迷宮の出口は「レゴブロック」にあるのかもしれない:灘と聖光、トップ講師が語る算数の正体
朝の秦野は、丹沢の山々が霧に隠れ、まるで世界に僕一人だけが取り残されたような静寂に包まれることがあります。そんな時、ふと「思考」という行為の不確かさを考えます。
多くの親御さんは、算数を「頭」で解くものだと思い込んでいます。しかし、最難関校の一つである聖光学院の数学教諭が語るメソッドを紐解くと、そこには驚くほど「身体的」で「合理的」なアプローチが見えてきます。
今回は、彼が提唱する学習の本質を、僕なりの視点で構造化してみましょう。
1. 指先の感覚が「空間」を支配する
図形が苦手な生徒に共通するのは、図を描く際の「比率」がデタラメであることです。聖光の先生は、幼少期のレゴブロックやミニカーでの遊びが、算数の図形認識に直結したと分析しています。
「触る」ことで長さを掴む:目で見るだけでなく、手でブロックの縦横の比率を感じ取る。これが「3:10」という比率を正確に紙の上に再現する感覚(作図能力)を養います。
物理的な空間把握:架空の街をトミカで構築するような経験が、複雑な立体図形を脳内で転がす「基盤」になります。
もしお子さんが図形で苦戦しているなら、高級な問題集を買う前に、まずは消しゴムや定規を手に取らせて「実物の比率」を体感させるべきかもしれません。
2. 「型」の習得における合理的な反復
「算数は思考力だ。暗記ではない」という言葉を耳にしますが、これは半分正解で半分は不十分です。聖光の先生は、数値を変えただけの徹底的な反復練習の有効性を説いています。
認知心理学に基づいた「数値替え」:問題の文脈(リンゴかミカンか)を変えずに数値だけを変えて解かせることで、脳の負荷を減らし、解法の「アルゴリズム」を最速で定着させます。
7分間の極限集中:ダラダラと解くのではなく、時間内に終わらないほどの量を課し、スラスラと手が動くレベルまで再現性を高める。
これは、プロの料理人が包丁研ぎを無意識にこなすのと同じです。基礎的な「型」がオートメーション化されて初めて、脳は高度な思考へとリソースを割けるようになります。
3. 言語を「図」へ翻訳する技術
「つるかめ算」や「旅人算」といった文章題を、方程式という「抽象」に逃げる前に、**線分図や面積図という「具象」**に落とし込む重要性です。
視覚化の徹底:文章という見えにくい情報を、面積図などの「見える形」に変換する。
解説の自作:聖光の先生は、かつての恩師が全て手書きの図で解説を作ってくれた経験を語っています。これは、解法のプロセスを視覚的に「納得」させるための最も合理的な手段です。
結び
算数という迷宮を抜けるための鍵は、案外、子供部屋に転がっているレゴブロックや、一見退屈に見える数値替えドリルの中に隠されているものです。
「うちの子には才能がない」と嘆く前に、まずは指先の感覚と、徹底した「型」の再現性に目を向けてみてください。論理というものは、常に地味な積み重ねの先にしか現れません。
さて、僕の娘も最近、積み木で何やら複雑な構造物を作っています。将来、算数が得意になる兆しかもしれませんが、今は単に「パパのパソコンを隠すための城」として機能しているようです。おかげで、今日の仕事は少し遅れそうですね。