大学入試で何を犠牲にするか?
2025/4/24
挫折と選択 - 東大理三への道で得たもの
「野球を続けるか、東大理三を掴むか——その選択が、彼の人生を形作った。」
都内指折りの進学校。毎年東大へ50名、医学部へは150名以上を輩出する名門校に在籍していたA君は、常に学年3位以内をキープする秀才でした。彼の目標は明確でした。日本最高峰の医学部、東京大学理科三類です。
しかし、A君には二つの情熱がありました。医師になる夢と、高校野球への熱い思い。
「野球部を即刻辞めなさい。東大理三を目指すなら、そんな暇はない」
塾の講師たちは口を揃えてそう忠告しました。東大理三の競争率は年々上昇し、全国から集まる天才たちとの戦いは熾烈を極めていました。総合型選抜入試や推薦入試の枠が拡大する現代の入試事情においても、東大理三への道は依然として狭き門。特に野球部との両立は、ほぼ不可能とされていました。
それでも、A君の信念は揺るぎませんでした。
「最後の夏まで、グラウンドに立ちたい」
朝練習前の5時から自習室で参考書と向き合い、放課後の練習後も深夜まで勉強する日々。仮眠のような睡眠時間、友人との交流も制限される中、彼は二つの情熱を必死に追いかけました。
7月の地区予選、チームは3回戦で敗退。A君の高校野球生活は幕を閉じました。
そこから始まったのは、驚異的な猛勉強でした。部屋から一歩も出ない日々、一日16時間の勉強漬け。スマホを保護者に預け、SNSとの接触もゼロ。彼の集中力と吸収力は周囲を驚かせました。模試の成績は急上昇し、東大理三の合格可能性は見えてきました。
しかし、運命は残酷でした。
本番のセンター試験(現・共通テスト)で思うような点数が取れず、二次試験でも実力を発揮できなかったA君。東大理三への道は絶たれました。滑り止めは一切受けておらず、浪人は避けられない現実となったのです。
ここに、現代の大学入試の矛盾が見え隠れします。大学の約半数が定員割れに苦しむ一方で、トップ校への競争は激化の一途。さらに大学の総定員数はお父様お母様世代の頃よりもむしろ増加しているという皮肉な現実。少子化時代の「青田刈り」競争の中、A君のような受験生は過酷な選択を迫られるのです。
特待生として東京の有名医学部専門予備校に通った浪人生活。毎日の朝から晩までのカリキュラム、毎週の模試、厳しい指導。A君は野球を諦め、全てを勉強に注ぎました。
しかし、運命は再び彼を試します。二度目の受験でも、東大理三の壁は高すぎました。結局、彼が辿り着いたのは、現役時代でも十分合格できたであろう私立医学部でした。
浪人した一年間を振り返ったとき、A君は不思議な充実感を覚えました。野球に打ち込んだ高校時代も、寝食を忘れて勉強に没頭した浪人生活も、決して無駄ではなかったのです。野球から得た諦めない心、チームワークの大切さ。浪人時代に培った孤独との向き合い方、自分を追い込む精神力。どちらも医師として必要な資質だと、彼は今、確信しています。
「回り道をしたからこそ、見える景色がある」
大学入試は単なる学力テストではなく、人生の優先順位を見極める試金石です。何を選び、何に時間を費やすか。その決断が、あなたの人生を豊かにするのです。
A君は今、白衣を纏い、患者と向き合っています。彼の手のひらには、かつてグローブをはめた痕跡と、ペンを握り締めた跡が、共に刻まれているのです。それはまさに、彼の人生の選択と経験の証—最初から「最短距離」を選ばなかったからこそ得られた、かけがえのない宝物なのです。
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