高校数学

大学教員をしていた立場からみなさんに伝えたいこと2(みんな誤解している極限値の話)

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2025/4/26

こんにちは、佐藤です


早速ですが、みなさんは(といっても高校2年生以上の方たちだけになるかも知れませんが)極限の記号 lim の意味は知っていますか?

「もちろん!その記号の下にx→a と書いてあったら、この記号の右にあるx の式について、x を限りなく a に近づけるという意味ですよね。」

と答えるでしょうね。もちろん、正解です。ただ、もう少し深い意味が隠されています。それは、もしxの式の前にこの記号が付いていたら、「とりあえず、今はこの記号の右に書いてある式を、x=a を除いて考えます。」と宣言しているということです。この事実を案外忘れてしまっていることが多いようです。というか、この点については私の知る限りでは教科書も参考書もあまり強調して書いていないような気がします。でも、このことを絶対に忘れてはいけません。このことが分かっていないから、lim の記号の使い方を間違えていたり、なんのためにこんなことを考えなくてはいけないんだ?という疑問が頭を駆け巡ってスッキリしない状態が続いてしまうのです。

極限の問題で出てくる関数は、大概「ある x の値で f(x) の値が不定、つまり定義できていない関数」です。それを「不定形」といいます。文章だけではわかりにくいので具体的な関数を考えて話を進めましょう。例えば

という関数を考えます。この関数は、x にいろいろな値を代入すると、ほとんどの場合はその x の値に伴って f(x) の値が決まります。しかし、唯一 x=2 のときは分母も分子も 0 になって、その場合はどんな値なのか分かりません。つまり、x=2 ではこの関数の値は定義できていないということになります。そこで、x=2 以外の x の値ではちゃんと f(x) の値がハッキリ分かるので、x=2 以外のところを考えて徐々に 2 に近づけていったら f(x) はどんな値に近づくだろうかと考えます。それが所謂「極限値」です。ここで勘違いしてはいけないのは、決してその極限値は f(2) の値という意味ではないということです。x=2 では f(x) の値はあくまで定義できていないので、極限を考えたからと言ってその値がそのまま f(2) の値を表しているというわけではありません。このことは後で詳しく説明しますが、まず極限値の求め方(limの記号の使い方)について考えてみましょう。


さて、上の f(x) の x=2 での極限値は分かりますか?そうです4ですよね。どうやって求めましたか?

という計算をしましたよね。正解です。しかし、ここで極限値のことを誤解している人がいて、「わざわざ lim をつけなくても、f(x) の分母分子にある x-2 を約分して、全体を x+2 にしてから、そこに x=2 を代入すればいいんじゃないの?」と考えてしまうようです。ここに大きな勘違いがあります。x-2 を約分していいのは x≠2 のときだけです。x=2 のときは x-2 は 0 なので分母の 0 と分子の 0 を約分することになり、それは掟破りの約分です。0 は普通の数字と違います。0 を他の数字と同じように扱ってはいけません。ですから上の式で、なんのことわりもなくいきなり x-2 で約分するということは、その掟破りをしていることになってしまいます。

でも、式の前に lim の記号がついていると話は違います。lim をつけておけば、とりあえず「一旦 x=2 以外の x の値を考えていて、後で限りなく x を 2 に近づけますよ」と言う意味になるので、安心して約分することができることになります。ですから、lim の記号をつけずにいきなり

などと書いてはいけません。もちろん、式のうしろに但し書きとして (x≠2) という条件が書いてあれば問題ありません。この場合は、lim の記号をつけているのと同じ意味になります。

ところが、何のことわりもなく上式のような解答をする大学生がたくさんいます。これも前回の括弧を書くのが面倒で書かない学生と同じく、いちいち lim をつけるのが面倒だから書かないのかも知れません。しかし、間違っているのですから絶対にダメです!

大学共通テストのように、マーク式の問題では、計算結果しかみないので勘違いしていても正解を出すことができてしまうようなことがあります。その結果、勘違いしたまま大学生になってしまう人が多いのだろうと思います。そうでなければ、式の途中で lim の記号を省略したり、最後のところだけ lim の記号をつけておけばいいだろうという類の解答を平気な顔をして提出する大学生がそんなにたくさんいるはずがありません。みなさんはそうならないでくださいね。


さて、話を戻して、ここでなぜ極限値4が f(2) の値だという意味ではないのかということを説明します。与えられた f(x) の形として

としか書いて無ければ、この関数は x=2 では定義されておらず、したがって f(2) の値は存在しないということになります。つまりx=2で関数が途切れている「不連続関数」です。グラフで書けば下のようなものです。

x=2 以外では基本的に f(x)=x+2 という一次関数ですが、x=2 のところだけ定義できてないので白丸になっています。つまりそこだけ値が定まっていないということです。でも、正の方向からでも負の方向からでも、どちらからでもいいから徐々に x の値を2に近づけていけば f(x) の値は白丸の位置に近づいていくわけですから4に近づいていくということは確かですよね。それが極限値です。あくまで関数はx=2では定義されていなくて値を持っていないのですが、xの値を2に限りなく近づけると関数の値は限りなく4に近づくということなのです。

数学では、xの値すべてについて一つの式で書かれていないような関数を扱うことがあります。例えば、

という関数を考えることがあります。この関数はすべての x の値についてキチンと定義されています。場合分けされているので違和感を感じる人がいるかも知れませんが、数学的にはこのような関数を定義することに何の問題もありません。しかし、明らかにこの関数の場合

です。なぜなら、関数の定義からすると左辺は4であり右辺は0だからです。このように、すべてのxの値に対して関数の値が定義されていても、

となるような点 a を持つ関数はいくらでも存在します。つまり、x を a に近づけるというときの関数の値(極限値)が常にf(a)の値だと考えてはいけないということを理解してください。(場合によっては x を右から a に近づけたときの極限値と左から a に近づけたときの極限値が異なるような関数も存在します。この話は別の機会にすることにしましょう。)


以上、極限値の意味、分かってもらえましたか。

先日、ネット上で色々調べてみたら、高校数学を解説しているサイトで、そもそも解説している側がこのことをキチンと理解していないとしか思えないようなサイトがありました。ネット上には間違った情報もたくさんあります。ネットを利用して勉強することは悪いことではありませんが、誤情報もあることを理解しつつ十分注意しながら利用してください。


まとめです。

  1. 関数が不定形のとき、limの記号を省略して約分などをしてはいけない。どうしても書きたくなかったら、不定になる x の値が a のとき、x≠a で計算することを宣言してから約分すること。
  2. f(a) の値と、x→a の f(x) の極限値が同じ値とは限らない。


もし、書くべきところに lim の記号を書き忘れると、記述式の入試問題では、たとえ最後の答が正しくても確実に減点されます。


次回は積分記号の使い方で気になるお話をしようと思います。前回の括弧のお話にも通じるお話です。乞うご期待!

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