【ことばをまなぶ】京ことば、遠まわしな言い回しの裏表~京都人の本意を探る~
2025/5/21
ことばやことばを紡ぐ文章を対象としていますので、ことばの言い回しやそこに込められている真意を解くことは、文章を読解することや実際に書くことに通じます。
今回、京ことばに焦点を当て、京都人の本意を探ってみます。
京都人でありながらも京都本はよく目を通しますが、数日来、柏井壽さんの「京都のツボ」を再読しています。
柏井さんも生粋の京都人で市内にお住まいとのことですが、とかく京都の隅々までよくご存じの方です。
京都に関する著書が多数あり、歴史や文化、京都人しか知らないようなツウなことなど幅広い知識と見識の深さには同じ京都人として脱帽しつつ敬意を払っています。
この書籍のページを繰っていると、そちらには「京都でよく聞く京言葉」として次のようなことばが記されています。
「おいでやす」と「おこしやす」、「おきばりやす」、「考えときます」・「主人にきいてみます」、「よろしおすなあ」、「おおきに」、「おはようお帰り」
たまたま見つけたページですが、なるほど!と共感するとともに自分も使っている言葉でもあるので、今回京都人全てにあてはまるのではなく現実に使っている私の個人的な感覚をご紹介してみようと考えています。あくまでも私感です。
1点補足しますが、ご紹介する京ことばは、お店(飲食店、呉服店、京もののお店)や花街、またまちのお年寄りから耳にすることが多く、若い方が「おきばりやす」、「おおきに」と話されるのは稀だとお考えください。
「考えときます、主人に聞いてみます」
(〇〇〇)へ行きませんか?(〇〇〇)しませんか?とお誘いがあった場合に、考えときますといわれると、紛れもなくお断りの意味です。
気が乗らいない時など、行きません、しませんと明確には言わず返事を少し先送りしたかのように思わせますが、本意は断りますという意志を伝えています。
お相手は、しばらくして返事を待っているかもしれないことがありますが、
「この間の件どうです?」と再度聞くと多くの場合、怪訝な顔をされると思います。
類似のことばとして、「調べときます。○○さんに聞いときます。」がありますが、これも調べる気など全くなしと捉えた方がいいでしょう。
「おきばりやす」
がんばってくださいと励ましの気持ちで使うことが多くありますが、「まあ、がんばりや」とお愛想で使うこともあります。
あまり懇意にしていない人に対していうと相手も同じ気持ちのことが多く、だいたい愛想笑いを返してこられます。
他に、知人と立ち話をして別れ際にそれでは失礼しますの意味で使うこともあります。
花街やお店などで見受けられる、目上(上司)の人から目下(部下)へのあいさつ代りとしても使われているのではと感じられることもあります。
「よろしおすなあ、よろしいなあ」
多くの場合ですが、羨ましいとか、絶賛するとか本当に良いという意味合いで使うことはありません。
よろしおすなあ、よろしいなあの後に心では、「けど(けれども)」といった反対の気持ちや言葉が浮かんでいます。
「おおきに」
率直にありがとうを伝える言葉です。
けれどもこのことばは、なかなか難しく相手の表情や仕草を伺いながら本意を受け取る必要があります。
漱石先生の有名な逸話を一つ
京都へ遊びに来られた際、祇園新橋白川沿いのお茶屋「大友」の女将、磯田多佳と知り合い、お互い意気投合されました。
寝込むほどの体調を崩された漱石先生ですが、この女将はいろいろと世話なり看病をしてくれたこともあり、後日に御礼も兼ねて天神さん(北野天満宮)の梅を見に行こうとお誘いしたとのことです。
女将多佳は、「へえ、おおきに」とだけ答えました。
先生は、約束が取れたと感じたのですが、当日多佳は現れなかったそうです。
このおおきには、お誘いに対する社交辞令として、多佳からのお礼の返事です。
先生も本気でお誘いするのであれば、
日時を伝えてどうか?と聞いて、「お邪魔やおへんか?」となったらこれは約束となります。
仮に日時を伝えたものの、「考えときます」ならお断りと解するべきでしょう。
国民的作家の漱石先生も京ことばのニュアンスにはちょっと苦心され、面食らわれたのではないかと思います。
もう少し付け加えます。
お酒をさらにつがれたり、食事でもう一品追加するがどうですか?の際に、もう必要ありません。十分です。の意味で使うこともあります。
この「おおきに」ですが、本当にありがとうを伝えるときは、
「おおきに、ほんまおおきに」とおおきにを2度言うか、
「おおきに、ありがとう」と私はいいます。
「おはようお帰り」
いってらっしゃいの意味で、早く帰って来るようにとの意味で使うこともあれば、そうでない場合もあります。
お孫さんにおじいちゃんやおばあちゃんが使う時やおかあさんが子どもさん(小学生ぐらい)を学校へ送り出すときは、早よ帰っておいで、怪我せんように、車に気いつけてが愛情と伴にこのことばに含まれます。
「ぶぶ漬けでも」
京都に生まれて育って50数年になりますが、一度も経験していませんし使ったこともありません。
「京都はいけずなまち」というイメージの代名詞として広く知られていますが、現実は存在していないと言い切れます。
捉え方や感じ方はいろいろとあると思いますが、このことばを意図的に使って京都=いけずとイメージさせることこそがいけずと感じています。
【ことばをまなぶ】京ことば、遠まわしな言い回しの裏表~京都人の本意を探る~、いかがだったでしょうか。
婉曲的にいわれてカチンと来たら、不粋と言われようとも私は案外ハッキリともの申しています。これも京都人です。
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