大学教員をしていた立場からみなさんに伝えたいこと4(間違えることを怖がるなという話)
2025/5/27
みなさんは答を間違えることを怖がっていませんか?
やっぱり誰でも間違いはしたくないですよね。でも・・・。
大学の学習サポートプログラムを実施していると、数学の勉強中に学生から「この問題の解き方がわかりません。教えてもらえますか?」と言われて、ヒントを出しながら少しずつ問題の解き方を説明することがあります。そんなとき、こちらがいきなり正解を導き出してみせてもその学生のためにはならないと思うので、学生本人が自分の手で正解を導き出せるように「ここはこう考えることができるよね。じゃ、まずこういう計算をしてみたらどうだろうか。」と少しずつヒントを出して自分で計算するよう促すと、その学生はジーッと問題を眺めるだけで、まったく微動だにしないということがよくあります。
「いや、だからとにかく手を動かして計算してみようよ。」と言っても、なかなか計算を始めようとしません。こちらの言っていることが分からないわけではなさそうなのですが、なぜか手を動かそうとしません。
これは数学が苦手だ思っている学生によく見られる傾向です。そのような学生をたくさん見てきて気が付いたのですが、どうもそれらの学生たちは
・とにかく間違えることが怖い、間違えたくない。
・間違えるところを見られたくない。間違えたら恥ずかしい。
・面倒臭いので、できれば試行錯誤を繰り返したくない。
・遠回りをせずに、一気に正解を導き出したい。ストレートに正解にたどり着きたい。
という心理が前面に出てしまっていて、正しいか間違っているかは分からないけれど、何かひとつ方針を決めて、とりあえず計算し始めてみようということを極端に嫌うようなのです。
「計算し始めて、もしもその途中でその方針が間違っていたということが分かったら・・・。そんなの嫌だ。そんなことしたくない。」
だから、「とりあえずこういう計算をしてみたら?」と言っても、その段階では最終的な答がまだ見えないので、計算してみようという気にならないみたいなのです。でも、とにかくまずは計算してみないと、その後がどうなるのか分からないじゃないですか。その方針が合っているにしろ間違っているにしろ、とにかく計算してみて、その結果を見ることで初めて次に何をすれば良いのかが分かるということは、よくあることです。そしてその経験が後々とても役に立つことになるのです。
例えて言うならこういうことです。みなさんは迷路パズルはご存知ですよね?とりあえずスタートしてみて、どこかで行き止まりに突き当たってしまったら、ちょっと戻って別の道に行ってみる、ということを繰り返さない限り、ゴールにはたどり着かない。それは当たり前ですよね。
結果がどうなるかわからないけど、とりあえず計算をしてみるという作業が嫌いな学生は、迷路パズルのたとえで言えば、はじめからゴールにたどり着く正解のルートを教えてもらわない限りスタートしようとしないということだと思うんです。でも、そんな都合のいい話はありませんよね。そもそも、そんなことをしたらパズルでもなんでもなくなってしまいますから、面白くもなんともなくなってしまいます。間違えるからパズルは面白いんです。数学の問題も同じです。しかも、何回も間違えているうちに何となく問題を解くためのコツ(迷路の中で最短のルートを見つけだすコツ)を掴むことができます。いきなり正解を導き出す方法を教えてもらっても、そのコツは掴むことができません。
こういうたとえ話もあります。ロケットの打ち上げ実験が行われたとします。打ち上げてしばらくしてロケットから異常を知らせる信号が届き、ロケットの打ち上げが失敗に終わってしまいました。ロケットの設計段階か、組み立て段階で何か間違いがあったようです。テレビのニュースや新聞では打ち上げに失敗したことを大々的に報道します。世間でも「な~んだ、失敗しちゃったんだ。ダメだなぁ。」のような声が上がり、場合によっては打ち上げに携わった人たちを非難する人も現れます。でも、私たち研究者はそれを失敗だとは思いません。何がいけなかったのかが分かれば、それは失敗ではなく進歩だからです。打ち上げてみないと分からないことだってたくさんあるわけです。実は科学はそういうことの積み重ねで進歩してきました。失敗を怖がっていたら科学は進歩しません。みなさんの勉強も同じことだと思いませんか?
偉そうな顔をしている先生たちだって、初めから何でも知っていたわけではありません。私なんかいまだに試行錯誤の連続です。ましてみなさんはまだ駆け出しなのですから、間違って当たり前。間違った経験の数が多くても、いや、多ければ多いほどその経験が進歩に繋がります。しかも、みなさんが相手にしている問題は絶対に答がある問題です。必ず出口のあるパズルと同じです。今まで勉強した知識だけで解けるはずの問題です。絶対に答えは見つかるはずなんです。
間違えることを怖がらず、遠回りすることを面倒くさがらずに勉強する癖をつけましょう。入試直前ではなかなか難しいかも知れませんが、高校1,2年生ならまだまだ時間はあります。今のうちにそのような方針でやっておけば、直前に焦るようなことはなくなると思いますよ。
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