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医学部受験5年間の軌跡|補欠から正規合格まで諦めなかった生徒と家庭教師の感動実話

2025/11/13

1本のワインに込められた、5年間の軌跡

昨日、私の誕生日に1本のワインが届いた。差出人の名前を見た瞬間、胸が熱くなった。あの日から、もう10年以上の月日が流れていたのだ。

始まりは2011年四月

あれは2011年四月下旬のことだった。震災からまだ1か月ほどしか経っておらず、日本中が重苦しい空気に包まれていた頃。私は1人の生徒の家庭教師を引き受けることになった。週2回、1回2時間という約束だった。

初めて会ったその子は、普通の高校を文系で卒業したばかりの女の子だった。しかし彼女の瞳には、並々ならぬ決意の光が宿っていた。

「先生、私、医師になりたいんです」

その一言は、今でも鮮明に覚えている。文系で高校を卒業し、医学部受験に必要な理系科目をほとんど学んでいない状態からのスタート。しかも、必要な全教科を対面式の家庭教師で学ぶという決断。普通なら「無謀だ」と言われても仕方がない挑戦だった。

彼女のご家庭は、本気だった。私は英語を担当することになった。週2回、1回2時間。そして驚いたことに、数学、化学、生物の3教科には、それぞれ東京でも指折りの、いや、おそらく日本でトップクラスと言っていいほどの超一流講師陣が揃えられた。1回の授業料が数万円するような、プロ中のプロたちだった。

医学部受験という険しい山に挑むために、最高峰の布陣が組まれたのだ。

2年間の基礎固め

最初の2年間は、本当に大変だった。彼女は理系科目の基礎から学び直さなければならなかった。高校3年間で学ぶ内容を、1から積み上げていく作業。それも、医学部受験という高い壁を越えるためのレベルまで引き上げなければならない。

私は英語を担当した。週2回、1回2時間の授業。医学部受験の英語は、一般的な大学受験とは次元が違う。医学論文を読み解く力、複雑な文章を正確に理解する力。そして何より、限られた時間内で大量の英文を処理する速読力が求められる。

時折、他教科の超一流講師の先生方とも情報交換をした。数学の先生は、彼女の論理的思考力の伸びを褒めていた。化学の先生は、彼女の暗記力と理解力のバランスの良さを評価していた。生物の先生は、彼女の粘り強さに感心していた。

私たち講師陣は、それぞれのプロフェッショナルとして、彼女を医学部合格へと導くという共通の目標を持っていた。1回数万円という授業料に恥じない、最高水準の指導を提供する。それが私たちの責任だった。

週2回の英語の授業は、いつも真剣勝負だった。彼女は1度も弱音を吐かなかった。わからない問題があれば、納得するまで質問を重ねた。私が出した宿題は、必ず次の授業までに完璧にこなしてきた。他の教科の宿題もあるはずなのに、英語の課題を疎かにすることは1度もなかった。

「先生、この問題、三回解き直しました」 「この長文、音読して構文を全部確認しました」

そんな彼女の言葉に、私自身も奮い立たされた。他教科には超一流の先生方がついている。英語も負けられない。彼女の努力に、そして彼女のご家族の期待に応えなければならない。そう思い、私も毎回の授業準備に全力を注いだ。

東京で最高峰と言われる講師陣の一員として、私も恥じない指導をしなければならない。そのプレッシャーは、同時に私自身を成長させてくれた。

3年目、4年目の試練

2年間の準備期間を経て、いよいよ3年目。彼女は初めて医学部受験に挑んだ。

結果は、補欠。番号はいただいたものの、繰り上げ合格には至らなかった。あと一歩。本当にあと一歩だった。

「先生、もう一年やります」

彼女の目に涙はなかった。ただ、さらに強い決意だけが輝いていた。

4年目も同じ結果だった。補欠。番号をいただきながら、繰り上げ合格には届かない。2年連続で同じ結果を突きつけられたとき、彼女はどんな思いだっただろうか。

それでも彼女は諦めなかった。私も諦めるわけにはいかなかった。

東京医科大学事件という試練

そんな中、2015年、彼女は東京医科大学を受験した。二次試験まで進んだ。私たちは手応えを感じていた。

しかし、不合格。

後に、あの忌まわしい「女子差別事件」が明るみに出た。東京医科大学が、女子受験生の点数を一律に減点していたという事実。彼女も、その被害者の1人だった可能性が高かった。

大学側は受験料の返還を行った。それは、不正を認めたということだった。

「先生、悔しいです。でも、これで終わりにはしません」

彼女は泣いた。初めて、彼女が泣くのを見た。でもその涙は、すぐに決意の炎に変わった。

性別という、本人にはどうしようもない理由で道を閉ざされる。それがどれほど理不尽なことか。でも彼女は、その理不尽さに負けなかった。むしろ、それをバネにして、さらに強くなった。

5年目の春

そして2016年春。5年目の挑戦。

私立医学部から、正規合格の通知が届いた。

電話でその報告を受けたとき、私は思わず声を詰まらせてしまった。5年間。週2回、1回2時間。延べ何百時間という時間を共に過ごしてきた。その一つ一つの授業が、今、結実したのだ。

「先生、ありがとうございました。これから、先生に恥じないように頑張ります」

彼女の声は、喜びと感謝と、そして新たな決意に満ちていた。

医学部での6年間、そして今

医学部入学後も、彼女の努力は続いた。医学部は入学してからが本当の勝負だと言われる。膨大な量の知識を習得し、実習をこなし、国家試験に備える。多くの学生が、その過程で苦しむ。

しかし彼女は、その6年間も見事に走り抜けた。卒業時の成績は、なんと学年で20番以内。あれほど遠回りをしてスタートした彼女が、同級生たちと肩を並べ、いや、それ以上の成績で卒業したのだ。

医師国家試験も1発合格。

そして今、彼女は研修医として、日々医療の最前線で学び続けている。患者さんのために、より良い医師になるために。

1本のワインが語るもの

昨日届いたワイン。それは決して高価なものではなかった。でも、その1本からは、彼女の心のこもった温かさが伝わってきた。値段では測れない、かけがえのない思いが込められていた。

添えられたカードには、こう書かれていた。

「先生、お誕生日おめでとうございます。あのとき先生が諦めずに英語を教えてくださったから、今の私があります。英語の論文を読むとき、いつも先生の授業を思い出します。患者さんの命を預かる仕事に就けたのは、先生をはじめ、素晴らしい先生方のおかげです。これからも、先生に教えていただいた『諦めない心』を持ち続けて、立派な医師になります。いつも感謝しています」

私は教師として、彼女に英語を教えた。でも、本当に多くのことを学んだのは、私の方だったのかもしれない。

超一流の講師陣の中で、私も最高の指導を提供しようと努力した。その過程で、教師としての自分も磨かれていった。彼女は、生徒であると同時に、私を成長させてくれた存在でもあったのだ。

諦めないこと。 理不尽な壁に直面しても、前を向き続けること。 自分の夢を、誰かの評価や偏見に左右されないこと。 そして、何年かかっても、本当にやりたいことを追い続けること。

彼女は、それらすべてを体現してみせた。

教師として、人として

家庭教師という仕事は、多くの生徒と出会い、別れていく。合格という形で送り出せることもあれば、途中で別の道を選ぶ生徒もいる。それぞれの人生があり、それぞれの物語がある。

でも、彼女との5年間は、私の教師人生の中でも特別なものだった。数学、化学、生物という他教科には、東京でも最高峰の講師陣がついていた。その中で、私は英語を担当させていただいた。週2回、1回2時間。他の先生方と共に、1人の若者の夢を支える。その栄誉を、私は一生忘れないだろう。

英語という一教科を通じて、彼女の成長を見守ることができた。最初は基礎的な文法でつまずいていた彼女が、やがて医学論文レベルの英文を読みこなせるようになっていく過程。その一つ一つの進歩が、今でも鮮明に思い出される。

今夜、私はあのワインを開けようと思う。グラスに注ぎながら、あの5年間のことを思い出すだろう。最初の授業での緊張した表情。難問に挑む真剣な眼差し。不合格を知ったときの悔しさ。そして、合格を勝ち取ったときの喜び。

そして思うのだ。

教師として生きてきて、本当に良かった、と。

人の人生に関わる仕事だからこそ、責任は重い。でも、その分、喜びも大きい。1人の生徒の人生が、良い方向に変わっていく。その瞬間に立ち会えることほど、幸せなことはない。

彼女は今、白衣を着て、患者さんのために働いている。彼女が診る患者さんは、彼女の優しさと、困難を乗り越えてきた強さに触れることになるだろう。きっと、素晴らしい医師になるに違いない。

1本のワイン。それは単なる誕生日プレゼントではなかった。

それは、5年間という時間の結晶だった。 2人で積み上げてきた、無数の授業の記憶だった。 諦めずに歩き続けた、1人の女性の軌跡だった。

そして何より、師弟という枠を超えた、人と人との絆の証だった。

教師をやっていて、本当に良かった。心からそう思える、最高の誕生日プレゼントだった。

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