「真面目な予習」が成績を停滞させる理由。授業を「答え合わせ」に変える、正しい手抜きの技術
こんにちは。ヒロユキです。 神奈川の秦野という場所で、小さな塾の経営に携わりつつ、オンラインで全国の生徒さんと個別指導を行っています。
長年、中学受験や高校受験の現場に身を置いてきましたが、不思議なもので、時代が変わっても生徒や保護者の方が抱える悩みというものは、そう大きく変わりません。
その一つが、「予習」です。
今日は、ある興味深い図表を元に、多くの人が陥りがちな「予習の落とし穴」と、本来あるべき「授業を最大限に活かすプロセス」について、淡々とお話ししようと思います。
ターゲットは、「真面目に予習をしているのに、なぜか成績が伸び悩んでいる」生徒さんと、その保護者の方です。
授業は「映画鑑賞」ではなく「答え合わせ」の場である
さて、ここに一枚の図があります。 これは、学習の効果を最大化するためのフローを示したものです。
(※アップロードされた画像を参照)
この図、非常によくできていますね。特に真ん中にある**「ここに壁がある」**という表現。ここに、成績が伸びる子とそうでない子の決定的な差が隠されています。
多くの生徒が陥る「完璧主義」の罠
僕が大手塾で最上位クラスを担当していた頃もそうでしたが、真面目な生徒ほど、予習の段階で「完璧」を目指そうとします。
教科書の隅々まで読み込み、全てを理解しようとし、分からない単語があれば辞書を引き、ノートを美しくまとめる。 一見、素晴らしい努力に見えます。しかし、これには重大な欠陥があります。
それは、「授業で聞くべきことがなくなってしまう」、あるいは**「予習だけで疲弊しきってしまう」**ということです。
未知の単語や概念を、独力で全て理解しようとするのは、地図も持たずにジャングルを歩くようなものです。時間がかかりすぎますし、何より非効率的です。
STEP 1 & 2:分からないことを「可視化」する作業
図の【STEP 1】と【STEP 2】を見てください。
STEP 1:全体像を流し読み
STEP 2:不明点を可視化
ここでのポイントは、「細部は無視」することです。 小説のあらすじを読むような感覚で構いません。「今回は電気回路の話だな」「直列と並列の違いが出てくるな」程度の認識で十分です。
そして最も重要なのが、**「分からない箇所に付箋を貼る」**こと。
「自分はここが分からない」と自覚すること。これを専門用語で「メタ認知」と言ったりしますが、要するに**「先生に質問すべきリスト」**を作成するのが、正しい予習です。
分からないことがあるのは、悪いことではありません。むしろ、分からないことが明確になっている状態こそが、最も「授業を受ける準備ができている」状態なのです。
STEP 3:授業での「アハ体験」
そして授業が始まります。 予習で全てを理解しようとしていた生徒は、授業を「確認作業」や「退屈な時間」として過ごします。下手をすると、「もう知ってるよ」と聞き流してしまうかもしれません。
しかし、「分からないリスト」を持って授業に臨んだ生徒は違います。
「あの付箋の箇所の解説はいつ来るか」と、まるで探偵が犯人の手がかりを待つかのように、能動的に講師の話を聞くことになります。
そして、その解説がなされた瞬間。 「あ、そういうことだったのか!」 という納得感が生まれます。図にある**「アハ体験」**ですね。
人間、ただ漫然と聞いた話よりも、「これってどういうことだろう?」と疑問を持ってから得た答えの方が、深く記憶に刻まれるものです。脳の仕組みとは、そういうふうにできているようです。
STEP 4:効率的な定着
授業で「なるほど」と深く理解できれば、その後の復習(STEP 4)は驚くほど楽になります。
丸暗記をする必要がなくなるからです。 「なぜそうなるのか」という原理原則が腹落ちしていれば、あとは少しの反復練習で知識は定着します。
「壁」を自力で乗り越えようとするのではなく、壁の前で立ち止まり、授業というハシゴがかかるのを待つ。そして、ハシゴがかかった瞬間に一気に登る。これが効率的な学習の姿です。
さいごに
「予習」という言葉を聞くと、どうしても「予め習得する」と書き、重苦しく捉えがちです。 しかし、これからは「予行演習」のつもりで取り組んでみてはいかがでしょうか。
分からないことがあっても、「ああ、これは今日の授業のお楽しみにとっておこう」くらいの気持ちで、付箋を貼ってテキストを閉じる。 それくらいの余白があったほうが、結果として、授業というライブ空間を楽しむことができ、成績も伸びていくものです。
真面目なあなたなら、きっとその「適度な手抜き」ができるはずです。
【今日からできるNext Step】 次回の塾や学校の予習では、「絶対に理解しようとしない」というルールを設けてみてください。そして、分からなかった箇所に付箋を1枚貼り、授業中にその付箋が剥がせるかどうか、ゲーム感覚で試してみましょう。