「まだ受験じゃない」は本当? ~ 中高一貫校生が見落としがちな「時間感覚の落とし穴」
「まだ受験じゃない」は本当?
私自身も中高一貫校の出身なのでよくわかるのですが、中高一貫校に通っていると
「うちら高校受験がないから、まだ余裕でしょ」
という言葉を聞くことがあります。確かにそれは、半分は本当です。
中高一貫校には、高校受験という大きなハードルがありません。
受験勉強に追われることなく、部活動や行事、興味のある分野に時間を使える。
これは間違いなく、大きなメリットです。
しかし同時に、この環境には特有の落とし穴も存在します。
それが、「時間感覚のずれ」です。
高校受験がないという「余裕」が生むもの
高校受験がある場合、多くの生徒は中学3年で強制的に勉強と向き合います。
良くも悪くも、「やらざるを得ない状況」に置かれます。
一方、中高一貫生はどうでしょうか。
「受験はまだ先」
「本格的にやるのは高2、高3からでいい」
「おれはまだ本気出してないだけ」
そんな空気の中で、中学・高校前半の時間が静かに過ぎていきます。
問題は、その時間が実はとても貴重だということになかなか気づきにくい点です。
大学受験は、高3の1年間だけで決まるものではありません。
特に中高一貫校の場合、
・数学
・英語
・理科
といった積み上げ型科目の差は、高1・高2では非常に大きなものとなります。
私は、数学については計算力が基礎を支える大きな力となるため、中学の段階ですでにかなりの差がついてしまうと考えています。「まだ受験じゃない」という感覚のまま過ごした数年間は、後になって取り戻そうとしても、簡単には取り戻せません。
実際、私自身も中学1年生の頃に出遅れた数学のハンデを取り戻すのにきっちり6年間かかりました。だいたい、「できる」人たちの半年くらいでどうにかついていって、全範囲を終えた後にようやく少しずつ差を詰めていって、やっと最後に前を行く人の片足にしがみつけたくらいの感覚でした。
高校受験のあるこの時期に、中高一貫生は何をすべきなのか
だからと言って、「今から毎日何時間も勉強しろ」ということではありません。
1月から2月にかけて、中高一貫校では入試などもあり、一般の生徒たちは「自宅学習期間」とは名ばかりの実質休校期間があったりしますので、何となく集中しきれない日々を送ることが多いです。また、学校の入試が終わったと思ったらすぐ学年末試験に突入して、それが終わると終業式に春休みと、新学年を前に少し気が緩みやすい時期でもあります。ですが実は、学力が伸びる人と伸びない人の差がはっきり出る時期でもあります。
成績が伸びる人は、この2月に「学習量」を増やすのではなく、これまでの学習の整理と振り返りに時間を使っています。
成績が伸びる人が年度末にやっていること
① 1年間の学習を「棚卸し」をしている
「棚卸し」とは、お店や会社が、持っている商品や材料の数を、帳面だけでなく実際に確認する作業のことです。
伸びる人は、まず立ち止まります。
そして、自分にこう問いかけます。
・どの単元をしっかり理解できているか
・どの単元が曖昧なままか
・「できるつもり」になっているものはないか
・忘れかけている公式や定理はないか
ノートや問題集を見返しながら、理解が浅い部分に印をつけたり、まとめていく。
この作業は地味ですが、非常に効果的です。
② 「間違い」を放置しない
成績が伸びない人ほど、「終わったテスト」、「終わった単元」をそのままにします。
一方、伸びる人は、間違えた問題を見て「なぜ間違えたのか」、「どこで理解が止まっていたのか」を把握しようとします。
特に、中学3年生の年度末は、新しい内容をどんどん進める時期ではありません。
過去の間違いを、未来の武器に変える時期なのです。
③ 「勉強のやり方」を見直している
同じ時間勉強しても、成果が違う人がいます。その差は、多くの場合「方法」にあります。
・ノートを写す「作業」だけして満足していないか
・答えを見ただけで「分かったつもり」になって終わっていないか
・演習量や復習時間はきちんと確保できているか
年度末は、こうした勉強法を見直す絶好のタイミングです。
新学年になってから変えようとしても、授業のスピードに追われてしまいます。
科目ごとにできることは何か
それでは、それぞれの科目ごとに、具体的に何ができるかを検討してみましょう。
【数学】
目的:計算力・基礎理解の穴を可視化する
・各単元や問題などについて①「説明なしで解ける」、②「解説を見れば分かる」、③「見ても分からない」の3段階で仕分けする
・計算ミスの多い分野(正負の数、文字式、平方完成、分数処理など)をリスト化
・公式・定理について①「使える」、②「使えるが意味は説明できない」、③「使えない」ものに整理する。
→その上で、「苦手な計算を1単元だけでも総復習して自然に解けるようにする」、「うろ覚えだったり、使えない公式や定理をしっかり把握し、使えるようにする」などの目標を決めて、そのためのスケジュールを組み、実行する。
【英語】
目的:なんとなく読める・書ける状態を脱する
・教科書本文を使い、①「文構造(SVOC)が取れるか」、②「時制や語順が理解・説明できるか」などを確認
・単語帳・学校配布プリントで①「見た瞬間に意味が出る語」、②「見れば思い出せる語」、③「何度見ても曖昧な語」を仕分け
→その上で、「文のつくりを把握する訓練をする」、「単語なら、②だけでもしっかり覚える」などの目標を決めて、そのためのスケジュールを組み、実行する。
【理科】
目的:「分からない」を減らし、「分かる」を増やしておく
・苦手科目の苦手単元を1単元だけでも確認し、しっかりと理解できる状態を作る。
→そのためのスケジュールを組み、実行する。
【国語】
目的:感覚的理解から再現可能な読解へ
・テストの記述問題を中心に、①「何を書けば点が入るのか」、②「なぜ減点されたのか」を分析
・漢字・語彙は「書ける」、「意味を説明できる」の両方を確認
・すでに古典の学習に入っている場合には、古文の単語を把握できているかを確認
→その上で、自分が改善すべき目標を決めて、そのためのスケジュールを組み、実行する。
「まだ受験じゃない」からこそできること
中高一貫校生の最大の強みは、受験に縛られすぎず、学力の土台を整えられる時間があることです。
本来であれば受験に時間を取られるはずだった年度末の時期に、学習の準備を整えられることは大きなアドバンテージですから、これを利用しない手はありません。
① 基礎を整理し、基礎力の不足を埋める
② うろ覚えな箇所や、苦手な箇所についての理解を深める
③ 理解を深めるための準備作業を済ませておく
これらを丁寧にやっておくことで、高1・高2での伸び方はまったく変わってきます。
おわりに ~ 未来の自分を助ける年度末に
「まだ受験じゃない」という言葉は、安心にもなりますが、言い訳にもなります。
年度末は、劇的な変化を起こす時期ではありません。
ですが、この時期にどう向き合ったかは、確実に積み重なっていきます。
未来の自分が、
「あの年度末に整理しておいてよかった」
そう思えるような時間の使い方をしてほしいと思います。
今はまだ、焦らなくてよいですが、同時に目をそらさずに前を見つめていましょう。
そのことが、後で大きな力となって返ってくるはずです。