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算数の成績が伸び悩んでいる小学生・中学生の保護者様 テーマ:演習密度を劇的に高める「トスバッティング式」学習法について

2025/12/30

「トスバッティング」と「偏差値」の意外な相関関係について

神奈川にある教室の窓から、丹沢の山々の稜線を眺めていると、その動かない静けさに心を洗われることがあります。 しかし、こと学習において「動かない」というのは、あまり歓迎すべき事態ではありません。

教室で生徒の様子を観察していると、興味深い現象に気づきます。 机に向かっている時間は長い。けれど、鉛筆が動いている時間は、その半分にも満たないのではないか。 これは、いわば「料理番組を見ているだけで、野菜を切っていない」のと同じ状態ですね。

今日は、僕が普段の指導、特にオンラインでのマンツーマン指導において実践している、少し特殊な演習スタイルについてお話ししようと思います。 野球の練習メニューである「トスバッティング」をご存知でしょうか? あれを算数に応用すると、驚くほど学習密度が上がるのです。

なぜ、一人の勉強は「隙間」だらけになるのか

まず、現状の構造的な欠陥から整理しましょう。 成績が伸び悩む生徒の多くは、能力が低いわけではありません。「アイドリングの時間」が長すぎるのです。

集団授業では、講師が解説し、生徒がそれを聞く。そして「解いてみよう」となる。ここにはどうしても待機時間が生まれます。 また、独学の場合、わからない問題で手が止まります。5分、10分と天井を見上げている時間。 ご本人は「考えている」つもりでも、脳科学的に見れば、それは思考停止に近い状態であることが多い。

この「無駄な空白」を極限まで削ぎ落とし、脳を強制的にトップギアに入れ続けるにはどうすればいいか。 そこで僕が導入しているのが、スポーツのトレーニング理論を応用したメソッドです。

思考の持久力を鍛える「トスバッティング」

野球のトスバッティングは、ピッチャーが投げる球を待つのではなく、横からコーチがトントントンと投げるボールを、ネットに向かってリズミカルに打ち返す練習です。

僕の指導では、これを算数で行います。 僕が生徒の横(オンラインなら画面の向こう)に陣取り、厳選した問題を一問、生徒の前に「トス」します。 生徒はそれを「打つ(解く)」。

ここでの最重要事項は**「リズム」「介入のタイミング」**です。

生徒が問題を解いている間、僕はただ待っているわけではありません。 鉛筆の動き、視線のさまよい方、表情の曇り具合をモニターしています。

  • 計算の手が止まって30秒。

  • 方針を間違えそうな気配がある。

その瞬間、僕はすかさず介入します。「ここは比を使おう」「図を描いて」と短いヒントを出す。あるいは「この問題は飛ばそう」と判断する。 逆に、生徒が「ゾーン」に入っているときは、僕は空気になります。そして解き終わったコンマ1秒後に「はい、次」と新しい問題を出す。

この呼吸が噛み合ったとき、通常の授業の2倍、3倍の演習量をこなすことが可能になります。 「解ける」という感覚を連続して脳に浴びせること。これが、算数における「再現性」を高める最短ルートなのです。

ご家庭で再現するための3つのステップ

このプロの技術を完全に再現するのは骨が折れるかもしれませんが、エッセンスを取り入れることは可能です。 もしご家庭でお子様の勉強を見る機会があれば、以下の3点を意識してみてください。

  1. 問題を「一品料理」で出す ドリルを1ページ渡して「やっておいて」では、ペース配分が子供任せになります。 問題をハサミで切る、あるいは一問ずつ拡大コピーするなどして、目の前の「一問」だけに集中させてください。

  2. 「30秒ルール」の適用 鉛筆が30秒止まったら、それは「考えている」のではなく「困っている」合図です。 すぐに声をかけ、ヒントを出すか、答えを見せて解説に移ってください。悩む時間は、基礎練習においてはノイズです。

  3. 「正解」の直後こそ畳み掛ける 一問解けたら、すぐに丸つけをし、間髪入れずに次の問題を提示します。 「よくできたね」と褒めるのは全セットが終わってからで構いません。正解した時の脳の興奮状態を利用して、次の問題へ誘導するのです。

結び

勉強を「苦行」ではなく、リズムゲームやスポーツのように捉え直すこと。 淡々と、しかしリズミカルに問題を処理していく感覚を一度掴めば、子供たちの顔つきは変わります。 「勉強した」という主観的な疲労感ではなく、「解きまくった」という客観的な爽快感を得られるからです。

もし、お子様の鉛筆が止まっている時間が長いなと感じたら、横からボールをトスしてあげる伴走者が必要かもしれません。 僕のオンライン指導では、この「トス役」を徹底して行います。 タイミングよくボールが来れば、誰だってバットを振りたくなるものですから。

【Next Step】 もし、「うちの子のペースメーカーになってほしい」「プロのタイミングで演習量を最大化してほしい」と感じられましたら、マナリンクのチャット機能からお気軽にご相談ください。 現在の学習状況をお聞きした上で、最適な「トス」の速さと種類をご提案させていただきます。

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