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「才能がない」という最強の武器について――岡本太郎の言葉から考える、中学受験の合理的な戦い方

2026/2/5

冬の冷たい空気が、神奈川の街を包む季節になりました。塾の窓から見える街灯が少しずつ暖かみを帯びて見えるのは、受験本番が近づいている緊張感の裏返し。

僕は、自分自身のことを「気が弱い人間だ」と自覚しています。

塾を経営し、オンラインで全国の生徒に算数を教え、かつては大手の進学塾で最上位クラスを任されてきました。こう書くと、いかにも「自信に満ち溢れたプロ講師」という虚像が出来上がってしまいますが、実際は常に不安と隣り合わせです。

僕より圧倒的に頭の回転が速い同僚や、一を聞いて十を悟るような「算数の天才」とも呼べる生徒に出会うたび、僕は自分の凡庸さに立ちすくみそうになります。

そんな時、僕の書棚にある一冊の本が、静かに僕を引き止めてくれます。

才能の欠如は、爆発への助走である

僕が深い影響を受けた人物の一人に、芸術家の岡本太郎氏がいます。彼が遺した言葉の中に、僕が折れそうになるたびに反芻する一節があります。

「自分に能力がないなんて決めて引っ込んでしまってはダメだ。なければなおいい。……むしろ、能力のない方が素晴らしいんだと平気で戦えば、逆に能力が開いてくる」

「マイナスの面が大きければ大きいほど、逆にそれと反対の最高に膨れ上がったものを自分に感じるわけだ。弱いなら弱いまま、ありのままで進めばいい」

中学受験の世界は、残酷なまでに「才能」や「地頭」という言葉が飛び交います。「あの子はセンスがあるから」「うちは才能がないから」……。

しかし、指導歴10年以上の経験から断言できるのは、「センスがない」と自覚している人間こそが、最も再現性の高い、合理的な解法を身につけられるということです。

算数における「再現性」という正義

僕自身、算数のセンスが飛び抜けていたわけではありません。だからこそ、天才が「なんとなく」で解いてしまう問題を、なぜその答えに辿り着くのか、徹底的に構造化し、言語化することに心血を注いできました。

例えば、中学入試の難問を解く際、僕はあえて高校数学の概念を噛み砕いて導入することがあります。

特定の図形問題において、n 角形の内角の和を求める際、公式を丸暗記させるのではなく、三角形への分割という「論理」を徹底させる。あるいは、仕事算を比の概念で処理する際、料理のレシピの分量を変えるような「日常の比喩」に落とし込む。

  • 直感に頼らない: 誰がやっても同じ答えが出る「手順」の構築。

  • 学年の枠を超える: 最も効率的な解法であれば、小学生にも高校生の論理を(噛み砕いて)授ける。

僕が最上位クラスを担当できたのは、僕に才能があったからではありません。「才能がない人間の苦しみ」を論理で解決する方法を知っていたからです。僕にできるのですから、皆さんのお子様にできないはずがありません。算数の成績は、正しい「決意の凄み」と「戦略」さえあれば、必ずついてきます。

「目的」を持たないという、究極の目的

もう一つ、岡本太郎氏の言葉で救われるものがあります。それは「目的」についてです。

「目的を持たないことが僕の目的だった。……限定された目的なんか持ちたくない。いつも目的を超えて平気でいる」

中学受験を控えた保護者の方、あるいは受験生本人は、時として深い迷路に迷い込みます。「なぜこんなに苦しい思いをしてまで、受験をするのか?」「この子の将来に、本当に意味があるのか?」

目的を見失い、立ち止まりそうになった時、僕はこう考えます。

「今やっている理由なんて、今はわからなくていい」と。

目の前の一題に、なりふり構わず取り組む。その「戦いそのもの」が自分を開花させていく。合格という限定的な目的を超えて、必死に思考した経験そのものが、後に本当の目的となって立ち現れてくるのだと信じています。

僕には娘がいます。親として、子が壁にぶつかる姿を見るのが辛いのは、痛いほどわかります。

でも、弱いままでもいいのです。能力がないと感じているなら、それは「最高に膨れ上がった何か」を手に入れる前兆かもしれません。

「センスがない」からこそ、誰よりも論理的に。

「目的が見えない」からこそ、今この瞬間の思考を止めない。

そんな泥臭くも知的な戦い方を、僕はこれからも伝えていきたいと思っています。

さて、今夜も神奈川の夜は更けていきます。明日の授業では、あの複雑な立体切断の問題を、どうやって「才能に頼らず」攻略するか、もう一度構造を練り直すとしましょう。

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