テスト直しは親が解説してはいけない——池上彰さん現象の罠
テスト直しをしていますか、と保護者に聞くと、だいたい「はい、一緒にやっています」という答えが返ってくる。
では具体的にどうやっていますか、と聞くと、こうなる。「間違えた問題を見て、どこが違ったか説明してあげています」「解き方を一から教え直しています」「解説を読みながら一緒に確認しています」
全部、惜しい。というより、全部逆だ。
池上彰さん現象、というものがある
テレビで池上彰さんの解説を聞いていると、すごくよく分かる。複雑な国際情勢も、経済の仕組みも、あの人が話すと整理されて、納得感がある。「ああ、そういうことか」という気持ちになる。
翌日、何か残っているか。
ほとんど残っていない。
満足感は高い。理解した感覚もある。でも自分の言葉で誰かに説明しろと言われたら、怪しい。細部はもう消えている。これが「池上彰さん現象」だ。分かりやすい解説を受けると、学んだ気持ちになる。でも受け身で聞いた情報は、定着率が著しく低い。
テスト直しで親が解説をするとき、子供の頭の中でまったく同じことが起きている。
「分かった」は何も解決しない
子供が間違えた問題を親が解説する。子供は「ああ、そういうことか」と言う。その顔はすっきりしている。
これで終わらせてしまうと、同じ問題が翌月のテストに出ても解けない。なぜか。解説を聞いて「分かった」状態と、自分で手を動かして「解けた」状態は、まったく別物だからだ。
分かることと、できることの間には、実は大きな溝がある。その溝を埋めるのは反復だ。「解説を聞く」という行為は、溝に橋を架けるどころか、橋が架かった錯覚を与えるだけで終わる。
しかも厄介なことに、子供は本当に「分かった」と思っている。理解した感覚があるから、もう一度解こうとしない。解かなければ定着しない。だから次のテストで同じ問題が出ても詰まる。
そのたびに親はまた解説する。このループに入った家庭を、何度も見てきた。
では、どうするか
正しいテスト直しの手順はこうだ。
まず、間違えた問題をもう一度、子供に解かせる。親は横で見ているだけだ。何も言わない。解説もしない。
子供が解き進めていくと、どこかで止まる。手が止まった瞬間が、介入のタイミングだ。そこで親がやることは、答えを教えることではない。一つだけ問いかけることだ。
「この文章に書いてある条件、表にまとめてみたら?」
「ここの数字、どこから出てきたんだっけ」
「もう一回この一文だけ読んでみて」
それだけでいい。子供が再び動き出したら、また黙って見ている。次に詰まったら、また一言だけ添える。
この方法で子供が問題を解き終わると、それは「自分で解いた」という体験になる。親に教えてもらって解いた、ではなく、自分で解いた。この差が再現性を生む。次に似た問題が出たとき、あの時どうやったかを思い出せる。
ヒントを出す側の技術
もう少し具体的に話す。子供が詰まったとき、どんなヒントを出すかにも法則がある。
有効なヒントは、常に「作業の指示」だ。「考えなさい」ではなく、「図を書いてみて」。「ちゃんと読みなさい」ではなく、「この一文だけ声に出して読んでみて」。「なぜそう思うの」ではなく、「その答えになる数字、問題文のどこかから出てきてる?」
考えなさいという指示は、抽象的すぎて実行できない。図を書くとか、表にするとか、数字を書き出すとか、体が動く具体的な作業に変換してあげる必要がある。
逆に言うと、子供が「考えられない」のは頭が悪いからではなく、考えるための手順を知らないだけだ。手順を教えるのが指導であって、答えを教えることではない。
解けなかった問題はコピーして保存する
もう一つ、実践的な提案をする。
時間がなくてテスト直しができなかった問題がある。あるいは、ヒントを出しても子供がまったく手が出なかった問題がある。そういう問題は、その場で解決しようとしなくていい。
コピーを取って、日付を書いて、ノートに貼っておく。それだけでいい。
3ヶ月後にそのノートを開いて、もう一度解かせてみる。驚くほど解けるようになっている場合がある。小学4年生が苦戦した等差数列の問題を、6年生になってから見ると、何が難しかったのかすら分からない、ということが起きる。
子供は成長する。今解けないことは、今解けなくていい。問題なのは「今解けなかった問題の存在を忘れること」だ。コピーして保存する、という手間だけが、その問題を将来の学習資源に変える。
テスト直しのたびに全問題を完璧に仕上げようとすると、時間が足りなくて次の単元の宿題が回らなくなる。7割仕上げて、残りは保存する。この割り切りができた家庭から、成績が安定し始める。
親が解説すると何が起きるか
最後に、逆側から考えてみる。
親が毎回丁寧に解説すると、子供は何を学ぶか。「分からなくなったら大人に聞けばいい」という習慣だ。自分で考える前に親の顔を見る。これが身につくと、塾でも同じことが起きる。先生の解説を聞くことが勉強だと思い込んで、自習室でノートを眺めているだけで時間が過ぎる。
テスト本番で詰まったとき、隣に親はいない。
自分で手を動かして、図を書いて、数字を出して、それでも出なければ別のアプローチを試みる——この一連の行動が反射的に出てこない子は、試験会場で白紙のまま時計を見ている。
テスト直しのやり方を変えることは、試験会場での行動を変えることだ。親の解説をやめるという「非情な決断」が、子供の自立を一段階引き上げる。
今週のテスト直しから、試してみてほしい。
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