「浮遊感のあるコード」とは?〜BURT BACHARACH "THIS GUY'S IN LOVE WITH YOU"分析
2020/2/1
実は作詞家・作曲家・ミュージシャンの顔も持っていたりする家庭教師kuroです。
今回はお勉強ではなく、音楽についてややマニアックな話をします。
Burt Bacharach(バート・バカラック)作曲の「This Guy's In Love With You」という超名曲の、コード(和音)進行の解釈をしてみました。
この曲です。
101 Strings Orchestra 0:36
(この曲のキーはD#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)
0:36では、F A♭ C E が鳴っているのでFmM7(Fマイナーメジャーセブン)になります。
よってこの部分、
FM7→【FmM7】→Em7
という進行になっています。
この【FmM7】の部分が非常に面白いんです!
この曲にはいろんなバージョンがありますが、これが最も自然なコード進行だと思います。
MIDIのピアノロールで確認してみましょう。
2つ目のコードは、Aの音がG#に半音下がっただけですよね。
3つ目のコードは、すべてが全音か半音下がっています。
とても滑らかに3つの和音がつながりながら変化していることがわかります。
この101 Stringsのバージョンでは、A→A♭→Gの半音進行が重要な役割を果たしていますよね〜。
さて、次を見てみましょう。
Herb Alpert 0:43
(この曲のキーはC#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)
0:40からの3つのコード進行は、この曲では、
FM7→【Fm6】→Em7
という進行になっています。
0:43では、F A♭ C D が鳴っているので、
Fm6(Fマイナーシックス)になります。
6thのDがいい味出していますね〜
でもなぜこの音を加えているんでしょう?
MIDIのピアノロールで確認すると下のようになります。
2つ目のFm6のD音は、3つ目のEm7にも共通していますよね。
この音は3つ目のコードEm7の7度(D音)につながっていくわけです。
つまり、Fm6のD音は、Em7に滑らかにつながっていくための工夫だったのです。
しかし、これで終わりではありません。
他のバージョンを聴いてみると、この曲の深さが見えてきます。
例えば、次のバージョン。
B.J.Thomas 0:41
(この曲のキーはA#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)
このバージョンも、0:41では F A♭ C D が鳴っていてFm6なので、
FM7→【Fm6】→Em7
であることに変わりはないのですが、
Fm6の中でベースがF→B♭と変化しているんですね。
単にちょっとベースが動いて遊んでるだけ、、と考えることもできますが、
もう少しれっきとした理屈がありそうです。
その証拠に、次のDave Kozのバージョンでは、ベース音が完全にB♭になってしまっています!
Dave Koz 0:46
(この曲のキーはC#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)
ここでは、B♭ D E C が鳴っているので、
コードはB♭9-5(B♭ナインフラットファイブ)となります。
下のようなコード進行になっています。
FM7→【B♭9-5】→Em7
2つ目のコード、ベース音がB♭になっていて、
浮遊感ただようおしゃれな感じになっていますよね。
でも、この「浮遊感」とは一体何でしょう?
一言で言うなら、
「さまざまな展開を想起させる可能性に満ちた状態」
を作り出しているということではないかと思います。
では、ここではどんな可能性を作り出しているのか?
2つあると思います。
①FM7→【B♭9-5】→Em7
この曲における「正解」、Em7へつながっていく可能性です。
Em7以降はよくあるツーファイブ進行に進んでいきます。
②FM7→【B♭9-5】→CM7
ルート音CのコードであるCM7(Cメジャーセブン)に帰着する可能性です。
まず、このコード進行を聴いて下さい。
FM7→【Bm7♭5】→CM7
これら3つのコードはダイアトニックコード(Cであれば白鍵しか使っていない、ドレミファソラシドだけで構成されたコード群)です。
ドレミファソラシドだけしか使っていないので、とても自然な響きです。
ただ、自然すぎて面白みがないとも言えます。
そこで、Bm7♭5のベース音だけを半音下げてBM7にします。
するとちょっとおしゃれになります。
FM7→【B♭M7】→CM7
さて、Dave Kozのバージョンでは、
B♭M7ではなく、B♭9-5を使っています。
どう違うでしょうか。
B♭9-5とB♭M7の比較
B♭9-5には C E A♭ が鳴っています。
この3音は一体何の役割を果たしているのか?
上記2つの可能性の観点それぞれから見てみましょう。
まず、
①FM7→【B♭9-5】→Em7の場合
構成音一つ一つに注目すると、
・EはFM7のEと共通
・CはFM7のCと共通
・DはEm7のDと共通
と前後のコードの共通の音を抱えながら、
・A→B♭→Bという半音進行
・A→A♭→Gという半音進行
残りの音も半音ずつの滑らかにEm7へと変化していることがわかります。
次に、
②FM7→【B♭9-5】→CM7の場合
・EはFM7とCM7のEと共通
・CはFM7とCM7のCと共通
と前後のコードの共通の音を抱えながら、
・A→B♭→Bという半音進行
・A→A♭→Gという半音進行
残りの音も半音ずつの滑らかにCM7へと変化していることがわかります。
しかし、D音だけは全音進行でCやEへとつながります。
D音はBM7の構成音でもあるので、BM7のようなかたちで
CM7を想起させる役割をもっています。
つまり、すべての音がCM7への進行を想起させることができています。
さらに、D音はEm7の構成音ですから、
Em7行きを匂わせる音でもあるのです。
ということで、僕の結論はこうなります。
B♭9-5は、
Em7への進行と、キーであるCM7への帰着という、
2つの可能性を同時に匂わせる、
不安定な浮遊状態を作り出すコードである
以上が今回の考察です。
曲というのは、読んで字のごとく「音の曲がり方」に個性があります。
主な音(トニックコードやドレミファソラシド)からいかに外れてドキドキするか、
そしてどのタイミングで主な音に着地して安心するか、
という緊張と緩和の芸術なんだなと改めて思います。
まあでも、実際に上記のようなことを考えながら作れるわけではないです。
いろいろ試行錯誤していくうちにたまたま「おっ!?なんかいい響き」と発見して、
あとで理屈を理解するというのが曲作りの実際かなと思います。
今回は趣味で突っ走ってしまった感がありますが、、、
今日はこんなところで。
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