算数の問題を解剖する—「処理」と「思考」の狭間で
多くの保護者の方、あるいは生徒さん自身が、「算数が苦手だ」と口にします。
しかし、その悩みを聞いていると、少し不思議な感覚に陥ることがあります。「算数」という巨大な敵と戦っているようでいて、実はその正体が何なのか、誰もはっきりとは見ていないような、そんな感覚です。
今日は、ある興味深いデータを元に、算数の問題を「解剖」してみたいと思います。
敵の正体がわかれば、戦い方も自ずと決まるものですから。
時間が支配する5つの世界
中学入試の算数は、1問あたりにかけられる時間によって、明確に性格が異なります。これを混同してしまうと、マラソン大会で全力疾走をするような、あるいはその逆のような、非効率な事態に陥ります。
資料によると、入試問題は以下の5つに分類できるそうです。
超・思考力重視タイプ
1問あたりの時間:6分以上
求められる能力:深い思考と粘り強さ
学校例:開成、栄光、駒場東邦
思考力重視タイプ
1問あたりの時間:4〜6分
求められる能力:思考と試行錯誤
学校例:灘(2日目)、麻布、武蔵
バランス重視タイプ
1問あたりの時間:2.5〜4分
求められる能力:思考と処理の調和
学校例:灘(1日目)、桜蔭、渋幕
処理能力重視タイプ
1問あたりの時間:2〜2.5分
求められる能力:正確さとスピード
学校例:慶應中等部、浅野
超・処理能力重視タイプ
1問あたりの時間:2分未満
求められる能力:反射神経に近い処理
学校例:筑波大附属、合不合判定テスト
ここで注目すべきは、「合不合判定テスト」が「超・処理能力重視」に分類されているという点です。
模試の結果が悪かったとき、「うちの子は思考力がない」と嘆くのは、少し早計かもしれません。もしかすると、単に「事務処理のスピード」という、別のパラメータが不足しているだけかもしれないのです。
「解ける」の正体
特に最難関と言われる灘中のような学校では、問題の性質がさらに残酷なまでに分かれます。
典型題:解法を知っていれば解ける。「知識」の引き出しを開ける作業。
非典型題:解法を知っているだけでは解けない。「試行錯誤」と「規則性の発見」が必要な作業。
中問題:その中間。
昔に比べ、現在は「知識」として持っておくべき解法パターンの量が格段に増えています。さらに、それを「処理」するスピードも求められる。
つまり、現代の受験生は、**「膨大なデータベースを持ち歩きながら、未知のトラブルにも即座に対応できる敏腕エンジニア」**のような能力を求められているわけです。大人でも大変な話ですね。
思考停止しないための「分類」
では、どうすればいいのか。
精神論で「頑張る」のではなく、淡々と「分類」することをお勧めします。
お子さんが問題を間違えたとき、それが以下のどの原因によるものか、分析してみてください。
知識不足:そもそも解法パターンを知らなかった(典型題での失点)。
処理能力不足:わかっていたけれど、計算が遅い、あるいはミスをした。
思考力不足:条件を整理し、手を動かして試行錯誤する時間が足りなかった(非典型題での失点)。
「比」を使う問題などは、ツールさえ知っていれば解ける「典型題」になりやすい分野です。一方で、数の性質などは「非典型題」になりやすい。
できない理由を「才能」のせいにすると、そこで思考は停止します。
しかし、「処理スピードが足りないから、毎朝の計算練習でタイムを計ろう」あるいは「典型題のストックが足りないから、例題を総ざらいしよう」と考えれば、それは実行可能なタスクに変わります。
締めくくり
入試問題は、学校側からの「こういう生徒に来てほしい」というメッセージです。
「じっくり考えられる子がほしい」のか、「テキパキと仕事をこなす子がほしい」のか。
志望校が求めている能力と、今の自分に足りない能力。そのギャップを埋める作業こそが「受験勉強」の本質です。
感情的にならず、淡々と、パズルのピースを埋めていきましょう。
僕もオンラインの画面越しに、その作業を少しだけお手伝いします。
時には機材トラブルという「非典型題」に冷や汗をかきながら、ですが。
次のアクションのご提案
今回の記事はいかがでしたでしょうか。
もしよろしければ、**「お子様の志望校の過去問を1年分だけ見て、1問あたりの平均解答時間を計算」**してみませんか?
その学校が「思考力重視」なのか「処理能力重視」なのかを知るだけで、今後の学習方針が少しクリアになるはずです。