大学教員をしていた立場からみなさんに伝えたいこと3(みんな誤解している積分記号の話)

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2025/5/3

みなさんは、ある2次関数の不定積分を求めなさいといわれたら、まずどのような式を書きますか?例えば次の3つの式のうちどの式を書くでしょうか。

②が正しい式だということは分かりますよね?高校数学の教科書、参考書は必ず②の式が書いてあるはずです。では、①とか③はどうですか?

まず、ここでハッキリ言っておきたいのは①は間違いだということです。皆さんの中にも①を書いている人はいませんか?ダメですよ。では、なぜ①は間違いなのでしょうか?①が間違いである理由は、積分記号の意味をきちっと理解していないと分からないかも知れません。なので、それをこれから詳しく説明することにしましょう。

その前に、ここで長いこと大学で教員をしていた立場から、どうしても伝えたいことがあります。それは、残念ながら①の式を書く大学生が、なぜかやたらたくさんいる、ということです。たしかに、ほとんどの学生はちゃんと②のように書いてくれるのですが、なぜかいるんです、無視できないくらいの人数の①を書く大学生が。どうも、その学生たちは積分というのは、「 ∫ とdxで挟まれた関数を積分するものなのだ」という理解をしているようなのです。つまり、∫ と dx は「その記号に挟まれた関数を積分する」ということを表す一種の「飾り」だと思っているらしいのです。②の式を書く学生の中にも、本当はそのように理解している人がいるかもしれません。ですから、かなりの割合でそのような勘違いをしている人がいるのではないかと思っています。みなさんの中にもそう思っている人はいませんか?なるほど、「 ∫ とdx で挟まれた関数を積分するもの」であるならば①でもいいことになりますよね。ですから、もしその考え方が正しいのであれば、なにも括弧で関数を囲む必要がなくなりますから、面倒臭がり屋は括弧を省いてしまうでしょうね。

ところが ∫ と dx は単なる積分を表す飾りではありません!その記号の意味をきちんと理解すると、①が間違っていることがわかるばかりではなく、実は③は間違いではない!ということも分かります。

きっとみなさんは③の書き方はすごく違和感があるでしょうね。何しろ高校の教科書はもちろんのこと、大学受験の参考書も、私が知る限り③のような書き方をしているものはありませんから。み~んな①で統一して書かれています。しかし、③も正しい書き方なのです。先ほどお話した「 ∫ と dx で挟まれた関数を積分するものだ」という理解をしている人からすると、③を見ると積分するのは記号で挟まれた(省略されていますが)1という定数だけで、その結果に xの2次関数を掛けたものが答ということになってしまいますよね。でも、そうではありません。③の答は①の書き方と同じ答になります。実は我々研究者(少なくとも理論物理学の研究者)のあいだでは論文や、専門書でも当たり前のように積分の式が③のスタイルで書かれていることがたくさんあります。なぜ③も正しいと言えるのでしょうか。それが今回、是非お伝えしたいことなのです。


では、上に書いたことを理解してもらうために、そろそろ積分記号の意味を考えてみましょう。

高校の教科書は、微分の逆演算としての不定積分の勉強から入りますが、もともと積分のアイディアは定積分からスタートして考えなくてはいけません。さらに、定積分はもともと区分求積法の

という式と同じものを表していることを理解しておく必要があります。細かい説明は省きますが、この式は大雑把に言えば無限個の f(xk) の値と Δx の掛け算の和です。定積分

は、それと同じことを表していて、これまた大雑把に言ってしまえば ∫ の記号は

の部分を、dx の記号は n→∞ のときの Δx を、それぞれ表しています。要するに、定積分の式中で f(x)dx の部分は区分求積法の式で言えば f(xk)Δx の部分に相当していて、それは f(xk) と Δx の積ですから、f(x)dx も f(x)と dx の積、つまり掛け算ということになります。それが証拠に、置換積分のことを思い出してみてください。例えば

のような問題が与えられたとき、みなさんはどう解きますか?一番便利な方法は

と、変数を置き換えますよね。(まだ置換積分の方法を習っていない人はそのうち必ず習いますので、それまで少々お待ちください。^^;)すると、

と考えることができるので、上の式は

という変数 t の簡単な積分の形になり、④の答を簡単に導くことができます。

さて、ここであらためて④から上の t の積分にたどり着くために、どのような操作をしたか考えてみてください。よく考えてみると、④の積分されるべき関数の中の x の3乗と dx は掛け算されていたからこそ、⑤のように置き換えることができたわけですよね。つまり、④は

という意味であり、だからこそ④の積分の式を

のように書き換えることができたわけです。ということは

とすると、f(x) の不定積分として

と書くのはおかしいですよね。この式で dx は一体何と掛け算しているんでしょうね?この式を見ても、積分すべき関数全体に dx をかけているとは到底考えられませんよね。だからこそ

を積分するためには、f(x) 全体を括弧で囲っておかないとつじつまの合う式にはならないのです。分かってもらえましたか?

上に書いたようなことをよく理解していれば、①のような書き方が間違っていることはすぐにわかるはずなのですが、理系の専門分野に進もうとする人たちの中にも、数学の勉強はただ公式を記憶して、それを問題に当てはめればよいという考えを持っている人がいて、式が表している本当の意味を理解していない人がいます。でも、それでは全く応用が利きませんし、ちょっとでも記憶違いをすると、とんでもない失敗を犯します。数学は理屈を理解することが大切です。


ところで、話はかわりますが③の式について考えてみましょう。掛け算はどういう順序で書いてもいいわけですから、区分求積の式を f(xk) と Δx の順序を入れ替えて

と書いても何の問題もないということは分かってもらえますよね?それと同じ意味で、定積分の式(不定積分の式でも事情は同じ)

と書いても、実は何の問題もありません。だから③も正しい式なのです。(ただし、いくら正しいからといっても、入試の解答にあえてこのように書くことはお勧めしません。やはり、高校の教科書通りの書き方をしておいた方が無難です。)

以上が②と③は正解だけど、①は不正解だという理由です。どうです?記号の意味が分かれば当たり前のことですよね。


まとめ:

積分とは f(x) と dx の積の和なので、f(x) が複数の項から成る式であれば、必ず全体を括弧でくくる必要がある。

もし、入試(特に難関大学の入試)のときに括弧を忘れると最終的な答が正解だったとしても減点されると思います。1点、2点の違いが大きく合否に影響を与えてしまう可能性がある入試です。このようなところで減点されたら勿体ないですよ。括弧は絶対に忘れないように!

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