する力
レッジョ・エミリア教育を家庭内で取り入れる方法
日本ではレッジョ・エミリア教育を取り入れている幼稚園は、まだ多くありません。
ならば、家庭で実践してみてはいかがでしょうか。
休日をどのように過ごすか、お子さんと話し合って決めてみましょう。
虫取りに行く、海辺で砂の彫刻を作る、ワークショップに参加する、などいくつかを提案し、どれをやりたいか自分で考えさせます。
なぜそれを選んだのか、どんなところが気に入ったのかを説明してもらうのも効果的です。
お子さんが活動している様子を写真に撮り、ノートや画用紙に貼って、お子さんの言葉をそのまま記録すれば、ドキュメンテーションとなります。
探究活動の記録となるよう、お子さんが熱中して虫取りや制作などに取り組んでいる写真を選びましょう。
思い出のアルバムではないので、気づきが得られるよう客観的に編集することがポイントです。
出来上がった記録は、お子さん本人や保護者の方がいつでも見られるよう、そして活動への振り返りができるよう、リビングや廊下などに置いておきましょう。
モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育の違い
モンテッソーリ教育はレッジョ・エミリアの50年ほど前に、同じイタリアで生まれた幼児教育の方法です。
レッジョ・エミリア教育と同じく、子どもが自分の興味に従って自由な発想で遊んでいくのを大人がサポートする形を取っており、自立した子どもを育てる教育方法として広く世界中で知られています。
両者の大きな違いは、子どもへのアプローチの方法にあります。
モンテッソーリ教育ではカリキュラムがあらかじめ決められており、子どもたちは遊びを通して「感覚」と「言語・算数・文化」を身につけていきます。
先生はカリキュラムに従い、子どもたちが成長するのを干渉せずに見守るガイド役です。
また、教室にはモンテッソーリ独特の教具(おもちゃ)や教材、書籍が用意されています。
レッジョ・エミリア教育では子どもたちには限りない学びの方法や表現方法があると信じ、一人ひとりの個性を大切にしています。
そのため、決められたカリキュラムがなく、子どもたちの興味に沿って学び方が流動していきます。
また、教室にはきまった教具はなく、身近にあるものすべてを教材ととらえます。
まとめ
優れた幼児教育方法として知られるレッジョ・エミリア教育について紹介しました。
これからの時代を生き抜く子どもたちに必要とされる社会性や協調性、自主性、創造性などが、このメソッドで育まれます。
ご家庭でも、お子さんのやりたい活動を一緒に探してやらせてみる、どんなところが面白かったか話し合ってみるなど、
取り入れられる範囲で実践してみるとよいですね。