6年過去問で算数が取れない原因は解法でなく馬力不足

6年の過去問で算数が取れない。解説を読めば「わかる」と言うのに、本番形式で解かせると途中で手が止まり、答案の後半が白いまま時間切れになる。9月末から10月にかけて、面談でもっとも多く聞く相談のひとつです。
この時期、多くのご家庭は「解法の穴」を探し始めます。どの単元が抜けているのか、どの公式を覚えていないのか。もちろんそれも大事ですが、僕が過去問の答案を見てまず確認するのは別の場所です。途中式が、どこで、どんな数字の前で止まっているか。
6年の過去問で算数が取れない子の答案に共通する「止まり方」
過去問で点が取れない答案を並べると、ある共通点が浮かび上がります。途中までは合っている。ところが計算の途中で 42分の357 や 528分の21 のような、見慣れない数字が出てきた瞬間に鉛筆が止まり、そこから先が空白になっている。
子どもの頭の中では、こんな会話が起きています。あれ、変な数字になった。どこかで間違えたかな。こんな計算が試験に出るはずがない。そして消しゴムで途中式を消し、最初からやり直し、また同じ数字にたどり着いて首をかしげ、時間切れ。
冷静に見てみましょう。42分の357 は 21 で約分すれば 2分の17、つまり 8.5 です。528分の21 も 3 で約分すれば 176分の7。どちらも、ほんの数十秒押し進めれば普通の数字に戻ります。止まる理由は数学的にはどこにもない。止めているのは、子どもの心のほうです。
模試では目立たず、過去問で急に表面化する理由
塾のテストや模試では、この現象はあまり目立ちません。四谷大塚の組分けテストや日能研の公開模試は、多くの受験生の到達度を測る目的で作られており、途中の数字も比較的素直に整えられていることが多いからです。予習シリーズの例題や演習問題集も、解法を身につけるための教材なので、正しい手順を踏めばきれいな数字が並ぶように設計されています。
ところが入試問題は違います。学校の先生が「この学校に来てほしい子」を選ぶために作る問題には、きれいな解法に気づけなかった子でも、手を止めずに計算し切れば正解に届く、という設計のものが少なくありません。難関校ほど、意外なほどこの手の問題を混ぜてきます。
つまり過去問は、模試までは隠れていた「止まる癖」を容赦なくあぶり出す装置です。9月に入って急に点が取れなくなったように見えるのは、実力が落ちたのではなく、隠れていた弱点が初めて照らされただけ、というケースが多いのです。
足りないのは解法ではなく「馬力」
駆け出しの頃にお世話になった先輩講師が、ある生徒を評してこう言ったことがあります。この子は数学のセンスはないが、馬力がある。
馬力とは、本当はもっと綺麗な解き方があるのに、それに気づけなくても、ゴリゴリ計算して答えまでたどり着いてしまう力のことです。変な数字が出ても「まあいいか」と押し進める力、と言い換えてもいい。
最上位クラスでときどき見かける光景があります。解き方は不格好なのに、とにかく答えを出してくる子。そして、そういう子がクラスの上のほうにいる。その先輩は「馬力がある子は有名校に合格していく」とも言っていました。すべてがそうだとは言いませんが、合格を勝ち取っていく子の答案を思い返すと、確かにこのタイプが多い。算数を「美しく解くもの」だと信じている真面目な子ほど、入試本番で損をする。なんとも皮肉な話です。
過去問演習で馬力を鍛える3つの戦術
では、入試まで残り約4か月でどうするか。解法をこれ以上積み増すより先に、次の3つを試してください。
戦術1 過去問演習中は消しゴムを取り上げる
変な数字が出ても、その式は残して先へ進ませます。間違っていたら横に線を引き、隣に書き直せばいい。消された途中式は、なぜ止まったのかを分析する唯一の証拠です。証拠を自分で隠滅する受験生に、改善の道はありません。
戦術2 変な数字で止まった回数を記録する
採点のときは点数と一緒に、変な数字が出て手が止まった箇所に印をつけ、次の3点を確認します。
止まった箇所までの途中式は正しかったか
あのまま押し進めていたら正解に届いたか
止まってからやり直しに何分使ったか
多くの場合、「実は途中式は合っていた」「押し進めれば正解だった」という結果になります。ここが重要です。子ども自身に、止まらなければ取れていた点を数字で見せる。親の説教10回より、この記録1枚のほうがよほど効きます。
戦術3 「汚い正解」を大げさに評価する
分数だらけの泥臭い計算で答えにたどり着いたら、それを最大限に評価してください。ゴリゴリやれば答えは出る。それは恥ずかしいことではなく、むしろ入試でもっとも必要な力だ、と繰り返し伝える。
多くの子は、塾で綺麗な解法を習うたびに「綺麗に解けない自分はダメだ」と無意識に思い込んでいます。その思い込みを外せるのは、周りの大人の言葉だけです。綺麗な解法は後から覚えればいい。まず答えを出す。この順番を家庭で徹底するだけで、過去問の得点は動き始めます。
馬力の燃料は「志望校への具体的な意識」
最後にもう一つ。馬力は気合で出るものですが、気合には燃料が要ります。その燃料が、志望校への具体的な意識です。
なんとなくあの学校がいい、という程度では、変な数字の前で踏ん張れません。この学校のこの部活に入りたい。この授業を受けてみたい。卒業したらこういうことをしたい。そこまで具体的に思い描けている子は、試験中に怪しい分数が現れても、もう一段押し込めます。
週に一度、過去問を解く前に、学校案内や説明会の資料を開いて親子で5分だけ話す時間をつくってください。算数とは無関係に見えて、これがもっとも費用対効果の高い過去問対策かもしれません。
6年の過去問で算数が取れない原因の多くは、知識の不足ではなく、変な数字の前で止まってしまう「馬力」の不足です。明日の過去問演習から、消しゴムを机の上から片づけてください。子どもは不満を言うでしょうが、美しい答案で涙をのむより、汚い答案で桜を咲かせるほうがずっといい。
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