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「午前4時の計算ドリル」は精神論か? 中学受験の朝勉を、合理的に分析する。

2025/11/12

こんにちは。オンラインで個別指導をしているヒロユキです。神奈川で塾を経営しつつ、岐阜からオンラインで指導を届けています。もう10年ほど、中学受験や高校受験の世界に携わってきました。

さて、今日は「朝の勉強」について、少し分析的なお話をしてみたいと思います。

午前4時の計算ドリルと、時差ボケの話。

中学受験の世界には、いくつかの「神話」が存在するように思います。「あの塾のテキストさえ完璧にすれば受かる」とか、「睡眠時間を削って勉強するのが美徳だ」とか。

その中でも根強いのが、「朝勉信仰」ですね。 早朝、まだ薄暗いうちに起きて勉強するのが良い、というものです。

これは果たして、単なる精神論なのでしょうか。それとも、何か合理的な理由が隠されているのでしょうか。僕も長年、それこそ大手塾で最上位クラスを担当していた頃から、多くの生徒さんを見てきましたが、一つの明確な傾向はあるように思います。

「夜」という時間の不確実性

まず、夜の学習について考えてみましょう。 保護者の方から「夜、なかなか集中して勉強しなくて」というご相談は、本当によくいただきます。

無理もない、と僕は思います。 生徒さんご自身も、学校があり、放課後の活動があり、そして塾があります。夕食を食べ、お風呂に入り、ようやく机に向かう。僕もオンラインで夜に指導していると、「ああ、疲れているな」と感じることは少なくありません。

夜の時間というのは、非常に「不確実性」が高いんですね。

  • 塾の宿題が思ったより多かった。

  • 学校の先生との話が長引いた。

  • 親御さんの帰宅が遅く、夕食がずれた。

  • どうしても見たいテレビ番組がある。

まるで夕方の交通渋滞のようです。予測不能な「割り込み」が次々と発生し、計画通りに進めることが非常に難しい。

一方で、早朝。例えば午前5時。 この時間帯に「割り込み」を入れてくる要素は、ほとんどありません。家族も寝ていますし、テレビも面白くありません。電話も鳴らない。非常に静かです。

勉強を「習慣」にする、つまり「仕組み」として定着させるためには、この「予測不能な変数」をいかに減らすかが重要です。

その点で、朝は最も静かで、最も確実な「自分だけの作業スペース」なんですね。夜に「できなかった」と嘆くより、朝に「終わらせた」という事実を作る方が、精神衛生上も合理的です。

本番は「午前」にやってくる

もう一つ、さらに重要な理由があります。 それは、入試本番は「午前中」に行われるという、動かしがたい事実です。

大手塾で最上位クラスを見ていた頃、印象的だった生徒さんがいます。彼は決して夜更かしをせず、淡々と朝に課題をこなしていました。

理由を尋ねると、彼は「試験が朝だからです」と、ごく当たり前のことのように答えました。

これは、中学受験において最強の戦略の一つだと僕は考えています。

人間の脳が最も活発に働く時間帯には、個人差があるとはいえ、一定のサイクルがあります。入試本番は、おおむね午前9時頃から始まります。つまり、その時間帯に思考力のピークを持ってくる必要があるわけです。

これは、海外旅行の「時差ボケ」を調整するプロセスと非常によく似ています。

普段、夜遅くまで勉強し、朝はギリギリまで寝ている生徒さんが、入試本番の日だけ早起きして、いきなり午前9時から算数の難問に立ち向かう。 これは、いわば重度の時差ボケのまま、大事な商談に臨むようなものです。エンジンがかかりきらないのは、ある意味で当然なんですね。

朝の勉強は、試験本番という「目的地」の時間に合わせて、自分の体内時計を調整するための、極めて論理的な「リハーサル」なんです。

では、朝に何をすべきか

では、朝から難解な応用問題に頭を抱えるべきでしょうか。

僕は、必ずしもそうは思いません。 朝の時間は、思考の「ウォーミングアップ」と「基礎体力の定着」に最適です。

  • 計算問題や漢字の書き取り

    • 思考の「回転数」を上げる作業です。毎日続けることで、処理速度と正確性が確実に上がります。

  • 前日の復習(解き直し)

    • 寝る前に解けなかった問題が、朝になるとあっさり解ける、という経験は(大人でも)あるはずです。

  • 理科や社会の暗記項目の確認

    • 声に出して読み上げるのがおすすめです。僕も学生時代、英単語の暗記などでよくやりました。視覚と聴覚、両方を使うわけです。

いきなり1時間もやる必要はありません。まずは15分、必ず確保できる時間から始める。大切なのは、それを実行できる「仕組み」を作ることです。

まとめ

「早起きは三文の徳」と言いますが、中学受験における早起きは「徳」というより、もっと現実的で切実な「戦略」です。

もちろん、そのために睡眠時間を削るのは本末転倒です。夜は早く寝る、という「仕組み」と必ずセットで考える必要があります。

夜更かしして勉強した気になって、翌朝眠い目で塾の授業を受ける。これほど非効率な時間の使い方はありません。

早朝、まだ誰も起きていない静かなリビングで、淡々と計算ドリルを解く。 その光景は、どこかシュールでありながらも、実は合格への一番の近道だったりする。

まるで何かの秘密の儀式のようですが、これは感情論ではなく、脳科学と時間管理に基づいた、れっきとした「技術」なのだと僕は思います。

学習の「仕組み」作りについてお悩みでしたら、いつでもご相談ください。

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