場合の数が苦手なのは「5×4×3×2×1」の丸暗記のせい

場合の数が苦手な子の多くは、問題が解けないのではありません。「5×4×3×2×1」という便利な計算を、その中身である樹形図ごと理解しないまま丸暗記している。それが苦手の正体です。
面談でよく聞く相談に、場合の数だけテストのたびに点数が乱高下する、というものがあります。単純な並べ方は満点なのに、少しひねられると全滅する。ご家庭では「ケアレスミスかしら」で片づけられがちですが、違います。これは注意力ではなく、構造の問題です。
場合の数が苦手な子が「積の法則」で止まってしまう理由
5人の子どもを左から順に並べると、並べ方は何通りか。5×4×3×2×1=120通り。いわゆる積の法則です。
この計算は家庭でも教えやすく、中学受験を経験していない親御さんが教えるときも、ほぼ例外なくここから入ります。子どもも大好きです。かけ算をするだけで丸がもらえるのですから、嫌いになる理由がありません。
ところが入試は、この計算がそのまま通る問題をほとんど出してくれません。同じ数字のカードが混ざる、0が入る、条件で一部が除外される。条件を一つ足すだけで、積の法則は何食わぬ顔で間違った答えを返してきます。
たとえば、1, 1, 2, 3, 4 の5枚のカードを並べる問題。同じカードが2枚あるので、5×4×3×2×1=120通りは誤りです。さらに、1, 1, 1, 2, 3 の5枚から3枚を選んで3けたの数を作るとなると、もうかけ算一発では解けません。次のように場合を分けて数えることになります。
3枚とも違う数字(1・2・3)のとき:6通り
1が2枚と、2か3が1枚のとき:6通り
1が3枚のとき:1通り
合わせて13通り。ここで手が止まる子は、計算が苦手なのではありません。計算しか持っていないのです。
場合の数の「パターン暗記」が偏差値50前後で頭打ちになる理由
では、問題を型ごとに分類して、それぞれの解き方を覚えさせればいいのか。多くの家庭がこの道を選びます。そして多くの家庭が、偏差値50前後で足踏みします。
理由は単純です。子どもにとって一番難しいのは、解き方を覚えることではなく、問題を読んで「これはどの型か」を見分けることだからです。しかも型ごとの解き方はただの計算なので、とても抽象的です。見分けにくい分類を、抽象的な手順とセットで覚える。大人でも音を上げる作業を、10歳の子に課しているわけです。
型の暗記は、塾のテキストの章立てに沿って出題されているうちはよく機能します。テストの問題用紙には章の名前が書いていない。その事実に気づくのは、たいてい本番の教室です。
計算は「樹形図を圧縮したもの」にすぎない
そもそも「5×4×3×2×1」は、樹形図を抽象化したものです。最初の枝が5本、そこから分かれる枝が4本、さらに3本。どの枝をたどっても本数がそろっているから、かけ算でまとめて数えられる。それだけの話です。
逆に言えば、枝の本数がそろわないなら、かけ算は使えません。先ほどの13通りの問題を樹形図にすると、枝が3本の所、2本の所、1本の所がばらばらに出てきます。

1, 1, 2, 3, 4 の並べ方も同じです。2枚の1を区別すれば120通り。区別しなければ、同じ並びを2回ずつ数えていることになるので、120 ÷ 2 = 60通り。樹形図が頭に浮かぶ子は、この「÷2」の意味がわかります。浮かばない子にとっては、また一つ覚える公式が増えただけです。
場合の数が苦手な子のための樹形図トレーニング
僕が指導で徹底させているのは、次の3つです。
枝は必ず小さい順に書く
一段ごとに枝の本数を数え、そろっていればかけ算に切り替える
書き切れない大きさなら、最初の枝1本分だけ書いて何倍かする
小さい順に書くのは、漏れと重複を防ぐためです。思いついた順に書く子は、ほぼ確実にどこかで一つ落とします。
二つ目が核心です。0, 1, 2, 3 の4枚から3けたの数を作るなら、百の位に0は来ないので最初の枝は3本、次は3本、最後は2本。どこから見てもそろっているので、3×3×2=18通りと計算に切り替えてよい。計算を禁止する必要はまったくありません。樹形図の裏づけがあるときだけ使う。それがルールです。
三つ目は時間対策です。全部書いていたら試験が終わります。最初の枝の1本だけを書き切り、他の枝も同じ形になるかを確かめてから何倍かする。これで樹形図は「遅いけれど確実な方法」から「速くて確実な方法」に変わります。
練習は難しい問題でやる必要はありません。予習シリーズでも新演習でも、場合の数の単元の基本問題で十分です。計算で答えが出せる問題こそ、一度は樹形図を全部書かせてください。答え合わせではなく、計算と樹形図の答え合わせをするのです。
明日から親が下すべき非情な決断
「5×4×3×2×1」を教えるのは、親として気持ちのいいものです。即効性があり、子どもも喜び、丸も増える。ただしそれは、場合の数という単元から一番大事な部分を抜き取って渡す行為でもあります。手軽な近道で点数を買い、そのツケを入試本番で払う。受験業界から見れば、実に良質な養分です。
決断は一つで十分です。家で場合の数の宿題を見るとき、答えが合っていても「樹形図で確かめて」と言ってください。嫌がられます。間違いなく。それでも、樹形図から逃がさない。これだけで、場合の数の点数の乱高下は落ち着いていきます。
場合の数が苦手な原因は計算力ではなく、計算の元になる樹形図が頭の中にないことです。僕のマナリンクのプロフィールにある「中学受験プロによる予習シリーズ専門の算数サポート」では、こうした単元ごとのつまずきを、樹形図のような具体的な姿まで戻して立て直しています。無料相談も受け付けていますので、場合の数だけ点数が読めないと感じたら、一度様子をお聞かせください。
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