成績急上昇のからくり、あるいは「スイッチ」の所在について
こんにちは。ヒロユキです。
さて、今日は少し不思議な、しかし現実に起きた現象についてお話ししましょう。
僕が担当しているある生徒さんが、わずか1ヶ月ほどの期間で、成績を劇的に伸ばしました。 具体的に数字を挙げると、これまで実力テストで偏差値50あたり、いわゆる「真ん中」を推移していたのが、今回の試験ではトップ20位以内に食い込んだのです。
統計的に見れば、異常値と言えるかもしれません。しかし、これは偶然の産物でもなければ、僕が魔法の杖を振ったわけでもありません。もちろん、ご家庭のサポートと本人の努力が土台にあることは大前提ですが、僕はそこに一つの小さな「きっかけ」を提供したに過ぎません。
今日は、その「急上昇のメカニズム」について、少し分析的に振り返ってみたいと思います。
「実力」と「得点力」の乖離
まず理解すべきは、彼には元々、それだけの点数を取る「ポテンシャル」があったということです。 脳の構造が1ヶ月で別人のように作り変えられたわけではありません。持っている知識や能力が、テストという形式の中で正しく出力されていなかった。配線がどこかで接触不良を起こしていた、と表現するのが適切でしょう。
多くの場合、伸び悩む生徒さんは「実力がない」のではなく、「実力の出し方を知らない」だけなのです。
僕が行ったのは、その接触不良の箇所を見つけ、正常につなぎ直す作業です。これを僕は便宜上、「スイッチを入れる」と呼んでいます。
どこに「スイッチ」があったのか
では、具体的に何を変えたのか。今回のケースでは、いくつかの複合的な要因がスイッチとなりました。
1. 「解く」から「説明する」への意識転換
授業中、僕は彼に何度も問いかけました。 「なぜ、その答えになるの?」と。
最初は「なんとなく」や「公式に当てはめたらこうなった」という反応でした。そこで僕は、「野球のルールを知らない人に、なぜ今アウトになったのか説明するように話してみて」と促します。 論理のプロセスを言語化させること。これができると、問題に対する解像度が一気に上がります。彼は問題を「処理する対象」から「理解し、説明する対象」へと認識を改めました。
2. 宿題の「定義」の変更
多くの生徒さんにとって、宿題は「終わらせるもの」です。しかし、成績が伸びる子にとって、宿題は「再現性を確認する実験」です。 ただ丸をつけて終わりにするのではなく、間違えた問題に対して「どのプロセスでつまづいたのか」を分析するよう指示しました。計算ミスなのか、読み間違いなのか、原理の誤解なのか。 原因を特定せずに再挑戦するのは、目隠しをしてダーツを投げるようなものです。目隠しを外すだけで、当たる確率は格段に上がります。
3. 「自分はできる」という静かな自信
これが最も大きなスイッチだったかもしれません。 偏差値50付近にいる生徒さんは、無意識に「自分はこのくらいだ」というセルフイメージを持っています。難しい問題を見ると、「これは自分には関係ない問題だ」と脳がシャッターを下ろしてしまう。
僕は授業中、彼が論理的に正しい思考をした瞬間に、淡々と、しかし明確に伝えました。 「その考え方は、トップクラスの子たちと同じ道筋ですよ」と。 お世辞ではなく、事実として伝えます。すると、彼の中に「あれ、僕にも解けるのか」という小さな驚きが生まれます。その積み重ねが、難問に対する恐怖心を取り除き、本来の実力を発揮する土壌を作りました。
変化は「突然」訪れる
水が沸騰するように、あるいはオセロの石が一気に裏返るように、学習の成果はある日突然、数字として表れることがあります。 しかし、水面下では着実にエネルギーが蓄積されていたのです。
今回の結果を見て、一番驚いていたのは生徒さん本人かもしれません。 「先生、なんか順位がおかしいことになってます」 画面越しにそう報告してくれた時の、少し戸惑いを含んだ誇らしげな表情は、指導者として悪くない眺めでした。
もちろん、一度良い点を取ったからといって、これで終わりではありません。高い場所に登れば、そこにはまた別の風が吹いています。その風に飛ばされないよう、今度は地盤を固めていく作業が必要です。
今回の件で証明されたのは、適切な手順とちょっとした意識の変革があれば、壁は意外とあっさり越えられるということです。
もし、今これを読んでいるあなたが「あと一歩、何かが足りない」と感じているなら。 それは能力の問題ではなく、単にスイッチの場所が見つかっていないだけかもしれません。
僕の仕事は、懐中電灯を持って、そのスイッチを一緒に探すことなのです。
最後に一言(あるいは次の一手)
お子様の「伸び悩みの原因」がどこにあるのか、客観的に分析してみませんか? 今の学習状況をお聞かせいただければ、どこにスイッチが隠れているか、ある程度の仮説を立てることは可能です。まずは「問い合わせ」から、現状のモヤモヤをお話しください。