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「わかった」のに解けない子の正体

2026/3/30

了解しました。テーマは「ワーキングメモリーの問題と、枝葉を増やす段階的指導法」ですね。

内容の性質から判断すると、これは「指導哲学・教育論」の解説記事です。3000〜4000字程度で、保護者と生徒双方に刺さる構成で書きます。

「わかった」のに解けない子の正体

塾に通い始めて3ヶ月。授業中はうなずいている。ノートもそれなりに取っている。なのに、模試の偏差値は微動だにしない。

こういう相談が、僕のもとには月に何件も来る。

親御さんは首をかしげる。「やる気はあるんです」「授業はちゃんと受けてるんです」と。

でも、やる気でも授業態度でもない。原因はもっと構造的な話だ。ワーキングメモリーが、キャパオーバーを起こしている。

脳の「作業台」はとても狭い

ワーキングメモリーというのは、平たく言えば脳の作業台だ。

何かを考えるとき、人は必ずこの作業台の上で情報を広げる。計算するときも、文章を読むときも、問題の条件を整理するときも、全部ここを使う。

問題は、この作業台が恐ろしく狭いという点にある。

新しいことを学ぶとき、作業台には何が乗っているか。知らない用語の意味、覚えていない公式、問題文の条件、先生の説明、自分の解きかけの計算。これらが一度に押し寄せる。当然、溢れる。

混乱している子どもを見て「なぜこんな簡単なことが」と思う大人は多い。でも、それは単純に間違った観測だ。

教えている側にとって「簡単」なのは、その知識がとっくに作業台から降りて、長期記憶の引き出しに整理されているからだ。引き出しから一瞬で取り出せるから、作業台を圧迫しない。だから簡単に見える。

学び始めた子どもはそうではない。その知識がまだ作業台の上にある。整理されていない状態で、新しい情報がさらに乗ってくる。混乱して当然だし、解けなくて当然だ。

「教えたいこと」を我慢するのが仕事

ここで多くの先生と塾が、決定的な誤りを犯す。

教えることに使命感を持っている人ほど、一度に多くを伝えようとする。「せっかく時間があるなら、これも教えておこう」「この公式も覚えておくと便利だ」。

気持ちはわかる。ただ、それは子どもの作業台に荷物を積みすぎているだけだ。

僕が一回の授業で教えるコンセプトは、多くて2つまでと決めている。

「本当はこれも教えたい」という瞬間は、授業中に必ず来る。でも、そこで我慢する。その我慢こそが、指導の質を決める。

補足情報も同じだ。「厳密には例外があって」「応用すると」「発展として」、こういう言葉が出そうになったら、いったん飲み込む。その子の作業台が、今日教えた2つのコンセプトで既にいっぱいだからだ。

「わかった」と「使える」は別の話

次の授業が来る前に、ちゃんと確認したいことがある。

前回教えたことが、作業台から降りているかどうかだ。

もし前回の内容を問題として出したとき、スラスラ解けるなら合格だ。その知識は長期記憶の引き出しに収まって、もう作業台を圧迫しない。そのタイミングで初めて、次のコンセプトを乗せる。

逆に、前回の内容がまだ怪しいのに次へ進むのは、土台のないところに2階を作るようなものだ。積み上げの形をしているだけで、崩れる。

これが「わかったのに解けない」の正体の、もう一つの顔だ。「授業中にわかった」と「自力で使える」の間には、整理と定着というプロセスが必要で、そこには必ず時間がかかる。

急ぐほど遅くなる。これは学習において、ほぼ例外のない法則だと思っている。

木の幹から枝は生える

段階的に積み上げていくと、あるとき面白いことが起きる。

最初はゆっくりだったのに、ある時点から新しい知識の吸収速度が急激に上がるのだ。

これは木の構造で考えるとわかりやすい。

幹がしっかり育っていれば、そこから枝が伸びる。枝があれば、そこにさらに小枝が生える。枝が1本から2本、2本から4本、4本から8本と増えていくように、知識は幹さえしっかりしていれば、加速度的に広がる。

最初の半年、成長が遅く見えることがある。それは枝を作っているのではなく、幹を太くしている時間だ。ここで焦って枝を無理やり生やそうとする(新しい単元を詰め込む)から、ひょろひょろで折れやすい木になる。

偏差値40台が60超えを狙うとき、幹を作り直す時間が必ず必要だ。遠回りに見えて、これが最短だ。

混乱は正常反応、問題は対処法

最後に、親御さんへ一つ。

子どもが「わからない」と言ったとき、あるいは同じ問題で何度も詰まっているとき、そこに「やる気の問題」を見ようとしないでほしい。

ワーキングメモリーが溢れているだけなら、それは学習設計の問題だ。詰め込む量を減らし、定着を確認してから次に進む。それだけで、驚くほど変わる子は多い。

ただし、「何を教えて、何を我慢するか」の判断は、その子の現在地を正確に把握していないとできない。量を減らすだけでは足りなくて、何から幹を作るかの優先順位が正確でないといけない。

そこが、個別指導の本来の役割だと僕は考えている。

混乱している子どもを見て焦る気持ちはわかる。でも、焦って詰め込んだ知識は、作業台から溢れて床に落ちるだけだ。拾う時間の方が、後からずっとかかる。

その焦りを、今日だけ横に置いてみてほしい。

個別に学習設計を組み直したい方は、マナリンクのプロフィールページから相談を受け付けている。何から手をつけるべきか、現在地の整理から始めます。


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