“質問できる子・できない子”で差がつく──先生はこう引き出す!
2025/8/5
① 質問できる子が“伸びる”理由
「わからないことがあれば、すぐに質問しなさい」
学校や家庭で、よく聞くアドバイスですよね。
でも実際には、「質問する」って意外と難しい。
「どこがわからないか分からない」「聞いたらバカにされそう」「すぐに聞くのは甘えかもしれない」――
そんな気持ちを抱えたまま、ひとりで悩み続けてしまう生徒は少なくありません。
私がこれまで指導してきた経験の中でも、「質問できる子」と「できない子」では、理解の深まり方や伸び方に明確な差が生まれることを何度も感じてきました。
では、その違いを生む要因は何か?
そして、「質問できる子」は、どうやって育てられるのか?
今回は、指導現場で出会った生徒たちのエピソードを通して、「質問する力」が生まれるプロセスと、それを引き出すための関わり方をご紹介したいと思います。
② 質問できないのは「能力」の問題ではない
「質問できない子」は、能力がないわけでも、意欲が低いわけでもありません。
むしろまじめで責任感が強いタイプほど、「質問=できないことの証明」と感じてしまい、言い出せなくなることがあります。
特に最近はオンラインでの指導や学習も増え、**「画面越しでは質問しづらい」**という声も耳にします。表情や空気感がつかみにくいため、「今、質問してもいいのかな?」という不安が生まれやすいのです。
だからこそ、教師側が“質問していい雰囲気”を意識的につくることが大切になります。
③ 【エピソードその1】高3・A君:質問できなかった受験生の変化
A君は高3の受験生。とても努力家ですが、自信がなく、どこか“縮こまっている”印象のある生徒でした。
ある日、化学の反応速度に関する問題を一緒に解いていたときのこと。
知っている知識を使えば解ける問いですが、手が止まり、沈黙が続きます。
「どんな考え方を活用すればいいかな?」と声をかけても、「……ちょっと考えます」とだけ答え、また黙り込んでしまいます。
実はこのとき、彼の頭の中には「質問したい」「聞いてしまえば分かる」という思いがあったそうです。
でも同時に、「間違っていたらどうしよう」「こんなこと聞いたらダメかも」という不安が先に立って、質問ができなかったのです。
私は彼にこう伝えました。
「間違っても全然大丈夫。むしろ間違いがわかったってことは、理解への第一歩だよ」
「わからないことが“見えた”なら、それはむしろ前進なんだ」と、間違いや迷いを肯定する声掛けを続けました。
そして数回後の授業。A君は、いつものように解けない問いに直面した瞬間、こう言いました。
「先生、これは僕にはわからないので、一度説明してくれませんか?」
その言葉には驚きと、ちょっとした感動がありました。
「わからない=悪いこと」という思い込みが、「わからない=聞いてもいいこと」へと変わった瞬間。
彼の表情は明るく、前向きなものでした。
④ 【エピソードその2】高2・Bさん:「待つ」ことで引き出す質問力
続いてご紹介するのは、高2で医学部を目指しているBさんのケースです。
彼女は非常にコツコツタイプの生徒ですが、自分の言葉で説明することが苦手で、質問も「教えてください」の一言で終わってしまうことが多い子でした。
ある日、絶対値が2つついたグラフの問題に取り組んでいたときのこと。
彼女は冒頭から、「この問題がわからないので、教えてほしいです」と言ってきました。
そこで私はあえてこう返しました。
「どこがわからないか、ゆっくりでいいから考えてみて」
彼女は少し戸惑ったようでした。たぶん、すぐに解説が始まると思っていたのでしょう。
でも私はそのまま**“待つ”ことにしました**。約2分の沈黙。
会話の中ではとても長く感じますが、焦らずに待ちます。
すると彼女はぽつぽつと、断片的に言葉を絞り出し始めました。
「この絶対値の外れる条件が分からない気がして…」「グラフを描くときにどの点をとればいいのか…」
それらは、まさにこの問題で重要なつまずきポイントでした。
私はその言葉を受け取りながら、必要な部分だけ補足し、ヒントを与えました。
最終的に、彼女は自分の手で解答までたどり着くことができました。
問題を「ただ解説する」のは簡単です。
でもそれでは、生徒自身がどこでつまずいたのか・何が理解できているのかが不明瞭なままです。
対話を通して、「自分で言葉にする経験」を重ねることで、生徒の中に「考える力」と「伝える力」が育っていくと感じます。
⑤ 対話で育つ「自学力」:先生が心がけていること
こうした経験を通じて、私は**“質問する力”は、教え方や雰囲気づくりによって育てられる**と確信しています。
以下は、私が日頃意識していることです。
・すぐに答えを与えすぎない。待つ勇気を持つ
・間違いを責めない。むしろ「そこが発見だね」と前向きに伝える
・「どこが分からない?」ではなく、「今どう考えてる?」と投げかける
・オンラインでも小さな反応を拾い、会話のキャッチボールを丁寧に重ねる
質問は、生徒からの“発信”です。
その発信が安心してできる環境を、教師の側が整えることがスタート地点なのです。
⑥ まとめ:質問力は才能じゃない。「引き出されて育つ力」
「質問する力」と聞くと、何か特別なスキルや性格のように思えるかもしれません。
でも実際は、どんな生徒も“質問できる子”になれるのです。
それは、周囲の大人や先生の関わり方、受け止め方次第。
わからないことをそのままにせず、勇気を持って「わからない」と言えること。
その一歩が、理解を深め、自学力を高め、受験でも将来の学びでも大きな力になります。
「うちの子、質問が苦手で…」
そう感じている保護者の方にこそ、知ってほしいことがあります。
質問できない子は、“できる子”になる力を、ちゃんと持っているのです。
そしてその背中を、そっと押してあげることこそ、私たち教師の役割だと信じています。
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