AIが「図形弱点」と診断した。本当の敵は別にいる
算数の偏差値が58あたりで止まっている。週テストは点が上下する。AIで分析したら「図形が弱い」と出た。
こういう相談を受けるたびに、僕はまず心の中でため息をつく。
AIの分析が間違っているとは言わない。ただ、「図形が弱い」という診断は原因ではなく症状だ。症状だけ見て処方箋を書いても、子どもは治らない。
今回は、実際の授業と保護者面談を通じて気づいた「偏差値60の壁」の正体を、正直に書く。
図形が苦手な子は存在しない
中学受験の算数で出題される図形問題の7〜8割は、過去のどこかの中学校で出てきた問題だ。
灘でも、開成でも、聖光でも、東海でも、である。
「考える力が必要な問題」「発想力を試す問題」という表現が世の中には溢れているが、現実はもっと地味だ。補助線の引き方、面積比の公式、台形の対角線で分割したときの面積比(上底と下底の比がA対Bなら、面積比はA×A、B×B、A×B)――これらはすでに解法が確立されている。
考えるのではなく、覚えるのだ。
開成中学校の高校で教えていたある先生はこう言ったらしい。「君たちは図形を考える問題だと思っているかもしれないが、100年早い。まず何百個もある図形パターンを全部覚えろ。覚えた後から考えるんだ」と。
中学受験のプロがこれほど明快に言い切っている。覚えていないから取れないのであって、苦手な脳を持って生まれたわけではない。図形特訓のプリントがあるなら、「解けた・合ってた」で終わらせず、何度も繰り返して解法パターンを丸ごと頭に入れる。それだけだ。
残り2割の「本当の応用問題」も、結局はその暗記したパターンの組み合わせで解ける。
テストの点が上下する本当の理由
週テストの点数が上がったり下がったりする。プレ中(範囲なし)は58と57.8で安定はしているが60に届かない。
保護者の多くはここで「図形が弱い」「計算が雑」という個別の症状に着目する。しかし僕の診断は違う。
問題は計算スピードだ。
分数の計算も、小数の計算も、比の計算も、すべての根っこは整数の計算だ。その整数の計算が遅ければ、分数も、小数も、比も、すべてが遅くなる。計算が遅いと何が起きるか。時間内に解き終わらない。焦る。ミスが出る。見直せない。
図形の解法パターンを覚えていても、計算で詰まれば答えは出ない。夏期講習では膨大な量の問題を解くことになる。計算が遅い子と速い子では、同じ時間で解ける問題数が根本的に違う。
処方箋はシンプルだ。2桁×2桁の整数計算を暗算でこなせるようになるまで、毎日10問やる。実質2〜5分で終わる。これを夏まで続けるだけで、算数の景色は変わる。
親が「見たくない」気持ちも正しい
面談でお母さんがこんなことを言っていた。「計算ができなくてイライラして、そこで勉強が止まってしまう。もったいない」「毎日の課題で手一杯で、復習する時間が取れない」「私が見ていてトロトロやっているのにイライラしているだけかもしれないけど」
全てのお母さんに申し上げたい。あなたが感じている焦りは正常だ。むしろそれが正確な観測だったりする。ただ、イライラして声を荒げても子どもの計算は速くならない。毎日の10問が唯一の処方箋だ。
復習が追いついていない点については、最初にやることを絞ることが先だ。図形は特訓プリントのパターン暗記。計算は毎日10問。それ以外は今はいい。優先順位を決めて、確実に積み上げる。
初見に弱くて2回目に強い。それは才能だ
今日の授業で、以前なら「わからない」とすぐ諦めていた難問を、しおりさんが粘って答えを出していた。チェックテストでは9割以上を正解していた。
これは重要なシグナルだ。
初見の問題には弱いが、2回目には確実に解けるようになる。このパターンを持つ子は伸びる。難関校に合格する子の多くが同じ特性を持っている。初見で100%解けなくていい。2回目に解けるようになっていればいい。
テストの点が上下するのも、そういう子の特性だ。初見問題が多い回は下がる、既習問題が多い回は上がる。それだけのことだ。
図形パターンを頭に入れた状態で夏期講習に入れば、今まで初見だったはずの問題が「あ、このパターンだ」に変わる。その瞬間から、点数の波は小さくなる。
算数の偏差値60は、遠い話ではない。