算数 図形で補助線が引けない子へ|線より先に数を書け
算数の図形で補助線が引けない。この悩みの正体は、センスの欠如ではありません。「正解の線」を探しているうちに、手が止まっているだけです。
先日の授業でも、受験生が図形の問題を前に鉛筆を止めていました。僕が「まず適当に1本引いてごらん」と言うと、返ってきたのは「どこにどう引けばいいか分かりません」。この一言に、図形が苦手な子の症状がほぼ全部入っています。
なぜ、補助線が引けない子は手が止まるのか
結論から言います。補助線の位置を当てにいくゲームだと思っているからです。
入試の図形は、正解の線を一発で見抜く競技ではありません。分かる場所を一つずつ増やしていき、気づいたら答えに手が届いている。そういう「陣取り」に近いゲームです。ところが、手が止まる子は最初の一手に全財産を賭けます。外したら恥ずかしい、無駄になる、と考えて何も書かない。何も書かないので、図形は一生見え方が変わりません。
家庭学習でよく見かける光景があります。保護者が横から「ここに線を引いたら?」と言ってしまうパターンです。親切心なのは分かりますが、これをやると子どもは「線は人に引いてもらうもの」と学習します。授業中、僕は引いてあげませんでした。「人にやってもらっていると、一生できなくなる」からです。冷たいようですが、これがいちばん温かい。
線を引く前に、分かる場所の面積を全部書き出す
では、手を止めないために何をするか。補助線の前にやることがあります。分かる場所の面積や長さを、図にどんどん書き込むことです。
先日扱ったのは、正方形が組み合わさった図形の面積問題でした。小問1で正方形の面積が225と求まっています。そこで子どもは「この問題、知らない」と言いました。気持ちは分かります。マニアックな問題でした。
でも、解き方が分からなくていいのです。僕が言ったのは次の一言です。
「解き方が分からなくても、分かる場所の面積を書き出す。これが受験の問題の解き方だ」
225から一辺は15と分かる。隣の正方形は面積36なので一辺は6、その隣は25で一辺は5。分かるところを書いていくと、図形の方からヒントを返してきます。解法を思いつくのではなく、図形に白状させる。尋問に近い発想です。
ここで、使うかどうか分からない場所も書いて構いません。実際、授業では「使うかどうかは知らないが、ここは出る」と言いながら進めました。不要な数が増えても減点はされません。手が止まる方が、よほど高くつきます。
小問1は、小問2のヒントとして置かれている
もう一つ、図形が苦手な子が見落とす構造があります。後ろの問題ほど「誘導問題」になっている、という点です。
小問1で三角形の面積を求めさせたなら、それは小問2以降で使うために置かれた部品です。出題者は理由なく面積を聞きません。だから困ったら、小問1と小問2の答えを見返す。「なぜ、わざわざここの面積を求めさせたのか」と自分に問う。
この問いが立つだけで、子どもの視線は変わります。授業では、色の違うペンで二つの三角形をなぞらせました。赤で一つ、青でもう一つ。なぞった途端、「あ、そうか」と声が出ました。見えていなかったのではなく、見ようとしていなかった。人は、なぞると見え方が変わります。
補助線は「適当に1本」でいい。ただし守るルールが二つ
補助線に戻りましょう。適当に引けと言いましたが、無秩序でいいわけではありません。僕が算数の師匠から教わった二つの型があります。
図形の基本は三角形。三角形を作るように線を引く。
90度は貴重品。90度を切らないように、むしろ90度を作るように引く。
たとえば、75度と45度が見えたら、差の30度がどこかに隠れています。すると二等辺三角形が出てくる。等しい辺が12cmで頂角が30度なら、等しい辺の一方を底辺と見たとき、高さは三角定規の比で6cm。面積は 12 × 6 ÷ 2 = 36 です。75度は、この業界に長くいると「出てきたな」と思う角度です。
こういう定石は、知っていれば使える。でも、最初から全部知っている子はいません。だから「適当に引く → 違ったら消す」を繰り返して、定石を体に入れていく。何度も同じ種類の問題を見た大人には簡単に見える三角形が、子どもには見えない。量をこなすしかない部分が、算数には確かにあります。
文字の置き方で、図形以前に失点する
最後に、図形と同じくらい失点を生む罠を一つ。長さを文字で置く場面で、違う長さに同じ記号を使ってはいけません。
台形の面積が59.4㎠、高さが9cmとします。上底と下底の和は 59.4 × 2 ÷ 9 = 13.2。上底は下底より3.4cm短い。このとき上底も下底もA、と置いてしまう子がいます。同じAなら、二つの長さは同じになってしまいます。和が13.2、差が3.4と整理すれば、上底は(13.2 - 3.4)÷ 2 = 4.9、下底は 4.9 + 3.4 = 8.3。検算は 4.9 + 8.3 = 13.2 で合っています。
問題文を声に出して読ませると、この種のミスは減ります。音読すると理解力が上がる、というのは本当です。焦る気持ちは分かりますが、読む時間を惜しんだ子から順に、点を落としていきます。
明日から親がやる、非情な決断
家庭でできることは、実は多くありません。
線を引いてあげない。ヒントは「分かるところを書いてごらん」まで。
小問1の答えを、小問2の横に書き写させる。
色の違うペンを2本、机に置く。
要するに、保護者の仕事は「答えを教える人」から「ペンを渡す人」への降格です。降格はつらいですが、昇進するのは子どもの方です。
図形の補助線が引けない原因は、線ではなく、手が止まる習慣にあります。分かる場所を書き出す。小問1を使う。適当に1本引いて、違えば消す。この三つで、図形はちゃんと動き出します。
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