速さの「はじき」を使わない子ほど、6年で伸びる理由

速さの問題で「はじき」を使わないと解けない。4年・5年のうちはそれで点が取れていたのに、旅人算や流水算に入った途端に手が止まる。こうした相談は、学年が上がるほど増えていきます。原因は、はじきそのものではありません。はじきに頼る癖が、6年で使う解き方への乗り換えを邪魔しているのです。
速さの「はじき」は、4年生のための補助輪
道のり・速さ・時間を円に書き、求めたいところを指で隠して、残りを掛けるか割るかを決める。覚えやすく、単純な問題なら確かに速い。4年の最初の段階で、3つの量の関係に慣れる道具としては、役に立つ場面もあります。
ただし、これは補助輪です。自転車に乗れるようになったら外すものです。問題は、補助輪をつけたまま坂道に向かう子が多いことです。
旅人算・流水算で、はじきが止まる理由
5年以降の速さは、1つのものが1つの速さで進む問題ではなくなります。2人が向かい合って進む、川の流れが速さに足される、途中で速さが変わる。求めたいものが、道のり・速さ・時間のどれか1つに収まらなくなるのです。
はじきの円は、3つの量のうち2つがわかっていて、残りの1つを出すための道具です。2人分の速さの和、上りと下りの差、ある地点までの時間の比。こうした「関係」を扱う問題では、円のどこを隠せばいいのかがわかりません。そこで手が止まります。
6年の入試問題で必要になるのは、次の3つの見方です。
時間が同じなら、速さの比と道のりの比は等しい
道のりが同じなら、速さの比と時間の比は逆になる
2つのものが近づく・離れる速さは、速さの和・差で考える
どれも、はじきの円からは出てきません。速さを「比」で扱う発想が必要です。
一度ついた解き方の癖は、子どもは手放さない
厄介なのは、癖の問題です。かけ算を習う前の小学1年生に4×2を聞けば、4を2回描いて数えるのが一番わかりやすいでしょう。でも6年生がそれをやっていたら、誰もが止めます。わかりやすさは、学年によって変わるのです。
ところが子どもは、一度慣れたやり方をなかなか手放しません。新しいやり方に乗り換えるのは面倒で、しばらくは点数も下がるからです。4年で覚えたはじきを5年後半まで引きずる子は、たいてい「はじきで解けない問題は苦手」という思い込みまで一緒に抱えています。
使わなくなる解き方を、わざわざ時間をかけて体に染み込ませる。これほど効率の悪い投資はありません。
速さは最初から6年で使う形で教える
僕が速さを教えるときは、4年生であっても、最初から次の順番で教えます。
まず、速さを「1分あたりに進む道のり」と言葉で定義します。分速60mなら、1分で60m。これが言えれば、3分で何m進むか、300m進むのに何分かかるかは、円を描かなくても出せます。
次に、単位をそろえる練習を毎回入れます。時速を分速に直すなら60で割り、秒速にするならさらに60で割る。ここでの取り違えが、速さの失点のかなりの部分を占めます。
そして5年に入る前から、同じ時間なら道のりは速さに比例する、という比の見方を少しずつ見せておきます。旅人算に入ったとき、その見方を使うだけで済むようにしておくのです。
家庭で教えるときも同じです。親が昔習ったはじきを教えたくなる気持ちはわかりますが、塾がすでに比の見方で教えているなら、家で別の型を足すのは逆効果です。子どもの頭の中で2つのやり方がぶつかり、どちらも中途半端になります。
4年のうちは、はじきより少し遠回りに見えるかもしれません。しかし6年の秋に回収できるのは、こちらの道です。速さでつまずいた5年生は、どこから立て直すか
すでに5年生で、はじきが手放せなくなっている場合はどうするか。いきなり旅人算の演習を増やしても、効果は薄いです。立て直しは、2つだけに絞ります。
1つ目は、単位換算の反復です。時速・分速・秒速の行き来を、毎日5問、考えずに手が動くまで回します。
2つ目は、同じ時間に進んだ2人の道のりの比を答えるだけの問題です。答えを出させる必要はありません。比を書かせるだけでいい。これを2週間続けると、旅人算の問題文を読んだときに、最初に比を探す目が育ちます。はじきの円を描くのは、そのあとで構いません。多くの子は、そのうち描かなくなります。
速さの単元で子どもが苦しむのは、才能のせいではありません。途中で乗り換えを迫られる解き方を、最初に覚えてしまったせいです。はじきで解けるうちは大丈夫と安心している家庭ほど、5年後期の旅人算で見事に置き去りにされます。明日から、円を描く前に「1分あたり何m進むか」を言わせてみてください。言えなければ、補助輪を外す練習の始まりです。
速さの「はじき」を使わない子ほど、6年で伸びます。6年で使う形を、最初から身につけているからです。
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