中学受験・算数の壁を超える「賢いどろくささ」のススメ。なぜ最上位層は「かっこいい解法」に頼らないのか?
中学受験の算数指導をしていると、多くの保護者様からこんなご相談を受けます。
「うちの子は思考力はあるはずなのに、ケアレスミスで点を落とします」 「難問は解けるのに、なぜか点数が安定しません」 「スピードを意識するあまり、焦って間違えてしまいます」
先日、非常に優秀なある生徒さんの初回授業を担当した際、まさにこの「才能はあるが、得点に結びつきにくい」という壁に直面している様子が見られました。
しかし、この壁を乗り越える方法は実にシンプルです。 それは、「かっこいい解法」の罠から抜け出し、本当の意味で「賢い」勉強法を実践することです。
今日は、私がある生徒さんに指導し、最上位層の生徒たちが当たり前のように実践している「得点力を最大化する」ための3つの勉強法をご紹介します。
1. 「かっこいい解法」の罠と、「どろくさい解法」の絶対的価値
多くの生徒が「計算だけでスマートに解くこと」を「かっこいい(=賢い)」と誤解しています。しかし、これは受験算数における最大の罠です。
「かっこいい解法」(計算暗算)の罠: 一見速いようですが、非常に脆い解き方です。少し条件が複雑になるとミスを誘発し、何より「なぜ間違えたのか」の検算ができません。
「どろくさい解法」の価値: 一方、私が徹底して指導するのは「どろくさい解法」です。これは、図・表・メモ・筆算など、思考のプロセスをすべて書き出すことを指します。
今回の授業で、ある生徒さんのお母様から「第一志望校は2025年から途中式欄が廃止されるため、時間短縮のために書かずに解いている」と伺いました。
これは非常に重要な情報ですが、私の答えは逆です。 **「途中式欄がないからこそ、満点を取るために途中式を書く」**のです。
途中式は、採点者に見せるためではなく、自分の思考を整理し、ミスを防ぐための最強のツールです。最上位層の生徒ほど、この「どろくささ」の価値を理解し、手を動かしながら思考を固めていきます。頭が良い生徒(その生徒さんのような)ほど、この「どろくさい」作業を徹底するだけで、ケアレスミスは劇的に減少します。
2. 「思考ツール」の mastery:流速算は「相似」で解く
「どろくさい」とは、非効率という意味ではありません。むしろ、最も効率的な「思考ツール」を使いこなすことを意味します。
その典型例が「速さ(特に流速算)」の問題です。
その生徒さんは当初、流速算を計算だけで処理しようとしてミスをしていました。そこで私は、**「流速算こそ、ダイヤグラム(進行グラフ)で解く」**ことを徹底指導しました。
なぜダイヤグラムなのか? それは単なる「条件整理」のためだけではありません。
ダイヤグラムを描くことで、「速さの問題」を「図形の問題」に変換できるからです。
ダイヤグラム上には、上のような「砂時計型」や「ピラミッド型」の相似な図形が必ず出現します。これを見つけることができれば、複雑な速さの計算(例:距離 ÷ 時間 = 速さ)を一切使わずに、「相似比」という図形の知識だけで瞬時に答えを出すことができます。
これは流速算に限らず、図形問題でも同じです。「このパターン(例:円と補助線)が来たら、こう解く」という**「解法パターンの引き出し」**をどれだけ持っているかが、思考のスピードを決定づけます。
3. 「解ける」から「点が取れる」へ:時間戦略と反復練習
最後に、最も重要な「意識改革」です。それは「問題を解ける」ことと「試験で点が取れる」ことは全く別物であると知ることです。
A. 「誘導問題」を読み解く 志望校レベルの良問を出す学校は、「誘導問題」が多く出題されます。今回の授業でも、過去問の(問1)と(問2)の答えが、そのまま(問3)を解くための最大のヒントになっていました。 試験官が用意してくれたヒント(前の小問)を無視して、(問3)をゼロから解こうとするのは時間の無駄です。常に「この問題は何をヒントにさせたいのか?」と考える戦略的視点を指導しました。
B. 「3分ルール」によるスピード反復 「スピードが足りない」という課題に対し、私が推奨するのは**「カップラーメン式の反復練習」**です。
まず、問題を解く際にストップウォッチで「3分(または5分)」を計ります。
時間内に解けなければ、すぐに解法(答え)を見ます。20分悩むのは無駄です。
解法を完璧に理解します(なぜその補助線を引くのか、なぜダイヤグラムを使うのか)。
そして、もう一度**「その解法を使って、3分以内に解き終える」**練習をします。
「どろくさい解法」を、圧倒的なスピードで実行できるまで反復する。 その生徒さんのような「賢さ(高い思考力)」と、講師が指導する「どろくささ(素直な実行力)」が組み合わさった時、生徒は「最強」になります。
志望校の合格ラインは余裕で超え、合格者の中でもトップ10を目指せる──その生徒さんの初回授業で、私はその確信を得ました。ご家庭での学習でも、ぜひこの「賢いどろくささ」を意識してみてください。