難解な文章の精読について
2025/5/6
くだらない文章はAIに完訳される
定評こそあれ難解な文章に直面したとき、どのように読み進めればよいか途方に暮れることがあるかもしれない、あるいは、これを悪文であると罵って居直るかもしれない。しかし、こうしたテキストを深く理解することは、批判的思考力や分析スキルの向上を意味する。
共通テスト英語の特に前半部分をそつなく読みこなせることは、もはや無意味になりつつある。AIによる機械翻訳や要約によって、主体が知りたい情報を適宜取り出すことができるからである。リスニングについても、音声言語のスクリプト化は高度に発達しているし、機械翻訳と組み合わせれば、合成音声による吹き替えも可能であろう(現にYouTubeもそれに対応しつつある)。
こうした状況下において、人間のなし得ることの一つは「AIのアウトプットの吟味」であると言われている(この吟味や批判すら代替されかねないが)。したがって、稚拙な内容の外国語は、もはやあまり価値をもたない(感情価値しかないし、感情価値なら母語で十分に享受できる)。少なくとも私にはそう感じられる。
性急に結論を求めずに、難解な文章を批判的に吟味し、自らの思考を鍛え上げていくことが求められている気がしてならない。さりとて、何から始めればよいのか。
文法構造を分析する
難解な文章は一文が長い傾向がある。これは、慣習によるところもあるが、書き手が思考を連鎖させていることに由来する。短く区切ることも可能であろうが、それには推敲や紙幅のコストがかかるため、なされないことも多い。
書き手にとっては馴染みのある思考の連鎖も、読み手にとってはそうではない。このとき、読み手が取り得る戦術は「簡単なところから始める」ことである。つまり、文法構造を明示的に分析することが有効である。主語、動詞、目的語、修飾語といった各語が文中でどのような役割を果たし、どのように他の語と関連しているかを特定する。
文法構造を分析する際に意識すべきは、内容理解を一旦埒外に置くということである。難しい内容の理解を同時におこなおうとすると、認知負荷が大きくなり、文法構造さえ掴めなくなる。
文法構造を視覚的に明らかにすることで、文の構造を明確に把握し、直感だけでは見えにくい関係性や、書き手が犯したエラーさえも発見できる場合さえある(後者は極めて稀ではあるが)。この明示的な分析は、自身の直感がどのように働いているかを意識化し、誤りを特定する助けになるだろう。
ディスコースマーカー(談話標識)に注目する
テキストには、議論の構造を示す「ディスコースマーカー」が散りばめられています。
例えば、
- therefore(したがって)
- hence(ゆえに)
- as a result(結果として)
- consequently(結果として)
- thus(このように)
以上の言葉は、前段に述べられたことが、後段の内容を根拠づけていることを示している。
また、
- a second reason to believe that...(〜だと信じる二番目の理由は…)
のような表現は、論点(主張の根拠)が列挙されていることを示している(一番目の理由のディスコースマーカーが省略されることもある)。
- one might object by saying...(〜と言うことで反論する者もいるだろう)
のような表現は、著者が自身の見解ではなく、想定される反論や他の見解について言及していることを示唆する。これらのディスコースマーカーを見落とさずに、書き手の意図を追跡することで、テキストの正確な理解に繋がるのである。
抽象的な概念を具体的にする
非常に抽象的な文章に出会った場合、理解を助けるために抽象的な言葉を具体的な例に置き換えてみることが有効である(適切な具体例であるかどうかは留保しつつ)。
例えば、「何かの動きは、それを動かすものから得られる衝動の種類に依存する、あるいは後者のものの性質と形状に依存する」という抽象的な文があったとしよう。
ここで「何か」を「石」に、「それを動かすもの」を「手」に置き換えてみると、以下のようになる。
石の動きは、手から得られる衝動の種類に依存する、あるいは手の性質と形状に依存する
元の抽象的なアイデアがずっと理解しやすくなったことが分かるだろう。この作業の後、具体例を取り除いて元の抽象的な文に戻ると、意味がクリアに把握できていることに気がつくはずである。
難解な文章の分析は容易ではないが、議論の構造、特に主張とその根拠の関係性を見つける、抽象的な部分を具体例で考えるといった基本的なテクニックを実践することで、理解を深めることができる。
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