中学受験の習い事、やめる時期は「時間」で決めると失敗する

中学受験の習い事をやめる時期を、「週に何時間取られるか」で決めようとしているなら、その計算はおそらく合っていません。習い事が奪っているのは時間だけではなく、その後の勉強に使うはずだった体力と集中力だからです。
面談でよく聞く相談があります。水泳は週2回、1時間ずつだけなので、勉強時間にはほとんど影響していないはずです、と。カレンダーの上では正しい。しかし子どもの頭は、カレンダーでは動いていません。
中学受験で習い事をやめる時期を「時間」で測ると見誤る理由
家計簿で考えてみましょう。習い事の費用は月謝だけではありません。送迎、着替え、夕食の前倒し、そして帰宅後の電池切れ。この最後の項目が、中学受験の家計簿ではいちばん高くつきます。
プールで1時間泳いだ4年生が、帰宅して夕食を済ませ、夜8時から予習シリーズの練習問題に向かう。机には座っています。鉛筆も動いています。ただ、頭の中で起きているのは「考える」ではなく「写す」と「なぞる」です。解説を眺めて、わかった気になって、丸をつけて終わる。親の目には1時間勉強したように見えますが、中身は30分の作業と30分のぼんやりです。
つまり、習い事1時間のコストは1時間ではありません。その夜の勉強の質を、まるごと値引きしている。ここを見落とすと、時間は確保しているのに成績が上がらないという、いちばん原因のわかりにくい停滞に入ります。時間割の上では優等生、答案の上では電池切れ。よくある光景です。
習い事が削っているのは体力と集中力という別々の財布
ここで一つ整理しておきます。習い事が引き出していく財布は、2種類あります。
体力の財布:水泳、サッカー、ダンス、体操など。体を使い切るタイプ。帰宅後に眠くなる。
集中力の財布:ピアノ、そろばん、将棋、英語など。頭を使い切るタイプ。体は元気なのに、算数の文章題を読む気力が残っていない。
世間では、運動系は疲れるからやめさせるべきで、ピアノは座っているだけだから大丈夫、と言われがちです。僕の見立ては、その逆になることも少なくありません。1時間の真剣なピアノ練習は、集中力の財布からかなりの額を引き出しています。体が疲れていないぶん、親も子も消耗に気づかない。これが一番たちが悪い。
一方、体力型の習い事は、一晩寝れば回復することが多い。適度に体を動かした日のほうが、翌朝の計算練習がはかどる子もいます。
問題は何をやっているかではなく、どちらの財布から、いつ引き出しているかです。
組分けテストやマンスリーの結果を判断材料にする方法
では、どう見極めるか。感覚で決めると、親子喧嘩の種が増えるだけです。判断材料は3つに絞ります。
1つ目は、習い事がある日とない日の、同じ種類の問題の出来です。計算練習や一行問題の正答率を、習い事の日とそうでない日に分けて2週間ほど記録してみる。差がほとんどなければ、その習い事は勉強の足を引っ張っていません。はっきり落ちるなら、財布が空になっている証拠です。
2つ目は、テストの失点の種類です。四谷大塚の組分けテストやSAPIXのマンスリーで、算数の失点が「解き方を知らない問題」ではなく「最後まで読み切れていない問題」「途中で投げた問題」に偏っているなら、足りないのは知識ではなく集中力の持久力です。この型の失点なら、習い事の置き方を変えると数字が動く見込みがあります。
3つ目は、本人の「続けたい」の温度です。これは甘やかしではありません。本気で続けたい習い事は、子どもにとって回復の場になっていることがあります。やめさせた結果、勉強時間は増えたのに成績は横ばい、という話も面談では珍しくありません。空いた時間が、そのままゲームとふて寝に消える。よくある結末です。
習い事をやめる前に試したい時間割の組み替え
いきなり続けるかやめるかの二択にする必要はありません。やめる前に、時間割を組み替える手があります。
習い事の日は、新しい単元や思考系の問題を置かない。計算、漢字、一行問題の解き直しなど、手が覚えている作業だけにする。
集中力を使う勉強は、習い事のない日か、習い事の前に回す。夕方に習い事があるなら、帰宅直後ではなく学校から帰ってすぐの30分を算数に使う。
週2回を週1回に減らす、平日を土曜に移すなど、回数と曜日で調整する。
特に1つ目は効きます。予習シリーズでいえば、基本問題の解き直しと計算は習い事の日、練習問題や応用問題は習い事のない日。これだけで、同じ勉強時間でも頭の使い方がまるで変わります。
学年別に見た中学受験の習い事をやめる時期の目安
それでも、どこかで決断は必要です。僕の目安は次の通りです。
4年生は、原則として続けてよい時期です。この学年で大事なのは勉強時間の量よりも、机に向かう習慣と、習ったことを1週間後にも解ける状態にしておく復習の型です。習い事が回復の場になっているなら、むしろ手放さないほうがいい。
5年生の後期は、判断の分かれ目です。比や速さといった中学受験算数の山場の単元が続き、1回の授業で扱う量も増えます。ここで組分けテストやマンスリーの算数が崩れ始め、しかも失点が集中切れ型なら、回数を減らすか曜日を動かす時期です。
6年生の夏以降は、過去問演習が本格化します。過去問は1回50分前後、頭を使い続ける作業です。集中力の財布を毎週空にする習い事は、この時期には重い負担になります。やめるなら、夏期講習に入る前の区切りのいいところで。発表会や大会など、本人が納得できるゴールを先に決めておくと、しこりが残りません。
明日、親がすべき非情な決断
習い事をやめるかどうかで悩む家庭の多くは、実は「やめる理由」を探しているのではなく、「やめなくていい理由」を探しています。気持ちはわかります。何年も続けてきたものを受験のために切るのは、親もつらい。
ですが、非情になるべき相手は習い事ではありません。なんとなく続けている勉強の時間割です。習い事の日に難しい問題を解かせて、できないと叱る。これこそ、時間も体力も集中力も同時に失う、もっとも割に合わない取引です。
明日からやることは一つ。習い事のある日の勉強メニューを、作業系だけに書き換えてください。それで算数の出来が戻るなら、習い事はやめなくていい。戻らないなら、そのときに初めてやめる時期を話し合えばいい。順番を間違えないことです。
習い事は時間ではなく、体力と集中力で精算する。これが結論です。
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