模試と「五喜一憂」
2025/4/20
中学受験において、模試の結果というものはどうしても気になるものです。ですが、模試の判定は「現時点での実力」を示すものであって、「合否の確定」ではありません。特に小学生は伸びしろが非常に大きく、ほんの数ヶ月で大きく成績が変わることも珍しくありません。今の判定が良くても気を緩めてはいけませんし、悪くても「まだ伸びしろがある」と前向きに受け止めるべきものです。
何より、模試で本当に大切なのは「結果」より「中身」です。どの単元でミスが多いか、時間配分は適切だったか、記述の表現力に課題はないかなど、判定以上に見るべきものはたくさんあります。模試に限ったことではありませんが、集中して取りくんだ中での誤答は「宝物」です。間違えた問題を一つでも次にできるようにすれば、それが成績の向上につながります。模試を通して何を学ぶべきかに目を向けることが一番大切なことです。模試の偏差値や判定はあくまでも「目安」であり、戦略を決める「材料」にすぎません。
とは言え、模試は勉強と研鑽の場であると同時に、自分の立ち位置や現状を判断するためのツールでもあります。では、模試を通して自分(生徒さん)の立ち位置をどのように判断すればよいのでしょうか。
模試の判定は実力だけでなく、その日の体調や出題傾向、周囲の受験者層にも影響を受けます。実際、同じ生徒さんでも、偏差値に10以上の増減があったり、判定が大きく変化することは珍しくありません。また、たとえばある時点においてC判定やD判定でも、残りの期間で大きく学力を向上させたり、志望校の出題傾向に合った対策を地道に積み重ねれば、最終的に合格に届くことも珍しいことではありません。逆に、A判定でも学習を怠ったり、油断したり、途中で精神的に疲れてしまったり、傾向に合った対策ができていなければ、思ったような結果が得られないこともあり得ます。
たとえば、偏差値については最高値と最低値、また平均値などを参考に、ある程度のぶれを想定して「チャレンジ校」、「志望校・併願校」、「安全校」を判断する材料とするのが良いかと思います。最低値にとらわれ過ぎてもいけませんし、最高値に浮かれすぎてもいけません。また、全体として上り調子にあるか、下落傾向にあるか、安定的かなども一つの判断材料になりえます。また、比較的点数の取れる単元や比較的苦手な単元を分析し、志望校の出題傾向と照らし合わせて「得意を伸ばす」方が良いか「苦手を克服する」方が良いかの見極めの材料とするのも良いかと思います。1回ごとの漠然とした数字や判定に惑わされるよりも、より細かな分析をもとに具体的な像を描き出すためのツールとして模試の成績や判定を利用する方が、良い結果につながるのではないでしょうか。
また、模試の判定結果に一喜一憂することは、お子様のモチベーション的にもあまりよい効果は生みません。長い間教員をしているとよく分かるのですが、子どもは大人のことを本当によく見ており、たとえ大人が態度や言葉に出さなかったとしても、大人が内心で考えていること(特にネガティブな感情)については非常に敏感に察知します。模試の結果を見たときには、まず心から「お疲れさま、頑張ったね」と声をかけてあげてください。その上で、一緒に「次に向けて何をするか」を話し合っていくことが、前向きな受験につながります。
成績についても、まずは良い点を見つけることが大切です。「難しい問題なのによく挑んだね」、「平均点が低い中でよく前と同じくらいの成績を維持した」、「この科目は前より上がったね!」など、少しでも良い点は積極的に指摘してあげましょう。かといって、あまり褒めてばかりでも油断や慢心が生まれるもの。本当に注意すべき点、本質的に改善しなければならない点についてはよく話し合って、お子様に気づいてもらうようにするのが良いでしょう。「一喜一憂」ではなく、「五喜一憂」くらいのつもりで接してあげると、子どもの方でも前向きに頑張ろうという気持ちが生まれます。こうしたことは積み重ねが大切で、受験の直前期に急にとってつけたように褒めだしてもこどもは「わざとらしい」と感じてしまいがちです。普段からお子様の良い点を見てあげる姿勢、認めてあげる姿勢をとっていると、子どもは根っこのところで安心感や信頼感を獲得し、それが精神的な安定や自己肯定感、自信へとつながっていきます。
模試は「成績」だけではなくお子様の「成長」を見る一つのきっかけになるものです。模試を通して、自分で課題を見つけ、努力し、成長していく姿こそが中学受験の本質です。目標を達成することはもちろん大切ではありますが、一方で、判定に振り回されることなくお子様の「学ぶ力」、「考える力」、「努力する力」、「あきらめない心」を育んでいくことを大切にしたいですね。
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