国語が苦手な中受生は単語帳を買うな(作れ)
2021/5/15
国語の成績が伸びない。多くの場合、語彙力に問題があるというのは、たしかに真実です。
言葉を知らなければ、文脈を把握しにくくなるし、ぼう線部の意味することを理解できなくなる。選択問題の吟味にも困難が生じます(選択肢でわざとそういう言葉を使っていたりするので)。
そこで、「単語帳をやろう」と考えることもあるでしょう。上位を目指す中学受験生だと「中学受験必須難語2000」が候補に挙がることが多いです。確かに見てみると、あれもこれも中学受験生なら知っておきたい言葉が並んでいます。
ただ、この単語帳が有効なのは、時と場合によると思います。
特に、「国語が苦手な受験生」が単語帳を使うことについては、僕は否定派です。
「中学受験必須難語2000」は、「時間的にも能力的にも十分な余裕をもった生徒が、ライバルに差をつける」ために使うべきものです。「国語が苦手で時間的にも余裕のない生徒が、ライバルに大逆転する」ことを想定して使うべきものではありません。「600」語バージョンもありますが、それも同じです。
単語帳が有効な場合とそうでない場合
以下の状態に近ければ、上記の単語帳は有効だと思います。
・国語に自信がある
・他の科目にも余裕がある
・もっと語彙を知りたい、吸収したい!と思っている
・新4、5年生で、時間的にも余裕がある
一方、以下の状態に近いのであれば、思ったような成果が得られない「苦行」になりやすいです。
・目標の志望校に対してもっと国語を伸ばさなければいけない
・他の科目において、課題が山積している(とくに算数)
・国語に苦手意識がある
・新6年生で、時間もない
こういった状態だと、ただでさえやらなければならないことが多いのに、さらに非効率な苦行を上乗せしてしまうようなことになり、逆効果になることが多いと思います。
ではなぜ、こういった語彙の単語帳は、国語が苦手な小学生にとって「苦行」となってしまうのか。代わりにどういう学習方法が有効か。
今回はこのことについて考えてみました。
精神的な「成熟度」が足りない
今回の問題についてTwitter上で齊藤美琴先生とやりとりしていたときにキーワードをいただいた気がしました。それは「成熟度」。中学受験生にとって語彙の単語帳が必ずしも有効でないのは、単語帳を使いこなすのに必要なこの「成熟度」が足りないケースが多いからだと思います。
大学受験の英語学習と比較しながら考えてみます。
「中学受験必須難語2000」のような単語帳は、大学受験の英語学習における「英単語帳」と比較してみるとイメージしやすいかもしれません。この2つには、共通点があります。
それは、単語帳だけで本番の文章の単語をすべてカバーできているわけではないということ。
まず、単語帳の中にあるたくさんの語彙だけでも、ゴリゴリ暗記しなければいけません。まずはここでかなりの体力と知恵と根性が必要になります。小学生にも体力と知恵と根性はあるでしょう。しかし、国語が苦手な小学生は、少なくとも国語においてはその資源が潤沢ではありません。
しかも、単語帳の語彙だけ覚れば大丈夫、というわけでもありません。
「中学受験必須難語2000」には、「やにわに」、「つつがなく」、「道程」、「手を打つ」など、「知っとくといいかなあ」という語は多数収録されていますが、「相対的」「一般」「普遍」「主観」「客観」のような、ちょっと難しめの説明文では出てきそうな言葉がなかったりもします(難関校であれば、哲学的な文章は普通に出ます。野矢茂樹先生とか)。そもそも、この本は説明文や論説文でよく出るテーマを理解する、というコンセプトではないんですよね。あくまでランダムな語彙学習です。
そのゴリゴリ暗記を少しでも効率化するために、受験生はいろいろな「工夫」をします。たとえば、多くの単語を吸収することで、単語の類義語や対義語を関連付けたり、類型化したりしますよね。
たとえば英語なら、接頭辞の「in」「ex」に着目して、
import(内へ・輸入する) ←→ export(外へ・輸出する)
export(外へ・輸出する) 〜〜 exit(外へ・出る)
のように、バラバラでなく、「言葉と言葉とのつながり」を見つけていきます。
これが単語学習の楽しいところです。
そうしてこのような「関連付け」の能力というのは、本番で出てきた「知らない単語」への対処においても重要です。本文中にわからない単語が出てきても、ある程度推測しながら読んでいく力が徐々に養われます。国語でも英語でも、文章中のすべての単語が完璧にわかる、なんてことは、天才を除きほぼないですよね。
こうした工夫は、精神的に成熟し、学習のポイントをつかんだ中学生、高校生になっていけば、よりできるようになってきます。
中学受験生でもできる人はできます。ですが、特に、「国語が苦手」という状態にある小学生だとなかなか難しいです。彼らにとっては、「ただバラバラに言葉が降ってきて、それらを丸呑みし続けなければならない苦行」になってしまう可能性が高いと思います。
そういうふうに非効率な学習になってしまうならば、算数の計算や、理社の暗記の方に時間を割いたほうがまだ良い、ということになります。時間の使い方の優先順位を間違えてしまう危険性があるということです。
それが小学6年生となると、さらに時間がないわけですから、なおさらおすすめできなくなります。
このように、国語の苦手な小学6年生が語彙学習に「中学受験必須難語2000」を使うのはいまいちピンと来ないのです。
「語彙」だけでなく「話題」も知る
じゃあどうするか。それを考える上で、もう1つ別の次元の単語帳を参照してみましょう。
それは、例えば、大学受験の現代文の単語帳である「現代文キーワード読解 Z会編集部」です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865310428/ref=cm_sw_r_tw_dp_NC87W8SEZYN5MWHYMDDG
この単語帳は、(「単語帳」というカテゴリーとは違うのかもしれませんが)160語しか収録していません。その代わり、
たとえば、「帰納」「演繹」という言葉が載っているところでは、科学論について解説していたり、「メタファー」「レトリック」が載っているところでは、言語論についての解説があったりします。
このように、「現代文キーワード読解」は、評論や小説において「読解で頻出となる【話題】の理解を深める」ことを目的としています。
別の記事(「【国語】『読むスピード』を速くする方法」)にも書いていますが、読解力をつけていく上で必要なのは、
①その文章の【語彙】
②その文章の【話題】
③様々な論点を整理した【経験】
の3つだと考えています。
この3つが揃わないと、読解力は上がりません。国語が苦手な中学受験生は①はもちろん、②も③も待ったなしの状態に追い詰められているはずです。
「現代文キーワード読解」のスタンスは、①だけでなく②も同時に学習していこうというコンセプトなのです。
そして、それこそが、国語が苦手な中学受験生のための語彙学習の「ヒント」になると思います。
代替案:ちょっと工夫した語彙ノート作り
語彙学習の効率的な学習の仕方は、「文章の【話題】と関連づけて【語彙】を増やす」ということです。単語帳の暗記作業ではなく 、あくまで「文章読解」の復習の中で語彙を学習していきます。
この作業を、できるだけ「本人の能力に丸投げ」しないようなかたちで提案してあげたい。
そこでやっていただきたいのは、読解問題の文章の分からなかった言葉を書きためていく語彙ノート作りです。
特に、過去問をやるようになれば語彙ノートはさらに価値が高まります。同じ言葉が再度出ることは少ないかもしれませんが、やればやるほど「どういう言葉を知っている受験生に入学してほしいのか」が一覧できます。それが分かれば、あとはそういった語彙・話題が書かれている文章に当たっていけばいいのです。
では、どういうノートを作るのか。
<語彙ノートの作り方>
・1つの単語に、1行ではなく、2行以上、余裕を持って使う。
(あとで書き込めるようにするため)
・3つの欄:「言葉」「辞書的な意味」「備考」を作る。
「備考」欄に書くのは、以下の2つです。大事なところを他の記事に丸投げしてしまいますが汗、以下のサイトを参考にして下さい。
<備考欄に書くことその1>自分の言葉で「言いかえ」
中学受験ドクターのブログ
https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/kaitou/20160830.html
辞書の、正確だけど難しくて無味乾燥な説明を、自分の言葉で説明する。「わかっていない自分」にわかりやすく説明するために言いかえる、というイメージです。
これが、「文章の内容と関連づけて言葉を知る」ことにつながります。自分で咀嚼することで、少しでも語彙を文脈のなかで理解して「自分のもの」にしやすくなると思います。
上記サイトにも書かれていますが、本人に任せっきりにしてしまうと、「分からない言葉が見つからない」ので収録語が増えないことになりやすいです。だからそこは適切な声掛けが必要です。
生徒によっては、毎回の授業中にわからなかった語彙をまとめてあげたりもしています。その時にも、辞書の意味どおりではなく、「本人でもわかるような言葉」を選んでまとめています。そしてそのリストをずっと蓄積していきながら、「たしなめるって、何だっけ?」みたいに、授業の最初にこれまでの全範囲からピックアップで口頭テストしていきます。毎回くり返すと、だんだん定着していっていますね。
<備考欄に書くことその2>辞書に類義語・対義語があればそれも書く
医学部受験×個別指導 MEDUCATEのブログ
https://meducate.jp/column0124/
大学受験の英語学習の部分でも触れたように、「言葉と言葉のつながりを知る」ことによって言葉を有機的に身につける姿勢がつきます。常に1つの語彙に2つ3つの言葉がついてくれば、学習効率はそれだけ向上します。
語彙対策は「語彙ノート」にとどめておくことで、国語が苦手な子については、国語に使う時間を最大限「文章を実際に読むこと」に関連づけることができます。
「時間がない」「国語が苦手な」受験生はとにかく「少しでも楽で、効率よく、意義を実感できる」やり方を模索していく必要があります。今のところ以上のようなやり方が良いのではないかと思っています。もし他にも有効なやり方を知っている方、思いついた方はぜひ教えて下さい。
以上、参考にしてください!
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