志望校対策という名の幻想。偏差値60に届く本質的な「難易度」分析
中学受験という名の「情報戦」において、多くの親御さんが陥る罠があります。 それは「この学校は図形が出るから、図形だけをやる」といった、根拠の薄い単元特化型の対策です。
国際関係学の世界では、相手の過去の動向だけを見て未来を予測することを「生存者バイアス」や「不完全な帰納法」と呼びます。 入試も同じです。 出題者という「変数」が変われば、昨日までの常識は明日の非常識に変わります。
今回は、マナリンクで全国の生徒を指導する僕の視点から、合格最低点を最短距離で超えるための真の戦略を提示しましょう。
なぜ「単元別の山勘」は外れるのか
灘や開成、あるいは僕の拠点である神奈川の聖光学院や栄光学園といった、突き抜けたトップ校には確かに独自の「文化」としての出題傾向が存在します。 しかし、それ以外の大多数の学校において「この学校は〇〇が出る」と言い切るのは、単なる営業トークに過ぎません。
出題担当の教員が交代すれば、傾向は一晩で変わる
学校経営の方針転換により、問いたい能力(スキルセット)が修正される
たまたま数年続いた傾向を、塾側が「対策」としてパッケージ化しているだけ
「去年はニュートン算が出たから、今年も出るはずだ」と信じて、他の単元を疎かにする。 これは、情報の断片に縋り付いて自滅を待つ、非常に良質な「養分」の思考回路です。 戦略家を自称するならば、そのような不確定な賭けに子供の未来を投じるべきではありません。
攻略すべきは「単元」ではなく「難易度の階層」
では、何を対策すべきか。 答えは明白です。その学校が求めている「難易度のレベル感」を網羅することです。
算数において、問題の難しさは単元ではなく、思考のステップ数と計算の煩雑さで決まります。 偏差値40から60への逆転合格を狙うなら、特定の単元を深掘りする前に、全単元において「偏差値60レベルの標準問題」を完遂できる能力を身につけるべきです。
志望校の過去問から「合格者の平均得点」を算出する
その得点を取るために「絶対に落とせないレベルの問題」を定義する
そのレベルに該当する問題を、単元を問わず全方位的に潰す
これが最も合理的で、リスクヘッジの効いた戦い方です。 「図形が出なかったから落ちた」という言い訳は、単なる準備不足の露呈でしかありません。
記述や作図は「微調整」の問題に過ぎない
よく「記述がある学校だから、記述対策を専門にやらなくては」と焦る方がいます。 僕から言わせれば、それは単なるアウトプットの形式の差であり、本質ではありません。
普段から算数を「算数として」ではなく、論理的な作業として捉え、式を丁寧に書く習慣があれば、形式が記述になろうが記号選択になろうが、対応力は変わりません。
答えだけを求める:100 - 80 = 20
記述を求められる:全量100から消費分80を引くと、残りは20となる
この程度の変換は、解法のロジックさえ構築できていれば数日の練習でアジャスト可能です。 それよりも、どの単元が来ても「解法の糸口」を見つけられる抽象化能力を鍛える方が、遥かに合格への期待値は高まります。
戦略的結論:明日から親がすべき「非情な決断」
もし、あなたのお子さんが「志望校に出ないから」という理由で、苦手な単元から逃げているなら、今すぐそのテキストを突き返してください。
中学受験は、志望校との恋愛ではありません。 提示された問題を、制限時間内に、隣の受験生より一問多く正解するだけの「スコアアタック」です。 特定の分野に固執する真面目さは、このゲームにおいては往々にして「弱点」となります。
ノートを綺麗に書く暇があるなら、計算の行数を減らす工夫をさせる
単元別の傾向を調べる暇があるなら、全範囲の典型題をランダムに解かせる
冷徹に、そして合理的に。 感情を排して「難易度の壁」を突破することだけを考えてください。 それができない家庭は、残念ながら偏差値60の世界には招待されません。
さて、次はどの単元を「捨て問」として定義し、どのレベルまでを「絶対死守」とするか。 その冷徹な選別こそが、僕たち大人の役割なのです。