「スライダー」と「カーブ」を区別しない勇気。中学受験・算数を「大枠」で制する合理的思考法
神奈川の冬の朝は、独特の澄んだ空気感がありますね。塾への道すがら、相模川の向こうに見える丹沢の山々が、妙にクッキリと見える日があります。視界がクリアになるというのは、それだけで少し得をした気分になるものです。
しかし、受験生たちの視界はどうでしょうか。入試が近づくにつれ、「A中学の平面図形は特殊だ」「B中学の論理パズルは対策が難しい」といった、細分化された**「傾向という名の霧」**に視界を遮られてはいないでしょうか。
僕は、神奈川で塾を経営しながらオンラインで全国の生徒を指導していますが、多くの親御さんから「併願校の対策まで手が回らない」という悲鳴に近い相談を受けます。
結論から言いましょう。「特定の学校に特化しすぎる」ことこそが、実は合格から遠ざかる最大の罠です。 今日は、もっと合理的で、かつ再現性の高い「大枠の思考法」についてお話しします。
「専用対策」という名の呪縛が、学習の自由を奪う
受験業界には、特定の学校の名前を冠した「〇〇対策講座」が溢れています。もちろん、敵を知ることは重要です。しかし、その細分化を突き詰めすぎると、大きな副作用が生じます。
それは、「A校専用の回路」を作ってしまうことで、他の可能性を自ら閉ざしてしまうことです。
もしあなたが、一校しか受験せず、その一回に人生のすべてを賭けるという極端な博打に出るなら、その戦略も否定はしません。しかし、現実の受験は併願校を含めたトータルな戦いです。体調や模試の結果次第で、柔軟に志望校を調整しなければならない場面も出てくるでしょう。
特定の学校にしか通用しない「ガラパゴス化したテクニック」ばかりを磨いていると、いざ志望校を変えようとしたときに、全く手も足も出なくなります。これは教育者として、非常に合理的ではない状態だと考えます。
野球のコーチに学ぶ「3つの方向」で整理する思考
ここで、僕の好きな比喩を一つ。野球のピッチングとバッティングの話です。
現代のピッチャーが投げる球種は驚くほど多彩です。フォーク、スライダー、ツーシーム、カットボール……。名前を挙げるだけで一苦労です。もしバッターが、これら数十種類の球種に対して「名前ごとに異なる打ち方」を準備しようとしたらどうなるでしょうか。
おそらく、脳の処理速度が追いつかず、凡退の山を築くことになるでしょう。
ある優秀なバッティングコーチは、選手にこう教えます。
「ボールを球種という名前で分けるな。『落ちる』『右に曲がる』『左に逆方向に曲がる』の3種類だと考えなさい」
実に合理的です。球種の名前という「枝葉」を捨てて、ボールが最終的にどの方向に変化するのかという「本質(大枠)」に集中する。これにより、バッターの準備は劇的にシンプルになり、あらゆるピッチャーに対応できる汎用性が生まれます。
算数の問題を「抽象化」して横に並べる
算数の学習も、これと全く同じです。問題の形式や出題のクセという「球種の名前」に惑わされてはいけません。
僕が指導の際、生徒に徹底させているのは**「複数の学校の問題を横に並べて、共通の構造を見抜く」**ことです。
構造化の具体例
例えば、一見すると全く異なるA中学とB中学の問題があるとします。
A中学: 複雑な図形の中に隠れた法則を見つける問題
B中学: 長い文章から条件を整理する問題
これらを「図形」「文章題」と分けて考えているうちは、まだ二流です。大枠で捉えれば、どちらも**「提示された膨大な情報の中から、不変の規則性(ルール)を抽出する力」**を問うているに過ぎません。
この共通点さえ掴んでしまえば、A中学の過去問を解く時間は、そのままB中学の対策にも直結します。本質的な大枠を掴んでいれば、一つの学びが蜘蛛の巣のように広がり、併願校すべての合格可能性を同時に引き上げてくれるのです。
今日から家庭でできる「視点を変える」3ステップ
「大枠で捉える」と言われても、すぐには難しいかもしれません。そこで、今日からご家庭で試していただきたい具体的なステップを提案します。
過去問を「眺める」だけの日を作る 問題を解く必要はありません。数年分の過去問をパラパラとめくり、直感で「この問題は何をさせようとしているのか」を言葉にしてみてください。「手を動かして調べる根性が必要そう」「隠れた図形を見抜く目が必要そう」といった、自分なりの言葉で十分です。
共通の「動詞」を見つける 書き出した直感の中に、共通するキーワードを探してください。驚くほど多くの学校が、同じ思考プロセスを求めていることに気づくはずです。
「野球の球種」で分類する癖をつける 新しい問題を解くたびに、「これはどの方向に曲がるボール(どの思考パターン)かな?」と問いかけてみてください。「規則性」という狭い分類ではなく、「情報を整理整頓する問題」という大きな枠組みで捉えるのです。
知的好奇心が、最強の対策になる
志望校対策において最も大切なのは、不安に駆られて細かなテクニックを詰め込むことではありません。物事を大きな視点で捉え、一見バラバラに見える情報の間に繋がりを見出す楽しさを知ることです。
この「大枠を掴む力」は、中学受験というハードルを越えるための道具に留まりません。将来、僕の娘が大きくなって、あるいは皆さんが社会に出て、正解のない複雑な問題に直面したとき、必ず皆さんを助けてくれる「一生モノの知性」になります。
細かな違いに目を向けすぎて疲れてしまったときは、ぜひ一度立ち止まって、あの野球の球種の話を思い出してみてください。視点を少し引くだけで、目の前の景色は驚くほどクリアになります。
誰でも、視点一つで成長できる。僕はそう信じて、今日も神奈川の教室から、そして画面越しに、皆さんの歩みを応援しています。
今回の内容が、皆さんの学習のヒントになれば幸いです。もし「視点が変わった」と感じていただけたら、ぜひシェアをお願いします。