旅人算の比がわからない原因は、1対1の見落とし
旅人算の比がわからない。そう悩むお子さんの答案を見ていると、比の計算そのものより前に、「いま自分はどの比を置いたのか」が曖昧なまま走り出しているケースがほとんどです。計算力の問題ではありません。比を置く前の一手が抜けている。これが、中学受験の旅人算で偏差値の壁にぶつかる最大の原因だと僕は見ています。
旅人算の比で止まる子は、なぜ毎回同じ場所で止まるのか
塾のテキストでは、出会い算、追いかけ算、すれ違い、往復、グラフと、単元が小分けにされています。親から見れば別々の問題、子どもから見ればなおさら別々の問題です。そこで子どもは、問題の種類ごとに解き方を丸暗記しようとします。
暗記した型は、数字や設定が少し変わっただけで折れます。先日の授業でも、調子のいい日は次々正解するのに、疲れた途端に「あれ、どうやるんだっけ」と手が止まる生徒がいました。そのとき僕が聞いたのは、解き方ではありません。「いま、同じなのは何ですか」の一言だけです。それで手が動き出します。
旅人算の比は、種類が多いように見えて、判断はたった2つに集約されます。
時間が同じ(1対1)なら、距離の比と速さの比は同じ向きになる(正比)
距離が同じ(1対1)なら、速さの比と時間の比は逆になる(逆比)
この2行を、問題を読んだ直後に決める。それが「1対1を探す」という作業です。ここを飛ばして式を立てるから、偏差値50台で足踏みを続ける親子が絶えません。良質な養分、と皮肉られても反論しにくい状態です。
出会い算と追いかけ算は、時間を消して距離の比にする
同時にスタートして出会う、あるいは追いつく。この場合、出会う瞬間まで二人が歩いた時間は同じです。時間が1対1だから、二人が進んだ距離の比は、そのまま速さの比になります。
例題です。450m離れた2地点から、姉と妹が向かい合って同時に歩き出しました。速さの比は5対4です。出会うとき、姉は何m進んでいるでしょうか。
出会い算のキーワードは和です。二人が進んだ距離の合計が450mで、その比が5対4。5 + 4 = 9なので、1あたりは 450 ÷ 9 = 50(m)。姉は 50 × 5 = 250(m)。妹は 50 × 4 = 200(m)で、合計が450になることまで確かめます。
追いかけ算になると、キーワードは差に変わります。60m先を歩く弟を、兄が同時に追いかけます。速さの比は兄が5、弟が2。兄が追いつくまでに兄が進む距離は、という問題なら、差の 5 − 2 = 3 が60mにあたります。1あたりは 60 ÷ 3 = 20(m)で、兄は 20 × 5 = 100(m)。弟は 20 × 2 = 40(m)で、100 − 40 = 60 と差が合います。
和か差か、という判断は、出会う・追いつくという言葉で決まります。ここまでは多くの塾で教える範囲ですから、深追いはしません。問題はこの先です。
同じ距離を進んだら逆比になる、という判断が偏差値60の壁
ここで差がつく問題がこちらです。A君が自分の家からB君の家まで歩くと30分かかります。二人が同時に自分の家を出てお互いの家に向かうと、18分後に出会いました。A君とB君の速さの比を求めなさい。
出会い算なのに、距離も速さも書かれていません。ここで「比で解く」と判断できるかどうかが分かれ目です。
まず、A君は出会ってからB君の家まで、30 − 18 = 12(分)かかります。次に、出会った地点からB君の家までの道は、B君が18分かけて歩いてきた道と同じ距離です。同じ距離を、A君は12分、B君は18分で進んだことになります。
距離が1対1。だから時間の比12対18、つまり2対3が、速さでは逆になって、A君対B君は3対2です。検算は、A君が18分で 3 × 18 = 54、B君が18分で 2 × 18 = 36、合計90。A君ひとりで全体を歩くと 90 ÷ 3 = 30(分)で、問題文と一致します。
この問題を解説なしで解ける子は、「同じ距離」を自分で見つけられる子です。テキストを何周しても、この目が育たないと入試では取れません。
往復の問題は、距離が一定だから時間の比に直す
往復も同じ発想です。行きは時速6km、帰りは時速4kmで歩いたところ、往復に5時間かかりました。片道は何kmでしょうか。
行きと帰りで通る道は同じですから、距離が1対1です。速さの比は 6 対 4、約分して3対2。時間は逆比になるので、行き対帰りは2対3です。合計の5が5時間にあたるので、1あたりは1時間。行きは2時間で、片道は 6 × 2 = 12(km)。帰りも 12 ÷ 4 = 3(時間)で、2 + 3 = 5 と合います。
ひとつだけ注意があります。「帰りは行きの7/8倍の速さ」のように分数で書かれたとき、速さの比は 1 対 7/8 です。そのまま使わず、分母を揃えて整数の比、8対7に直してから進める。比の最初の一歩で小数や分数を残すと、後ろで必ず崩れます。
比を使う作法:記号を揃え、図は縦に長く、答えは図に戻す
解き方が正しくても、書き方が荒れると点は落ちます。僕の授業では、次の作法を徹底させます。
速さの比は丸、距離の比は四角、と記号を決めて、混ぜない。丸3と四角3を同じ土俵に並べた瞬間に、どちらの話か分からなくなる子が山ほどいます。はじきの表も、面倒に感じるくらい毎回書かせます。急ぐ日ほど書く。ここを省略した子が、あとで確実にその分の時間を払います。
図は、小さく描かず、横に長く描く。出会う場所、追いつく場所、折り返す場所に印を打ち、そこに分かった数字を書き込みます。そして最後に、出た答えを図に戻す。図が正確とは限りませんが、答えが図の中でどう見ても長すぎる、短すぎる、という違和感は、立派な検算になります。
明日から親がすべき非情な決断
旅人算が苦手な子の家庭ほど、公式と解き方を増やそうとします。僕の勧める決断は逆です。型を増やすのをやめる。覚える数を減らして、問題を読んだら最初に「何が1対1か」を口にさせる。それだけに絞る。
旅人算の比は、1対1を見つけて、和か差か、正比か逆比かを決めるゲームです。解けない問題の大半は、数学の力不足ではなく、このゲームを始めていないだけです。
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