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「現代文は構造だ、読めないものは読めない」は本当か。

2026/1/11

たとえば次の文章を読んで、この叙述の変なところはどこか、みなさんは気づくでしょうか。

「ある日私は久しぶりに学校の図書館に入りました。私は広い机の片隅で窓から射す光線を半身に受けながら、新着の外国雑誌を、あちらこちらとり返して見ていました。私は担任教師から専攻の学科に関して、次の週までにある事項を調べて来いと命ぜられたのです。しかし私に必要な事柄がなかなか見付からないので、私は二度も三度も雑誌を借り替えなければなりませんでした。最後に私はやっと自分に必要な論文を探し出して、一心にそれを読み出しました。すると突然幅の広い机の向う側から小さな声で私の名を呼ぶものがあります。私はふと眼を上げてそこに立っているKを見ました。Kはその上半身を机の上に折り曲げるようにして、彼の顔を私に近付けました。ご承知の通り図書館ではの人の邪魔になるような大きな声で話をする訳にゆかないのですから、Kのこの所作は誰でもやる普通の事なのですが、私はその時に限って、一種変な心持がしました。……」(青空文庫より)

これは夏目漱石の『こころ』の下「先生と遺書」の中にある文章です。

高校生の多くは3年生でこの教材を使用する人が多いでしょうから、もしかしたら見たことがある人もいるかもしれません。

ここでは「先生」が学生時代に図書館で調べ物をしている様子が描かれています。大学の授業で調べてこいと言われた内容を調べるために本をあさっています。そこに友人のKが現れました。Kは私に気付くと、小さい声で、「先生」の名前を呼びます。図書館なのですから大きな声を出せないのは当たり前です。Kの所作はいたって当然のものなのです。

だけど、「先生」はそのKの所作に「一種変な心持」がしている――。

これがこの文章の奇妙なところです。

なぜ「先生」はKに対して「一種変な心持」がしたのか、と聞かれたら、みなさんは何と答えますか??

もしこの問題が共通テストで出たらあなたはどう答えますか??

もちろん、この部分だけでは答えられないよ、だって根拠になる文章がないもの、と思うでしょう。ですが、この設問の答えになるような文章はこれより前にも、これより後にも一切出てきません。

だけど、この文章は文章全体を読めばある程度推測することが可能です。

いいですか? 答えのもとになる文章は存在しません。

ですが、文章全体を読めば「ある程度推測」することができます。

それはどうやってか。

ここでは、「文学理論」的に推測することができる、とだけ言っておきましょう。

ときどき、文章に書かれてあること「しか」正答にしてはいけないとか、根拠になる文章を「もとに」して推測するのだ、文章は構造なんだから、といった指南を見受けます。

もちろんそうです。文章に書かれてあることをもとにして、深読みをせず、事実確認的(コンスタティブ)に正答を選ぶ問題ばかりです。多くの問題はそれで対応できるでしょう。

しかし、ときどき、「答えのもとになる文章が見当たらない」、「そうもいえるし、言い過ぎな気もする」、という選択肢に出会います。

だからあえて言いますが、

文章は書かれてあることを客観的に読めば「全部」解ける、

といった大言壮語をわたしは認めません。

その文章の正解/不正解を決める軸は、「文学理論」的に正しいかどうか、という一つ上のレベルによって担保される時があります。

わたしは高校生の時は小説の問題が苦手でした。

ですが、大学生になって文学研究をするうちに、共通テストの問題がいとも簡単に解くことができるようになったのでした。

だって、共通テストの問題は、入試センターに選ばれた複数の大学教授が2年間の任期を経て作成しているのだから当然です。彼らは文学研究のプロです。わたしは彼らに教わったのです。だから解けるのです。私は大学院にまで行って、現代思想も文学理論も学んだから解けるのです。

もう一度言います。

「文章は構造だけではすべては読めない。」

特に、表現を問う問題では、本文に書かれてある文章をにらめっこするだけでは解けません。

昨年度の共通テストの小説の問題は、主人公「少女」の一人称小説だったという基本的な特徴がある一方で、「自由間接話法」的な臨場感のある小説かつ、現在と過去が交錯するような、独特な「語り」が特徴的な小説でした。これは「文学理論的に」そういう語りの構造を持った小説なのです。

いいですか、「本文の構造」ではなく、「語りの構造」的にそういう小説なのです。

だから問5の選択肢③は正解になる可能性をもっています。

本文だけを読めば、③の選択肢はそうも読めるし、そう読めなくもあります。ですが、語りの構造的に「そう読んでよい」小説なのです。

きっと構造だけで、本文だけですべてを読めると豪語する人はこういうでしょう。

「でもほかの選択肢と比較した場合、すぐに解けるよ。」

わたしがこだわりたいのはそこではありません。

どうしてあなたはこの選択肢を除外できたのですか?

どういう理屈で?

解説を見ると、さらっと書いています。「本文にこう書いてあるから。」

違います。彼らは消去法をしているだけです。

しかも簡単な消去法です。ほかの選択肢に方が明らかに合っている/間違っているからたまたま正答できただけです。

そもそも構造だけを問いたいのなら小説などという不可解な分野を問題にしなければよいのではとすら思いますが、彼らはなぜ小説を読み、教えるのでしょう。文学理論的な構造を教えているのだろうと、ほんのすこし擁護だけしておきます。

ちなみに、最初の『こころ』の問いには、このように答えることが可能です。

この小説は、「先生」が、現在(先生の今時点で)「Kが不可解に自殺してしまったこと」を知っている地点から、過去=Kが自殺する前の出来事を「回想」している小説なので、「Kの所作が変だった」と感じているのは、当時の先生(図書館にいたときの先生時点)ではなく、現在の先生であり、今の先生の感覚や考えも混じっているから。

ということができます。

たとえば、この小説全体が共通テストに出た場合、先生の回想小説=記憶の改ざん=歴史の創造=フィクションの捏造といったことがほのめかされる選択肢は「文学理論」的に読めることになるので、バツにできません。

果たして、小説を教えている人で、このようなことまで考えて解説している国語講師がどれほどいるのでしょうか。

将来的に共通テストから小説がなくなるその時が私の引退の時かもしれませんが、それまで、大学院で培ったことをみなさんに教えたいと思います。

ちなみに、思想系の文章も、構造も重要ですけども、そもそもその分野の鉄則になっている論法を知っていれば、議論の方向性はだいたい推測することも可能です。

昨年の共通テストの評論は、ツーリズムの変化と消費社会の問題でしたね。

ともに(見る側も見られる側も、消費する側も消費される側も)、どちらかの主従関係が存在するのではなく、結局は身体が踊るように共鳴してしまうのだ、だって資本主義はもはや主体が存在しない世界なのだから、といったような論法でした。これもよくある理屈です。アンディウォーホルの絵画=シミュラークルから観光はまだ抜け出せていない、といったような論法です。

指南書を読んでも納得できない。構造だけで読める気がしない。そういう方はぜひお声掛けください。

みなさんの「納得できなさ」を、みなさんの言語で一緒に解明したいと思います。(^^♪

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