ヒロユキ式・中学受験算数 指導マニュアル全公開|偏差値が上がらない本当の理由
「先生の授業って、普通の個別指導と何が違うんですか?」
保護者の方から、この質問をよくもらう。答えは一言で言える。
生徒が考える時間の比率が、根本的に違う。
多くの個別指導では、講師が丁寧に解説し、生徒はそれをノートに写す。あれは「授業を受けた気になる」ための儀式であって、算数の力はほとんどつかない。思考の筋肉は、自分で動かさなければ育たない。
今回は、僕が講師に渡している研修マニュアルの内容をそのまま公開する。「ヒロユキ式がなぜ結果を出すのか」が、具体的な手順レベルまでわかると思う。長くなるが、最後まで読んでほしい。
原則① 8:2ルール——講師は「2割」しか話さない
すべての授業運営の土台になる原則がこれだ。
授業中、生徒が手を動かす時間を8割確保する。講師が話す・解説する時間は最大2割に抑える。
なぜ8:2なのか。算数の力は「自分で考えた経験の総量」に比例するからだ。解法を聞いた回数ではなく、自分で詰まり、自分で突破した回数が実力になる。
講師が全解説をする授業では、生徒は解法を「記憶」するだけで終わる。初見の問題で詰まるのは必然だ。8:2ルールで進める授業では、生徒は考える経験を積み続けるため、初見の問題でも思考を展開できるようになっていく。
僕が授業後に自分に問うチェック項目は3つだ。生徒が鉛筆を動かしていた時間は8割以上だったか。自分が連続して話し続けた時間は3分を超えていないか。解説した問題数より、生徒が自力で解いた問題数の方が多いか。
この3つがYESであれば、授業の設計として合格だ。
ちなみに、最もやってはいけないのは「問題を提示した直後に解説を始める」ことだ。生徒が考える前に答えを教えることは、思考の機会を奪う行為に他ならない。良かれと思ってやっている講師が多いだけに、厄介なミスだ。
原則② 授業進行の手順——60分をどう設計するか
標準的な60分授業は、以下の流れで設計する。
最初の5分は前回の復習確認だ。前回解いた問題を1〜2問、解説なしで再度解かせる。「できたつもり」と「本当にできる」の差が、この5分で露わになる。
次の45分が本時の問題演習だ。8:2ルールに基づいて進める。
残りの10分は2つに分けて使う。前半5分は「本日の方向性確認」として、解けた問題・解けなかった問題を生徒自身に整理させる。後半5分で次回への宿題の確認と、その意図の説明を行う。
宿題の意図を説明するのは重要だ。「なぜこれをやるのか」を理解している生徒は、家庭学習の質が違う。「とりあえずやっておいて」という投げ方は、僕の指導では存在しない。
原則③ ステップ式ヒント——「教えすぎ」が実力を止める
生徒が問題で詰まったとき、全問解説は行わない。詰まっている箇所を特定し、次の一手に進むための最小限のヒントを一つだけ提示する。それで再度詰まれば、また最小限のヒントを追加する。これがステップ式ヒントだ。
ヒントは「答えを教える」ためではなく「思考を前進させる」ためにある。
具体的な場面で見てみよう。線分図を書けていない生徒への介入の例だ。
まず「まず、問題文を図で表してみて」と一言だけ言う。それでもまだ詰まっているなら「Aくんの持っているリンゴの数を線で表すと、どこから書く?」と一段階だけ深める。さらに詰まれば「この線をAくんの分として、Bくんの分はどう表せる?」と追加する。
絶対にやってはいけないのは「じゃあ線分図を書いてあげるね」と講師が代わりに書くことだ。それは思考のショートカットであり、自力で書く経験の機会を永遠に奪う。
生徒が止まったとき、詰まり箇所を特定するために確認することがある。問題文を正しく読めているか。何を求めているかが理解できているか。アプローチの方向性が立っているか。計算のプロセスで止まっているか。これらが特定できない場合は、「今、どこまでわかってる?」と口頭で確認する。
原則④ 時間管理と「方向性確認」——2分が思考を鍛える
僕の授業ではほぼすべての問題に制限時間を設ける。基本例題なら1〜2分、標準問題なら2〜3分、応用・難問なら3〜5分が目安だ。
これは解けるかどうかを確認するためではない。「方向性が立てられるか」を確認するためだ。
制限時間終了後に毎回行うのが「方向性確認」だ。「どうやって解こうとしてた?方向性はわかってた?」と口頭で問う。
方向性が立っている場合は追加時間を与えて続けさせる。方向性が立っていない場合はステップ式ヒントを一つ提示して再スタートさせる。答えが曖昧な場合は「問題文の中で何がわかってる?」と分解する。
入試本番では時間が命だ。方向性が立たない問題に10分かける生徒と、2分で見切って次に進める生徒では、最終的な得点が全く違う。「解けなかった」ではなく「判断して次に進んだ」という意識を育てることが、本番での得点戦略に直結する。
原則⑤ 図表の習慣化——答えより「プロセスの可視化」を優先
答えの正誤より、図や表を正確に書けるかを優先する。答えが合っていても図を書いていない場合は、必ず指摘する。
「答えが合ってるのはいいね。でも図がなかったら、難しい問題になったときに絶対詰まる。もう一回、図から書いてみて」
これが僕の標準的な返し方だ。
算数の問題タイプ別に使う図表は決まっている。線分図は割合・比・速さ・差の問題、面積図は割合・平均・濃度、表による整理は場合の数・規則性・条件整理、樹形図は場合の数、ダイヤグラムは速さ・旅人算、といった具合だ。
図表を自然に書けるようになるまでの手順は3段階だ。同じ型の問題を最低3問、図表を書きながら解かせる。毎回「図が先、計算は後」の順番を口頭で確認する。自然に図を書き始めるまで同じ型を繰り返す。定着までの目安は5〜10問だ。
算数が得意な子の多くは、誰に言われなくても図を書く。これは生まれつきの才能ではなく、反復によって身につけた習慣だ。習慣は作れる。
原則⑥ 学習ステージ別の戦略——偏差値50・55・60の越え方
指導には3つのステージがある。
ステージ1は「基礎固め」だ。偏差値50未満の状態で、小学4・5年生の基本例題を完全に制覇することに集中する。応用問題に手を出したくなる気持ちはわかるが、基礎工事が終わっていないのに2階を建てることはできない。
ステージ2は「転換期」だ。偏差値50〜55の状態で、初見問題を自力で解ける体験を積み重ね、自走の兆候を育てる。
ステージ3は「自走モード」だ。偏差値55以上になると、講師はサポート役に徹し、生徒主導の問題選択・解法選択を促す。「先生がいないと解けない」状態は指導の失敗だ。自分で問題を解き、自分でミスを発見し、自分で修正できる生徒を育てることが、僕の最終ゴールだ。
ステージ移行の判断基準も明確だ。ステージ1から2への移行は、基本例題を時間内にミスなく解ける割合が8割を超えた時点。ステージ2から3への移行は、初見の標準問題を自力で解ける割合が6割を超え、生徒自身が「次の問題をやりたい」と言い出した時点だ。
教材についても原則がある。サピックスのテキストが「お子さんに合った教材」とは限らない。解説が薄く問題量だけ多い教材で消耗している生徒を何人も見てきた。解説が充実し要点が絞られた「中学受験 新演習」や「下剋上算数」を、状況に応じて選ぶことが遠回りに見えて最速のルートだ。ただし教材を増やすことが解決策ではない。1冊を完璧に仕上げる方が、3冊を中途半端にこなすより効果的だ。
原則⑦ コミュニケーション設計——「2褒めて1叱る」の法則
指導は内容だけでは成り立たない。生徒との関係性が土台になければ、どれほど優れた教材も機能しない。
承認と指摘のバランスは2:1を基本とする。ダメなことは曖昧にしない。ただし、できたことへの承認をそれ以上に明確に伝えることが、モチベーション維持の基本だ。
正解したときは「正解。しかも図がちゃんと書けてる。この調子で次もやってみよう」と伝える。答えは惜しかったがプロセスが良かったときは「方向性は完璧だった。あとは計算ミスだけ気をつけよう」と返す。同じミスを繰り返したときは「これ、前回も同じところで間違えてるよ。ここは意識して直さないとまた本番で出る」とはっきり指摘する。考えることをやめたときは「手が止まったのはわかった。でも2分は必ず考える。まず何がわかってるか書いてみて」と促す。
人見知りの生徒や算数に苦手意識を持つ生徒には特別な配慮が必要だ。講師側から積極的に声をかけ、黙って待たない。初回授業で必ず1問以上「正解できる問題」を用意する。最初の授業で生徒が「解けた」と感じなければ、次回の授業効果は半減する。
「算数は、やり方さえわかれば一番点が取りやすい科目」というマインドセットを、苦手意識がある生徒には繰り返し伝えることも重要だ。
原則⑧ オンライン環境——手元カメラがすべてを変える
オンライン指導において、手元が見えない状態での指導は品質を大幅に下げる。
図が正確に書けているか。計算の過程が残っているか。手が止まっているタイミングはいつか。消しゴムで思考の跡を消し過ぎていないか。これらはすべて、手元カメラがあって初めて確認できる情報だ。
設置方法はスマートフォンをスタンドで固定する方法が手軽だ。Zoomなどでサブカメラとして参加させれば、メインの顔カメラと手元カメラを同時に映せる。書画カメラは精度が高く理想的だが、初期費用が発生するため事前に説明が必要だ。
授業開始時には毎回「手元カメラは映っていますか?ノートに書いているところが見えますか?」と確認する。これを怠ると、10分後に「映っていなかった」という事態が起きる。
原則⑨ 保護者対応——「3ヶ月は見てください」という約束
最後に、保護者の方に向けた話をしておく。
指導開始時に必ず伝えることが3つある。指導効果が現れるまでに3〜5ヶ月かかること。その間、お子さんが「難しい」「厳しい」と感じる場面があること。その状態が成長のプロセスであること。
途中で「もっと優しくしてほしい」「解説を増やしてほしい」という要望が出ることがある。感情は理解できる。ただ、それは成果への近道ではない。
「子供がかわいそう」という気持ちで指導を緩めた先にあるのは、入試本番でもっと辛い経験をすることだ。3ヶ月という期間は、勉強習慣と思考の土台を作るための最低ラインだ。プロセスを信じて見守ってほしい。
どの塾にいても、どんな教材を使っていても、「上のクラスにいること」が子供の自信に直結する。クラスアップが次のモチベーションを生む。その好循環を作ることが、僕の仕事だ。
まとめ——迷ったときに戻る問い
9つの原則を書いてきた。長くなったが、結局のところ、すべての判断基準は一つの問いに集約される。
今この瞬間、生徒は考えているか。
考えているなら待て。考えていないなら最小限のヒントを出せ。それだけだ。
この問いを、授業中に何度も自分に問い続けること。それが、ヒロユキ式の本質だ。
個別に学習戦略を組みたい方、お子さんの現状を一度整理したい方は、マナリンクのプロフィールページからご連絡ください。現在地から合格までのルートを、具体的にお伝えします。