国語の学びが「美術館体験」に変わる瞬間~アートから考える読解力の磨き方~
絵画鑑賞と読解力はリンクしている!
美術館で絵画を鑑賞して回るとき、私たちは単に「何が描かれているか」という表面的な情報を見ているわけではありません。描かれた対象から当時の時代背景や画家の意図を想像したり、人物のしぐさや陰影の表現に隠された物語に想いを馳せたり――そこには「読む」行為と同じ解釈力が働いています。実はこれは、国語の読解にも通じるものです。
今回は文章を一つの「美術館」として捉え、視覚的な情報の読み取りがどのように文章の読解と関連付けられるのか、夏目漱石の西洋画体験と『源氏物語』を具体例にしながら見ていきたいと思います。「こんなつながりがあるんだ!」と思って頂ける内容になっておりますので、ぜひ最後までお読みください😊
この記事がおすすめな方👉
絵を見ることが読解とどう関係あるのか知りたい
視覚的に楽しみながら、文章を深く読む見方を知りたい
早い時期から「『目に見えないもの』を汲み取る力」を高めたいという方向け
あの漱石も西洋画に興味津々だった!?ウィリアム・ターナーとの出会い
かの近代文学の寵児・夏目漱石は、実は小説家として名を轟かせる前、30代でイギリスに留学しています。留学したは良いものの、漱石は現地での英語学の研究に早々に飽きてしまい、ひたすら書斎にこもって哲学書や西洋文学、心理学書を読み漁る日々を送ります。
一方で、美術館や劇場に足繁く通い、西洋画に関してはかなりの「通」でもありました。中でも19世紀のイギリス最高の風景画家ウィリアム・ターナー(1775-1851)から受けた影響は多大なもので、帰国後の漱石の著作にも度々ターナーの作品が登場しています。
例えば、東京帝国大学での講義録『文学論』(1907)では、ターナーについて以下のような言及が見られます。
(ターナーの『戦艦テメレール号』について)
「海は絵の具のパレットをひっくり返して光り輝いているかのような輝きだ」
―『文学論(上)』(2007)岩波文庫、p.342. 現代語訳は筆者による。
Google Arts & Cultureより
(ターナーの『雨、蒸気、速度 グレートウェスタン鉄道』について)
「雨の中を進む汽車は、ぼんやりとかすみがかって色味がある水の上を走っているかのようだ」
―『文学論(上)』(2007)岩波文庫、p.342. 現代語訳は筆者による。
Google Arts & Cultureより
しかもこの直後、漱石は「ターナーの絵からは、たしかな生命の躍動感が認められる」と、もはやベタ褒めの域にまで達しています。
専門書だけでなく、創作でもターナーの絵は何度か登場しています。有名どころでは『坊ちゃん』で敵役(?)の「赤シャツ」と「野だいこ」が、釣りをしながら「あそこにある島はターナーの絵に出てきそうですな」とドヤ顔で言っている場面があります。
『坊ちゃん』刊行以降、「ターナー島」の愛称で親しまれている松山市の「四十島」(文化遺産オンラインHPより)
ターナー以外にも、ミレイの『オフィーリア』(『草枕』)や『塔の中の王子』(『倫敦塔』)、ジャン=バティスト=グルーズの『少女の頭部像』(『三四郎』)などなど、とにかく西洋画の要素をもりもり取り入れていきました。
このように漱石は、絵画上の色彩の豊かさを文章として具現化させた点でも、同時代の作家たちと一線を画していたと言えます。
日本美術のモチーフとして愛され続けた『源氏物語』
私たちに美術と文学の深くて多彩な関係性を見せてくれるのは、何も近代文学だけにとどまりません。『源氏物語』の物語世界は、日本美術で長くモチーフにされ続けてきました。
例えば「初音」の巻は、明石の君が離れて暮らす娘の姫君(のちの明石中宮)に贈り物をするというシーンです(全編で言うと中巻くらい)。江戸時代には由緒正しい花嫁さんが大名との結婚時に持ち込む調度類の中に、「初音」の場面を豪華絢爛に描いた箪笥や硯箱などが揃えられました(徳川光友夫人千代姫所用)。
婚礼調度類〈徳川光友夫人千代姫所用〉(文化遺産オンラインHPより)
初音蒔絵源氏箪笥(文化遺産オンラインHPより)
源氏物語蒔絵源氏箪笥(文化遺産オンラインHPより)
↑この箪笥には「澪標」・「花宴」・「明石」など、『源氏物語』の中で屈指の諸場面が描かれています。
現代的な感覚で言うと、大ヒットした小説(アニメ・漫画)がグッズ化される現象に近いと思います。しかしその大ヒット作が何百年も前の作品なのですから、いかに『源氏物語』が広く日本アートに浸透していたのかがうかがえます。
🎨アート鑑賞からどう磨く?読解力との共通点!
👀 「見る」だけじゃない!
絵を鑑賞するとき、子どもは自然に「この人どんな気持ちかな?」「何を伝えたい絵なんだろう?」と考えます。📖 国語の読解も同じ!
文章も「書いてあること」をなぞるだけでなく、「作者の意図」や「背景にあるストーリー」を想像する力が大切です。🧠 “行間を読む力”が伸びる!
「行間を読むこと」はテスト(特に小説)だけでなく、人の気持ちを理解したり、多角的に物事を考えたりする力につながります。🌱 感性+学力、両方の成長に!
美術鑑賞を「楽しむ体験」として積み重ねることは、感受性を豊かにしながら、実は国語の力をじわじわと底上げしてくれるのです。
また近年では「オンライン美術館」も充実しており、特にGoogle Arts & Cultureは美術館へ行かずとも名画を鑑賞できるプラットフォームとしておすすめです(しかも無料♪)。
保護者の方々がお子様とご一緒に対話するためのツールとしてもご活用頂けると思います😊
いかがでしたでしょうか?日々の生活の中にも、読解力アップにつながるちょっとした工夫は意外と取り入れられるんです。
今後も、そうしたツールを活用した国語の「プチ学習法」をどんどんご紹介して参ります!