オンライン家庭教師マナリンク
社会

【旅する日本史 京都 vol.5】 戦国の京都——焼け野原から始まる“再生”の物語

2025/12/17

戦国の京都——焼け野原から始まる“再生”の物語

応仁の乱が終わったあと、京都はどうなったのか。
教科書では「応仁の乱(1467〜77)によって京都は荒廃した」と、たった一行で片づけられてしまうことが多い。しかし、実際に京都の町を歩いてみると、その“続きの物語”が静かに、しかし確かに見えてくる。

応仁の乱は、将軍継嗣問題細川勝元・山名宗全の対立をきっかけに、約10年にわたって続いた内乱だった。

まるっとわかる応仁の乱 後編 ~結局、応仁の乱とは何だったのか?~ - Kyoto Love. Kyoto 伝えたい京都、知りたい京都。

戦場となったのは地方ではなく、天皇と将軍の都・京都そのもの。
町は焼かれ、寺社は破壊され、人々は離散する。
当時の記録には、「洛中洛外、見る影もなし」と記されている。

けれど、京都は滅びなかった。

◆ 無秩序の中から生まれた「自治」

戦国期の京都再生を語る上で欠かせないのが、町衆の存在だ。
武士の権威が揺らぎ、室町幕府の統治力が低下する中で、町の治安や経済を支えたのは、商人や職人たちだった。

彼らは町ごとに結束し、

  • 町組をつくり

  • 自警・防火を行い

  • 祭礼や信仰を通じて共同体を維持していく

この動きは、のちの自治的都市社会の原型とも言える。

実際、祇園祭が戦乱の中でも復活していった背景には、町衆の強い意志があった。
祭は単なる行事ではなく、「この町は生きている」という宣言だったのだ。

◆ 戦国大名と京都——破壊者か、再建者か

やがて京都には、戦国大名たちが再び関わり始める。
特に重要なのが、織田信長の上洛だ。

信長は足利義昭を奉じて上洛し、京都の治安回復と秩序再建に乗り出す。

信長が義昭に本気でダメ出し「殿中御掟」「十七箇条意見書」には何が書かれている? - BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
焼け跡だった町に楽市楽座を広げ、交通と商業を整え、
京都は再び「政治と文化の中心」として息を吹き返していく。

ここで重要なのは、
京都の再生が「自然回復」ではなく、
人の選択と行動の積み重ねだったという点だ。

◆ 旅すると見えてくる“戦国の痕跡”

現在の京都には、戦国の記憶が至るところに残っている。

  • 上京・下京という町の区分

  • 寺町通に集められた寺院群

  • 城郭的構造をもつ寺社配置

これらはすべて、戦乱と再生の中で形づくられたものだ。
ただ歩くだけでは気づかないが、「なぜここに?」と問いを持つと、町全体が歴史の資料になる。

◆ 焼け野原から始まる歴史が、私たちに教えてくれること

戦国の京都は、
「壊された都」ではなく、「立て直された都」だった。

応仁の乱という大混乱のあと、
人々は秩序を失いながらも、新しい形で社会を組み直していった。
この視点は、日本史の理解を一段深めてくれる。

京都の戦国史は、単なる内乱の時代ではない。
再生の力が試された時代なのだ。

戦国時代の京都について~その⑥ 町組はどのような組織で、どう機能していたのか? - 根来戦記の世界

◆ 今回登場した日本史重要用語 解説(受験生向け!)

応仁の乱(1467〜1477)
室町時代後期に起こった大規模な内乱。将軍継嗣問題と、有力守護大名である細川勝元山名宗全の対立が原因。約10年にわたり京都が戦場となり、室町幕府の権威が大きく低下した。

細川勝元・山名宗全
応仁の乱で対立した東軍(細川)・西軍(山名)の中心人物。両者とも守護大名であり、個人的対立が全国規模の内乱へと発展した点が重要。

室町幕府
足利氏による武家政権。応仁の乱をきっかけに統治能力が低下し、守護大名が自立する戦国時代へと移行していく。

町衆(ちょうしゅう)
京都や堺などの都市で力を持った商人・職人層。戦乱によって武士の支配が弱まる中、自治・治安維持・経済活動を担い、都市の再生を支えた存在。

町組
町衆が結成した自治的な組織。防火・治安維持・祭礼運営などを行い、戦国期の都市社会を支えた。のちの自治都市形成の基礎となる。

自治
中央権力に依存せず、地域や町が自ら秩序を維持・運営すること。戦国期の京都では町衆による自治が進み、社会の安定に大きく寄与した。

織田信長
戦国時代の有力大名。足利義昭を奉じて上洛し、京都の治安回復や経済活性化を進めた。楽市楽座の実施など、都市再建に大きな影響を与えた。

足利義昭
室町幕府最後の将軍。織田信長の支援で将軍となるが、のちに対立し幕府は事実上滅亡する。

楽市楽座
市場の独占権(座)を廃止し、自由な商業活動を認める政策。信長の経済政策として有名で、京都や城下町の再生を促した。

✍️ 学習ポイント

今回のテーマは
「応仁の乱 → 荒廃 → 町衆による自治 → 戦国大名による再建」
という流れで整理すると、論述・記述問題にも対応しやすくなります。

次回予告|安土桃山から江戸初期へ

「天下統一の先にあった“平和”——信長・秀吉・家康がつないだ時代」

戦国の動乱を終わらせたのは、誰だったのか。
織田信長の革新、豊臣秀吉の統一、そして徳川家康の安定。
安土桃山のダイナミズムから、江戸初期の秩序ある社会へ――
日本史が「戦う時代」から「治める時代」へと大きく舵を切る瞬間を、旅とともに読み解きます。

次回は、城・町・制度に刻まれた「平和への設計図」に迫ります。

このブログを書いた先生

社会のオンライン家庭教師一覧

社会のブログ

【世界を旅した先生が伝えたい!歴史への興味がグッと深まる「旅×学び」のススメ】vol.16 南米編その2

ケチュアの魂が響く――クスコとインティ・ライミ石畳の道を踏みしめるたび、胸の奥が静かにざわつく。「ここが、インカ帝国の中心だった場所なのか」と思わず足を止めてしまうほど、クスコという都市には“時を超えてくる力”がある。標高3,400m。乾いた空気、透明な光。(富士山に近い場所にあるまさに天空の街)視界に飛び込んでくるのは、スペイン植民地都市として整えられた街並みと、その下に脈々と息づくインカの世界観。まさに「過去」と「現在」が重なる都市だ。ここから、インカ文明の核心へと入り込んでいこう。🔶 1. 太陽の神殿コリカンチャ――光に満ちた“宇宙観の中心”クスコの街のど真ん中に鎮座するのが、太陽神殿コ...続きを見る
そらの写真
そらオンライン家庭教師
2025/12/14

【旅する日本史 京都 vol.4】 室町文化と町衆文化の開花——“渋さ”の中に息づく京都の底力

京都を歩いていると、煌びやかな平安や戦国の影に隠れがちな“静かな力”が、ふとした町角に宿っていることがあります。それはまさに 室町 の気配。華やかさよりも「渋さ」「わび」「洗練」を追い求めた文化が、京都の町に今も深く生きています。今回の旅のテーマは、“権力者だけの文化ではなく、町の人々が主役になった時代”。室町文化・東山文化・町衆文化を、旅×日本史の視点で読み解きます。◆ 足利義満が築いた「北山文化」金閣寺(鹿苑寺金閣)の前に立つと、まばゆい黄金の輝きの奥に、室町幕府3代将軍・足利義満の強烈な自己表現を感じます。北山文化のキーワードは公家文化 × 武家文化 × 禅宗文化の融合国際交流(勘合貿易...続きを見る
そらの写真
そらオンライン家庭教師
2025/12/10

【世界を旅した先生が伝えたい!歴史への興味がグッと深まる「旅×学び」のススメ】vol.15 南米編 その1

文明が空へ伸びた場所――マチュピチュとインカの世界南米編の最初の舞台は、南米・アンデスの誇り――マチュピチュ。標高2,400m、雲の切れ間に姿を現す“天空都市”は、世界遺産である前に、インカ帝国の精神が凝縮された聖地でもあります。■ インカ帝国が「石」をここまで大切にした理由インカ文明の石組みは、カミソリ一枚通さない精度で知られています。その理由は、単なる技術力の高さではなく、石に“生命力=カミ”が宿るというインカ固有の世界観にあります。とくに《アプ(聖なる山)》信仰では、山は神そのもの。マチュピチュの建築も、山の稜線・地形に合わせて“削らず、寄り添うように”設計されています。文明とは「自然を...続きを見る
そらの写真
そらオンライン家庭教師
2025/12/7

【世界を旅した先生が伝えたい!歴史への興味がグッと深まる「旅×学び」のススメ】 vol.14 ブルガリア編 ― バルカンの十字路で出会う、祈りと帝国の物語 ―

バルカン半島を旅していると、街の空気の奥に“重層的な歴史”が静かに息づいているのを感じます。その中でもブルガリアは、文明がぶつかり合い、混ざり合い、また離れていく――そんなドラマが詰まった国。ヨーロッパ最古級の歴史を持ちながら、ローマ帝国、ビザンツ帝国、オスマン帝国という巨大な存在に囲まれ続けてきた土地でもあります。その独特の空気を、旅人として一番強く感じたのが リラ修道院 でした。◆ ① リラ修道院 ― バルカンの祈りが凝縮された「青の聖地」標高1000mを超える山奥に突然現れる巨大な修道院。外観の赤・黒・白のアーチ模様、青と金に輝くフレスコ画、どこか異世界に迷い込んだような感覚になります。...続きを見る
そらの写真
そらオンライン家庭教師
2025/11/30

【世界を旅した先生が伝えたい!歴史への興味がグッと深まる「旅×学び」のススメ】 vol.13 北マケドニア編 ― 小さな国に詰まった“大きな歴史”

バルカン半島の山あいに佇む北マケドニア。観光地としては華やかさこそ控えめですが、歩き始めるとすぐに「この国は歴史を背負って生きている」という空気に気づきます。首都スコピエの街に立つと、古代・中世・オスマン帝国・ユーゴスラビア、そして現代に至るまで、まるで地層のように重なり合った時間が一つの景色に収まっています。町中に立つ数々の銅像や記念碑には、“自分たちは何者なのか”を問い続けてきた人々の歴史が刻まれているのです。■ アレクサンドロス大王の記憶と「アイデンティティ」の葛藤北マケドニアを語るとき避けて通れないのが、ギリシャとの“名称問題”。かつて国名を「マケドニア」と名乗ったことで、古代の英雄ア...続きを見る
そらの写真
そらオンライン家庭教師
2025/11/21

この先生の他のブログ

そらの写真

【GMARCH攻略・短期集中シリーズ】第3回 英語②:文法・語法は“出るところだけ”で合格ラインに乗せる

2025/12/15
「全9回に分けて、GMARCHを目指す人へ受験までの道のりを、一緒に確かに歩んでいけるようにお話ししていきます。」第3回は文法 長文読解、単語と並ぶ英語の重要な要素こんな不安はありませんか?文法問題、どこまでやればいいのか分からない語法が細かすぎて、覚えてもキリがない長文は読めるのに、文法で点を落と...
続きを読む
そらの写真

【世界を旅した先生が伝えたい!歴史への興味がグッと深まる「旅×学び」のススメ】vol.16 南米編その2

2025/12/14
ケチュアの魂が響く――クスコとインティ・ライミ石畳の道を踏みしめるたび、胸の奥が静かにざわつく。「ここが、インカ帝国の中心だった場所なのか」と思わず足を止めてしまうほど、クスコという都市には“時を超えてくる力”がある。標高3,400m。乾いた空気、透明な光。(富士山に近い場所にあるまさに天空の街)視...
続きを読む
そらの写真

【英語ブログ】 入試と英検はどうつながる? 語彙の対策①

2025/12/12
こんにちは。毎週金曜の英語学習コラムでは、受験にも日々の勉強にも役立つ「力のつけ方」をお届けしています。――英検と入試で“本当に重なる単語”を知ると英語は一気に伸びる受験勉強をしていると、「入試の単語と英検の単語って、同じなの? 違うの?」そんな疑問を感じたことはありませんか?実はこの2つ、“出る単...
続きを読む
そらの写真

【旅する日本史 京都 vol.4】 室町文化と町衆文化の開花——“渋さ”の中に息づく京都の底力

2025/12/10
京都を歩いていると、煌びやかな平安や戦国の影に隠れがちな“静かな力”が、ふとした町角に宿っていることがあります。それはまさに 室町 の気配。華やかさよりも「渋さ」「わび」「洗練」を追い求めた文化が、京都の町に今も深く生きています。今回の旅のテーマは、“権力者だけの文化ではなく、町の人々が主役になった...
続きを読む