【医学部・早慶 全員合格】偏差値70超えの英語クラスが歩んだ奇跡の一年|華の2018年期
華の2018年期

ふと、2018年のことを思い出しています。あの年、私が担当していた英語の上級早慶医学部コースには、少し不思議な顔ぶれがそろっていました。中学3年生から高校3年生まで、学年はばらばら。教室に入ると、まだあどけなさの残る中学生の隣に、受験を目前にした高校3年生が当たり前のように座っている。一見すると、ずいぶん統一感のないクラスに見えたかもしれません。
けれども、英語力という物差しを当ててみると、彼らはぴたりとそろっていました。全員が河合塾の模試で偏差値70~80を超えていたのです。学年ではなく、実力でつながった仲間たち。年齢の差など、教室の中ではほとんど意味を持っていませんでした。中学生が高校3年生と同じ英文を読み、同じ設問に頭を抱え、ときには先輩より先に正解にたどり着く。そんな光景が日常でした。
彼らの毎日は、今振り返っても驚くほどストイックでした。学校のクラブ活動には一切入らない、あるいは途中でやめてしまう。学校が終わるとそのまま塾へ直行し、自習室で勉強や宿題に取りかかる。授業のある日は授業を受け、ない日も机に向かい続ける。そして夜11時を過ぎてようやく、家路につく。それを週6日、当たり前のように繰り返していました。
こう書くと、ずいぶん息の詰まる青春のように聞こえるかもしれません。でも、私の目に映っていた彼らは、決して暗い顔をしてはいませんでした。あえて言うなら、あの塾こそが彼らのクラブ活動だったのだと思います。同じ目標を持つ仲間と同じ時間を過ごし、休憩時間には他愛もない話で笑い合い、模試の結果に一喜一憂する。部活の仲間が汗を流しながら絆を深めるように、彼らは机を並べながら、互いを支え合っていました。夜遅い自習室に灯る明かりと、そこから漏れてくる小さな笑い声を、私は今でもはっきりと覚えています。
授業をしていて、あれほど手応えを感じた時期はそう多くありません。少し難しい構文を投げかけると、すぐに鋭い質問が返ってくる。こちらが用意した解説の一歩先を読んでくる生徒もいる。教える側も気を抜くことができず、毎回の授業が真剣勝負のようでした。それでいて、教室にはどこか温かな空気が流れていました。年下の子が先輩に質問し、先輩が得意げに教える。その姿を見ているだけで、こちらまで嬉しくなったものです。
そして迎えた結果は、まさに黄金期と呼ぶにふさわしいものでした。慶應義塾大学、早稲田大学、東京工業大学、そして医学部では日本医科大学、順天堂大学、東邦大学、杏林大学、東京医科大学、昭和医科大学、北里大学、埼玉医科大学。あのクラスに在籍した生徒は、全員がそれぞれの志望校に合格し、入学を果たしました。一人の取りこぼしもなく、です。
合格の報告を受けるたびに、私は彼らが過ごしてきた夜の時間を思い出しました。週6日、夜11時まで。部活も遊びも後回しにして積み上げてきたものが、ようやく形になった瞬間でした。あの子たちの努力は、誰よりも近くで見てきた私が一番よく知っています。だからこそ、その知らせは自分のことのように、いえ、自分のこと以上に嬉しいものでした。
ただ、この話には少し寂しい続きがあります。あの塾は、今はもうありません。塾長がほぼ一人で切り盛りしていた、いわばワンマン経営の塾でした。良くも悪くも塾長の情熱そのものが塾の形をしていて、その熱があったからこそ、生徒たちはあそこに集まってきたのだと思います。その塾長が、がんの手術を経て他界されました。塾長を失った塾は、その灯を静かに閉じることになりました。
今でもときどき、あの教室の風景を思い浮かべます。学年の違う子たちが同じ机に並び、同じ英文に向き合っていた時間。夜遅くまで消えなかった自習室の明かり。廊下ですれ違うたびに交わした短い会話。そして、そのすべてを見守っていた塾長の姿。場所はなくなってしまっても、あそこで過ごした日々が消えてしまったわけではありません。
あのときの生徒たちは今、研修医として病院で奮闘し、厚生労働省のキャリア官僚として国の医療行政を担い、外資系コンサルタントとして世界を相手に仕事をしています。それぞれが選んだ道で、それぞれの持ち場で活躍しているのです。彼らがあの塾で手にしたのは、合格という結果だけではなかったと私は信じています。目標に向かって仲間と走り続けた経験、自分を信じて積み重ねる力。それはきっと、これから先の人生でも彼らを支え続けてくれるでしょう。
華の2018年期。私にとってあの一年は、教師として最も誇らしく、そして今となっては少し胸の奥がきゅっとなる、かけがえのない時間です。あの教室で出会えたすべての生徒たちと、あの場所をつくってくれた塾長に、心からの感謝を込めて。
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