受験本番に強いメンタルとは何か|「崩れない」ことの本質と鍛え方
受験が近づくにつれて、多くの生徒が不安に感じるのが「本番で実力を出せるかどうか」です。普段は解ける問題なのに、本番になると頭が真っ白になってしまうという経験がある人もいるのではないでしょうか。
では、「受験本番に強いメンタル」とは一体どのようなものなのでしょうか。
このお話はかなりデリケートなもので、受験本番近くなってお話しても「そんな、直前に言われても困る…」といった形でかえって落ち込んでしまうということもあるかと思いますので、あえて4月のこの時期に書いてみようと思います。もし、お読みになっているのが受験直前で、「読むとかえって病む」とお感じになるようであれば、今回は読まずにおきましょう。
そんなわけで、今回は受験本番に強いメンタルをどうすれば備えることができるのかについて整理してみたいと思います。
【本番に強いとは】
「本番に強い人」とは、一言で表せば「緊張してもパフォーマンスが落ちない人」です。
心理学の分野に、「ヤーキーズ・ドットソンの法則」というものがあります。
これは簡単に言えば、
・ストレスが全くないとかえって集中できない
・ストレスが強すぎても力を発揮できない
・適度な緊張状態が最もパフォーマンスを高める
というもので、教育・スポーツ・ビジネスなど多くの分野で言及されることがあります。もちろん、やや単純化しすぎているという批判はありますが、基本的な指針としては今でも有効とされています。
つまり、重要なことは「緊張を消すこと」ではなく、「緊張をコントロールできる状態にする」ことです。緊張することは決して悪いことではないと理解しておくだけでも、「緊張している自分」に落ち込まなくて済みます。
【本番で崩れる時に起きていること】
では、どのような場合に緊張状態がパフォーマンスを低下させてしまうのでしょうか。
本番で実力が出せない原因は、主に次の3つに分けられます。
① 強い不安で、脳が疲れてしまう(ワーキングメモリの圧迫)
:強い不安状態では、脳が処理できる力(ワーキングメモリ)が不安によって消費されてしまいます。その結果、本来使うべき思考力が働かなくなってしまうのです。
② 結果を過剰に意識してしまい、課題自体から意識がそれる
:「うまくいかなかったらどうしよう」、「絶対に失敗できない」などの思考を強く持ってしまうと、自分の注意が結果を心配することに集中してしまい、目の前の問題や課題から意識がそらされてしまいます。
たとえば、成功した場合に高い報酬を約束されている条件下では、能力の高い人ほど成績が低下するという研究があります。スポーツ心理学ではこのような「結果を意識しすぎると失敗する」ことを「チョーキング(過緊張による失敗)」と呼んでいます。
③ 再現性の低い学習
:教育学の分野では、普段の学習環境と本番の試験環境が違いすぎると再現性が低下して力を十分に発揮できないことがあることが知られています。これに従えば、普段の勉強を常に「静かな環境で」、「時間に制限なく」、「何度でもやり直し可能」という条件下で行っていると、本番の環境でその力を再現することができなくなるということになります。
よく、「静かでないと集中できない」という人がいます。それは確かにそうなのですが、試験会場が常に自分にとって快適な環境とは限りません。実際、私自身の受験本番では、おそらく暖房の配管の音だと思うのですが、試験時間中ずっと「ガーン、ガーン」とかなり大きな音が断続的に鳴り響く環境で試験を受けさせられました。「マジか…(苦笑)」と思いながら古文を解いたことをよく覚えています。
こうしたことを考えると、自分にとって最適の環境に過度にこだわるのではなく、多少の物音では動じない習慣を身につけることも大切です。
【強いメンタルの本質は「再現性」である】
これまでのお話を整理すると、精神面が悪い結果につながるのは、脳の処理能力が感情や、課題とは直接関係ない結果予測などに多く費やされてしまい、目の前の課題から注意がそれてしまうことが原因となっていることが分かります。また、過度に画一化された環境下で練習(学習)を繰り返してしまうと、別の環境下に置かれた時にパフォーマンスが低下してしまうことも分かります。
こうしたことを踏まえると、「メンタルが強い」とは実は「どんな状況でも普段のパフォーマンスを再現できる能力」であることが分かります。つまり、必ずしも性格や感情といった精神論的な問題ではなく、どちらかといえば技術的な問題だと言えます。
【パフォーマンスを下げないものの考え方】
また、心理学では、人の能力に対する捉え方として「成長マインドセット」という考え方があります。スタンフォード大学のキャロル=ドゥエックによって提唱された考え方で、「能力や知能は生まれつき固定されたものではなく、努力・工夫・学習によって成長する」というものです。
この反対の考え方は、「固定マインドセット」と呼ばれます。これは、「知能や才能などの能力は生まれつき決まっており、努力によって大きく変化しないと考える心理的傾向」のことを指します。
(成長マインドセット[Growth Mindset]による捉え方)
○ 失敗 = 成長の材料
○ 努力 = 能力を伸ばす手段
○ 課題 = 挑戦すべきもの
(固定マインドセット[Fixed Mindset]による捉え方)
○ 失敗 = 能力の否定
○ 努力 = 才能がない証拠
○ 課題 = 避けるべきもの
この二つの考え方では、「成長マインドセット」を持つ人の方がストレス耐性や成績の伸びが高いという研究もあります。逆に言えば、「自分は本番に弱い」と決めつけること自体がパフォーマンスを下げる要因になり得るとも言えるかもしれません。
そして、実験や観察によれば、「成長マインドセット」は後天的に身につけることが可能です。ただし、単なる「気の持ちよう」ではなく、環境・経験・思考習慣の組み合わせによって形成されるものと考えられています。
それでも、先天的なもので決定されるわけでなく、思考様式を改善できるのであれば、そうした思考様式を身につけるための行動をとった方が、本番に強い自分へと近づけることになります。
【本番に強くなるために実践できること】
「強いメンタル」というものが必ずしも先天的・感情的なものではなく、技術的な問題であるとすれば、技術さえ身につけることができれば、力を高めることも可能なはずです。それでは、どうすればその技術を身に着け、メンタルを「強く」することができるのでしょうか。ここで重要になるのは、現実の場面で実現するための「再現訓練」です。
① 本番形式の演習を増やす
時間制限・環境・問題量を本番に近づけることで、「緊張状態でも解く経験」を積みます。
これはいわば「慣れ」による不安低減です。そうした意味では、模試なども自宅などではなく、できる限り試験会場で本番に近い形で受験する経験を積んでおくことが望ましいと言えます。
② 多くの経験を積み、「失敗」を体験しておく
一見逆説的ですが、失敗への耐性が高いほど本番に強くなります。心理学ではこれを「曝露(exposure)」と呼びます。不安や恐怖を引き起こす対象・状況にあえて向き合うことで、不安や恐怖といった反応を弱めていくという手法です。
よく言われることですが、挫折を知らない人ほど脆いと言われます。同様に、失敗に慣れていない人ほど本番での小さなミスに過剰反応して崩れることがあります。
そうした意味では、様々な方面での経験を積み、その過程で致命的ではない一定の失敗経験を積んでおくことは悪いことではありません。そして、「失敗=悪いことではない」と意識すること自体が、失敗に対する過度な不安・恐怖を取り除くことに役立ちます。
以前、別のブログ記事でも書いたことがありますが、挑戦する過程での間違いは「宝物」です。そうした意識を普段から持つことが、結果として強いメンタルを作っていきます。
③ ルーティンを作る
試験前の行動(深呼吸・姿勢・確認手順など)を固定化することで、状態を安定させます。これはスポーツ選手がよく用いる方法で、注意の分散を防ぎます。よく、試合の前とかに体を回したり、「フシュー」って感じで呼吸を整えたりしている選手がいますよね、アレです。
試験前に会場で手を組んで「フシュー」ってやっていたらちょっと怪しいかもしれませんが、それで落ち着くならいいのではないでしょうか。他人に迷惑がかからない範囲であれば、自分がもっとも落ち着くルーティンを決めておくのも手かもしれません。
④ 自動化レベルまで基礎を固める
計算、基本知識、典型的な解法などについて、「考えなくても出る」状態にしておくことが重要です。バトルもののマンガなどで「考える前に…体が勝手に!これが修行の成果か!」みたいなシーンがありますが、アレです。
なかなかイメージしにくいかもしれませんが、たとえば自分の名前を漢字で書いたり、九九の答えを言ったりということは、特に考えなくてもできるという人が大半だと思います。でも、最初に勉強し始めたころはそうではなく、「どうやって書くんだっけ」とか、「9が3つだから…」とか、考えながらどうにかやっていたはずです。それが今、特に何も考えずにできるというのは、繰り返しやってきたことで自動化され、「考えなくてもできる」というところまでできるようになっている証拠です。
同様に、現在学習している内容の一部だけでも、こうした「自動化」できるほどに自分の中に浸透・消化させることができれば、脳にかけるワーキングメモリの負担を軽減することができます。結局のところ、努力の積み重ねこそが不安や負担を軽減することにつながります。
⑤ 「結果」ではなく「行動」に意識を向ける
「結果」として何を得るかではなく「行動」として何をするかということの方に意識を集中させることが大切です。試験で言えば「何点取るか」や「偏差値がいくつになるか」ではなく、「問題を丁寧に処理する」ことや、「どの問題から取り組むか」といった実際の行動に集中することです。
先にお話した通り、パフォーマンスの低下は、目の前の課題から意識がそれた時に起こります。ですから、普段から「課題に集中する」、「課題をクリアするために何をするかという行動に意識を向ける」ということが、注意力のコントロールという観点で非常に重要になります。
⑥ 強いメンタルは「才能」や「性格」ではないと知る
受験におけるメンタルの強さは、しばしば「性格」や「度胸」の問題と捉えられがちです。しかし、実際には「緊張の扱い方を知っているか」、「本番の環境や失敗といった経験があるか」、「再現性のある学習をしているか」という、普段の行動から得られる知見によって大きく左右されるもので、後天的なものも大きいのです。
逆に言えば、良い結果を得ることにとらわれすぎたり、失敗を過度に恐れたりしてきたことで、悪い結果や失敗といった経験を積んでこれなかったことこそが、緊張や不安といったものにつながっているのかもしれません。
「失敗は成功の母」と言います。失敗を「宝物」として意識し、自分の緊張や不安も悪いものではないと客観的にとらえ、「強いメンタル」は後からでも作れると考えて行動に移していけば、少なくともこれまでよりは心持ちが軽くなってくるのではないでしょうか。
【おわりに】
緊張や不安に立ち向かうことは簡単なことではないかもしれませんが、それでも改善できない問題ではありません。緊張をゼロにする必要はなく、それをコントロールする力を身に着けていけばよいのです。
人によって、実際に安定した精神状態を作るきっかけや訓練の仕方は様々かと思いますが、お話したことの中から「これは使えるかも」、「これならできるかも」と思えたことから試してみるのも良いかもしれません。そうすることで、「不安があっても思考を維持できる状態をつくる」、「普段の力を再現できる技術をみにつける」ことができれば、本番の試験で今以上の不安を抱えることはなくなるのではないでしょうか。
みなさんが技術としての「強いメンタル」を身につけることができますように。