オンライン指導の限界を考える
2025/5/18
逃げの合理と直視の根性
以前、効率的な勉強法ばかりを追い求めて、実行力を欠くことの問題をブログ記事に書いた(https://manalink.jp/teacher/12797/blog/940)。
無論、何の反応もなかったわけであるが、そこでは教師の役割として「根性」を根っこから育てることを挙げた。しかし、そのような昭和風熱血教育ドラマが常にすばらしい結末を迎えるわけではない。むしろ、日常は寒々とした誰も目を向けない悲劇であろう。今回はオンライン指導の限界を、この問題と関連付けて考察してみたい。
オンライン指導は信頼を育むことができるか?
この問いを「ゼロから新たに信頼を生むことができるか」と問い直すなら、答えはノーである。ここで私が見だしの問いを問い直したことに留意していただきたい。私は〈既に成立している信頼関係〉を否定してはいない。私の意見は、信頼関係は両者が出会う前から既に成立しているのであって、いわゆる関係構築は、そこに信頼関係が成立していたことを出会った後に確認し合う作業にすぎないということである。つまり、相性がよかったのである。
無論、初対面のときには、余程の敵意帰属バイアスがある場合は別にして、一定程度の信頼関係が成立している(あるいは成立しうる)ことを想定するのが普通である。新学期の初日にいじめや喧嘩が発生することはまずない。それゆえ、問題はこの想定された信頼関係をいかに崩壊させないかということでもある。
私にとっての家庭教師指導は常にこれである。初めは〈志望校〉や〈現状と要望〉などをもとにして、過度の理想化を避けながら、一定の学生像が自然に形作られる。そして、この期待感が損なわれないことを祈るばかりなのである。私の祈りは何も過度な要求ではない。
- 取りあえず、話を聞いてくれる
- 一度伝えただけでは、相手は理解しないことが多い
- 何度か繰り返し強調すれば、相手はその重要性を理解する
- 理解したからといって、直ちに実行するわけではないことが多い
- 実行するよう励ませば、いつか自ら頑張るようになることもある
- 常識的な自己責任感があり、逆恨みしない
- 嘘をつくことは、悪いことだという認識がある
1〜4を満たさないような人は、そもそも塾やら家庭教師を利用しないだろう。5は微妙であるが、何をどう伝えても頑張らない人は頑張らないから、しょうがないし、逆効果になることもある。適切な時期を待つしかない。これは親の仕事だと思う。6は未成年ゆえの未熟さもあろうが、7は耐えがたい。この手の類いに説得は無力である。必要なのは躾である。親の顔を見ても何の報いにもならない。
リアルでは何故ゼロから新たに信頼が立ち上がるのか
学校現場や対面の塾であれば、全くの偶然により人間的な出会いが生まれ、そこに信頼関係がゼロから新たに生まれる余地がある。リアルな場面では、人間の多彩な側面が開示されやすい。そこに親近感からの関係構築の余地があるのである。
他方で、カメラとマイクという形式に拘束されたオンライン指導の限界はまさにそこにある。家庭教師指導は、空間が大いに制約されており、教師と学生の身体性は極めて窮屈なものになる。どこか道端で遭遇して、ちょっと雑談しながら教室まで歩くといったことは全くない。目と目を合わせて、本気で叱ることもできない。不道徳を犯したときに、「ダメでしょ!ペシン!」などもってのほかである(これは教師の仕事ではないが)。
無論、「軽妙な会話」によって、これを克服することも一定程度は可能であろう。しかし、有意義な会話の肝心要は「想像力」であり、そもそも当人に主体性があり、頭をよく使う人でなければならない(受動的な映像視聴者であってはならない)。ホワイトカラーの大人の仕事がリモートでも成り立つのは、ある程度、脳が育ちきっているからである。
重要なのは「相性=マッチング」である
私の祈りが、マナリンクの講師陣とどの程度共有可能なものであるかは知らない。私は教師には向いていないから、天性の教師はもしかすると、何も祈っていないかもしれない(あるいは自らの祈りに無自覚なほどに学生に恵まれた無垢な教師かもしれない)。
そのようなすばらしい教師に恵まれることを祈るばかりである。
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