「その問題集、合っていますか?」 ~ 中学受験・算数&理科の「正答率」から考える教材選び
2025/8/3
中学受験の算数や理科を勉強する際には、塾で指定された教材のほか、多くの市販問題集や過去問など、様々な問題集に取り組む場合が多いのではないかと思います。そうした際に気になるのが、「この問題集は勉強している子に合っているのかどうか」という問題です。
勉強に限らず、何かの力を伸ばそうという時には、目的や発達段階に合わせて適切なツールを用いることが望ましい(これは、教材に限らず、実は塾などもですが)のですが、実際にその子のレベルにあっているのかどうかを判断することはとても大切です。
今回の記事では、あくまでも一つの参考として、「どのような問題集がその生徒にあっているか」という点について、私が生徒を教えている際に感じていることをお話してみたいと思います。
【中学受験理科(知識問題)】
〇 正答率にかかわらず、抜けている知識は徹底して埋めていく意識を持つべき
〇 理想は満点
〇 少なくとも8割程度の正答率を目指す
〇 8割に満たない場合には、そこに届くステップを考える
:中学受験の理科には、計算で答えを出したり、仕組みを理解して答えを出す問題もありますが、それ以前に単純な知識を要求される問題もあります。特に、中堅校までの学校では、こうした知識問題が設問の多くの割合を占めることも少なくありません。
こうした知識問題は、「知らなければ解けない」、「知っていれば(原則として)解ける」問題がほとんどですから、「知識の抜け=失点」であると考えた方が良いでしょう。ですから、知識問題については、もし「穴」がある場合には、正答率にかかわらず即座にその「穴」を埋めていくことが望ましいです。また、一般的に単純な知識問題よりも、仕組みや計算に基づく問題の方が難しいですから、知識問題については理想を言えば満点に近い状態に、少なくとも8割程度は正解できるという状態を作っておくことが望ましいです。
ですから、現状で知識問題について「半分程度、またはそれ以下しか取れない」という場合には、早急にそれらの知識を補っていく必要があります。その際、自分ができていない・知らない知識をいっぺんにどうにかしようとするのではなく、「少なくともこれは覚えよう」というステップを作って、一つ一つ確実に覚えていく方が力は付きやすく、モチベーションも保てます。「あれもこれも」と欲張ってしまい、結局どっちつかずになってしまった、ということがないように気を付けた方が良いでしょう。
いずれにしても、知識問題については多くの部分は努力でカバーできるところが大きく、また内容的にも大きな差はありません。そういった意味では問題集の「合う、合わない」という問題は生じにくいので、大手塾など各塾で使用されている教材のように、各単元の解説部分がしっかり網羅されているものであれば、現状の正答率にかかわらず、それをできるだけ高いレベルで仕上げていくという意識をもって取り組むのが良いでしょう。
【中学受験理科(計算・仕組み)、中学受験算数】
〇 学習のベースとして使っている問題集は5割以上~7割強程度が理想
〇 計算問題など、毎日取り組む基礎学習用問題集は8割以上が適切
〇 上位層が応用力を高めることを目指すのであれば、4割前後の正答率でもOK
:中学受験理科において計算や仕組みを問うような問題が主体であるものや、中学受験算数の問題集として最も適切なものは、それに取り組むお子様の正答率が5割以上~7割程度までの問題集であるように思います。子どもの発達についての研究などでも、「発達の最近接領域」(一人でできることと、自分一人ではできないことの間にある「補助があればできること」の領域)での学習が効果的な成長や発達をもたらすと考えられています。つまり、学習効果が最大化されるのは「今の自力の能力より少し難しい」課題に取り組むときで、この「少し難しい」レベルというのは概ね正答率60〜80%程度であると考えられています。
また、多くの大手塾のテキストや問題集は、名称こそ多少の違いはあるものの「基本問題」、「応用問題」、「発展問題」などの構成になっており、それぞれが「80〜90%以上の正答率を想定した理解の確認を行う問題」、「50〜70%の正答率を想定した思考力の伸長を目指す問題」、「正答率30〜50%の上位層で差がつく難問」となっています。
もっとも、個人差というものがありますので、たとえば「基本問題」とされている問題でも半分以下の正答率しかない場合には、問題集をより基本的なものに変えたり、「応用問題」とされている問題で全問正解が常態化している場合には「発展問題」を中心に解いたり、より難しい問題集に変えたりするなど、工夫をして利用するのが良いでしょう。
また、子どもの性格的な面も意外に大切です。困難な状況でも挑戦する気持ちを忘れずに努力できる、負けず嫌いな子どもの場合には、多少難しい問題集でも力を伸ばすには適している場合があります。その際、適切な学習の仕方(解答・解説をしっかり読んで理解し、解き直しなどを通してできる領域を広げていく)をしているかどうかはよく確認しましょう。一方で、打たれ弱く、自信を失いやすいタイプや、困難に出くわすと興味関心を失ってしまうタイプの子どもの場合には、モチベーションの維持を最優先に考えて、多少正答率が高く出る問題集を使うのが良いかもしれません。
さらに、各単元の得意・不得意などもあります。特に理科などの場合には単元による差が顕著に出る場合が多いため、「得意な単元は応用問題や発展問題を中心に解く」、「苦手な単元は基本問題や応用問題の一部を中心に理解を深めることに専念する」など、同じ問題集の中でも柔軟な使い方を考えて学習するのが良いでしょう。
【まとめ】
問題集が適切かどうかは、概ね以下の内容をもとに判断すると良いでしょう。
〇正答率95%以上(正答率が高すぎる)
:問題が簡単すぎて、力がつきにくいです。達成感はありますが、伸びは鈍化しがちです。
〇正答率50〜70%強(ほどよい正答率)
:最も学びが深まるゾーンだと思われます。解説を理解し、解きなおすことで力が伸びます。
〇正答率30%以下(正答率が低すぎる)
:難しすぎて、挫折感や疲労感が高まりやすいです。また、理解できないまま取り組んでいるので、力もつきにくいです。
また、算数と理科については学習内容に差があるので、以下のような基準で考えると良いでしょう。
〇算数
:日々の計算問題などでは正答率80%程度の問題集が良いでしょう。メインの学習で使う問題集は、新しい単元を習ったばかりの導入時には「基本問題」のレベルで80%以上が解けるような問題集を選び、「応用問題」で50~60%の正答率をキープできるような問題集を選ぶのがよいでしょう。また、上位層の場合には、これに加えて発展的内容に挑戦できる問題を用意できると良いかと思います。
〇理科
:基本的には算数と同様の考え方でよいかと思います。メインの学習で使う問題集では、暗記系単元では80%以上を目指し、計算・実験・思考系単元では60%前後の正答率のものを使うのが良いでしょう。
学習効果を高めるためには、自分の現在の理解度や習熟度に合った教材や学習環境を選ぶことが重要です。難しすぎる教材では意欲を失い、易しすぎるものでは成長が止まってしまいます。
自分に合った教材と環境を選択して、自分の持っている力を最大限に伸ばしていきましょう!
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