中学受験算数「問題文がわからない」は教えるな|本番で詰む理由

中学受験の算数で、お子さんに「この問題文、意味がわからない」と言われたとき、丁寧に読み解いてあげていませんか。その親切は、入試本番の50分で確実にお子さんの首を絞めます。
僕は生徒から「先生、この問題の意味がわからないので教えてください」と頼まれると、決まってこう返します。もう一回だけ読んでみて。それでもわからなかったら説明するから。
結果をお伝えしましょう。もう一回読んだうえで「やっぱりわかりません」と戻ってきた生徒は、これまで一人もいません。そして全員、その問題文の意味をきちんと理解しています。
「問題文がわからない」は子ども語の翻訳ミスである
子どもが口にする「わからない」は、大人の「わからない」とは別の言語です。翻訳するとこうなります。この問題を理解するのが、めんどくさい。
長い文章題、条件が3つも4つも並ぶ問題、図と文を行き来しないといけない問題。予習シリーズの応用問題や演習問題集の後半に並ぶあの手の問題を前にすると、子どもの脳は瞬時に損得を計算します。自分で読み解くコストと、大人に「わからない」と言って読み解いてもらうコスト。後者のほうが圧倒的に安い。実に合理的な判断です。困ったことに、子どもはこういうときだけ優秀な戦略家になります。
そして真面目な親御さんほど、この交渉にあっさり応じてしまう。わが子が困っているのだから助けたい。その気持ちはわかりますが、子どもから見れば「わからないと言えば読んでもらえる」という必勝パターンの学習が、今日も一つ完了したことになります。
解き方は教えていい。問題文の意味は教えてはいけない
ここは線を引いておきます。
解き方がわからない → 教えてよい。知らない道具は、教わらなければ一生持てません。
問題文の意味がわからない → 教えてはいけない。読む力は、本人が読むことでしか育ちません。
なぜここまで頑なになるのか。理由は単純で、入試本番の教室には、問題文を読み解いてくれる大人が一人もいないからです。
家で「わからない」と言うたびに誰かが説明してくれる。塾でも手を挙げれば講師が噛み砕いてくれる。これを1年、2年と続けた子は、問題文を自分で読み切る経験がほとんどないまま2月1日を迎えます。
本番の答案用紙の前で、その子の頭に浮かぶのはいつもの言葉です。この問題、わからない。ただし今回は、誰も来てくれません。つまりその問題は、解き方を知っていても解けない。模試や組分けテストで「解説を読めばわかるのに、本番では手が出なかった」と嘆く答案の多くは、実はこの構造で点を落としています。
6年秋の過去問で「読めない病」は一気に表面化する
5年生までの塾のテストは、問題文が比較的短く、出題範囲も予告されています。「今週は速さ」とわかっていれば、文章をろくに読まなくても解き方の見当がつく。問題文を読まずに解けてしまう環境が、読めない病を覆い隠しているわけです。
ところが6年の秋、過去問に入ると事情が変わります。単元の予告はなく、問題文は長く、学校によっては会話文や独自のルール説明が半ページ近く続く。ここで初めて、問題文を読み切る体力のなさが得点に直撃します。
過去問の算数で点が取れないと相談を受けたとき、僕が最初に確認するのは解法の知識ではありません。問題文を最後まで読んだか。条件に線を引いたか。聞かれていることを取り違えていないか。知識不足ではなく読解の放棄で落としている失点が、驚くほど多いのです。
家庭でできる「もう一回読んで」の作法
では、明日から何をすればいいのか。やることは拍子抜けするほどシンプルです。
子どもが「問題文の意味がわからない」と言ってきたら、説明せずにこう返してください。もう一回だけ読んでみて。それでもわからなかったら一緒に考えよう。
これだけです。ただし、効かせるための作法が3つあります。
声を荒げない。「ちゃんと読みなさい」と叱ると、子どもは読む前に萎縮します。淡々と、もう一回、とだけ言う。
「それでもわからなかったら説明する」という約束を必ず添える。見捨てられたと感じさせないことが、もう一回読ませる燃料になります。
2回目でわかったら、そこで終わりにする。「ほら、読めばわかるでしょう」の一言は余計です。自分で読めたという手応えだけを残してください。
もう一回読み直してもなお本当にわからない場合、それは読解の問題ではなく、知らない言葉や知らない解き方が混ざっているサインです。そのときは堂々と教えてください。教えるべきは言葉の意味と解き方であって、文章を読むという作業そのものではありません。
子どもの「わからない」に即答する親は、良質な養分である
厳しい言い方をします。子どもの「わからない」に即答し続ける親御さんは、教育産業から見ると非常にありがたい存在です。読む力が育たないまま6年秋を迎え、過去問で崩れ、慌てて個別指導を追加する。良質な養分とは、まさにこの流れのことを言います。
明日から親がすべき決断はひとつ。問題文の意味を聞かれても、説明したくなる口をぐっと閉じて、もう一回、とだけ言うこと。親切を我慢するのは、解き方を教えるよりずっと難しい。けれど、本番の教室にいるのはお子さん一人だけです。
中学受験の算数で問題文がわからないのは、多くの場合、能力ではなく読む手間を惜しむ習慣の問題です。解き方は教えても、読むことだけは本人に任せる。この線引きが、本番で自力で得点する子を育てます。
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