予習シリーズが難しすぎる?正しい教材でも伸びない本当の理由

予習シリーズが難しすぎる。演習問題集の発展問題で手が止まり、親子で1時間にらめっこをして夜が終わる。そんな日が続いているなら、問題は教材でもお子さんの頭でもなく、その問題を「いま」やっていることにあります。
予習シリーズは優れた教材です。解法の配列も、例題から練習問題への階段も、よく考えられています。ただし、教材が正しいことと、その教材がいまのお子さんに合っていることは、まったく別の話です。この記事では、その「別の話」を分解します。
大谷選手の練習メニューを、少年野球の初日にやらせますか
大谷選手が取り組んでいる練習は、おそらく世界で最も効果が検証された練習のひとつでしょう。では、それを野球を始めたばかりの小学生に、入団初日からそのままやらせたらどうなるか。
フォームを崩すか、肩を痛めるか、野球そのものを嫌いになるか。練習メニューが間違っているわけではありません。その子にとって、いまではないだけです。
中学受験の算数では、これとまったく同じことが毎晩のように起きています。
僕は自分の塾を構える前、個別指導塾の講師や派遣型の家庭教師として、本部や保護者の方が決めた方針のもとで多くのご家庭を担当してきました。雇われの立場ですから、教材や進め方を僕が決めることはほとんどありません。そこで何度も見てきた光景があります。
教材は正しい。勉強法も正しい。勉強量も、解き方も、ノートの取り方も、一つひとつを取り出せば正しい。けれど、その子の学年、その時期、そして何より今の習熟度に合っていない。
そして、このミスマッチを抱えた子の成績は、まず伸びませんでした。努力が足りないのではありません。努力の向け先が、半年ずれているのです。
予習シリーズが難しすぎると感じるとき、起きている3つのミスマッチ
ミスマッチと聞くと「難しすぎる問題をやらせている」状態だけを想像しがちですが、実際には3つの型があります。
一つ目は、背伸びしすぎの型です。偏差値45前後のお子さんが、上位クラスの子と同じように演習問題集の発展問題まで全部やろうとする。解説を読んでも、1行目の式がなぜ出てくるのかがわからない。1問30分かけて5問やれば2時間半。その2時間半が、何も残らない時間に溶けていきます。
二つ目は、物足りなさすぎの型です。こちらは逆で、基本問題を何周も回している。丸が並ぶので親子ともに安心できますが、頭に負荷がかからないので力は伸びません。週テストで少しひねられた途端に崩れるのは、だいたいこの型です。
三つ目が、最も厄介な型です。見た目は難しいのに、ほんの少しの手当てで解けるようになる問題を、飛ばしてしまう。
たとえば、5年生の比を使った速さの問題。式だけ見ると難解ですが、すでに「速さが同じなら、かかる時間の比と距離の比は同じ」が使える子なら、線分図を1本描かせるだけで解けるようになります。ところが保護者の方の目には「難しい問題」に映るので、まだ早いと判断して飛ばしてしまう。
そしてその裏返しで、今はいくらやっても届かない問題を「もう少し頑張れば解ける」と粘らせてしまうことも起きます。比の基本が固まっていない子に比の速さを10問やらせても、10回わからないを経験するだけです。
なぜ親には「ちょうどいい難しさ」が見えないのか
理由は単純で、保護者の方が見ているのは問題の見た目の難しさだからです。
本当に見るべきは、その問題がお子さんの手持ちの道具から何歩離れているか、です。
速さの旅人算で考えてみましょう。出会い算は解けるのに、追いかけ算で止まる子。この子と追いかけ算の距離は1歩です。「2人の間の距離が、1分ごとに何m縮むか」という見方さえ渡せば、今週中に解けるようになります。
一方、割合の意味があいまいなまま、比を使った速さの問題に挑んでいる子。この距離は3歩以上あります。今週この問題に時間を使っても、来週には何も残っていません。
この「歩数」は、問題集の難易度表示には書いてありません。答案を見ないとわからないのです。どこで手が止まったか。何を書いて、何を書かなかったか。解説を読んだあと、何も見ずに同じ式を書き直せるか。そこまで見て、初めて距離が測れます。
中学受験は限られた時間をどこに投じるかのゲームです。期待値の低い問題に2時間を投じ、期待値の高い問題を「難しそうだから」と見送る。これは戦略としては最悪の配分です。真面目なご家庭ほど、教材を順番どおりに全部やることを誠実さだと考えてしまうので、この配分の失敗に気づきにくいのです。
予習シリーズの問題を「今やる・後でやる・やらない」に仕分ける
では、どうすればいいか。僕がやっているのは、問題を3つの箱に仕分けることです。判断の基準は次の3つです。
今やる:解説を読んだあと、何も見ずに同じ式を自分で書き直せる問題。または、1つ前の例題に戻れば解ける問題
後でやる:解説の式の意味はわからないが、前の単元(割合、比など)を固め直せば届きそうな問題。付箋を貼り、2〜3週間後に戻る
やらない:解説を読み、説明を受けても、3日後に再現できない問題。今の時期は捨てる
目安として、1問に15分向き合って手がまったく動かないなら、その問題は「今やる」の箱には入っていません。粘る美徳は否定しませんが、15分を超えた粘りの大半は、算数ではなく忍耐の練習になっています。
逆に、基本問題で丸が9割を超えているなら、それは「物足りなさすぎ」の合図です。翌週からは練習問題の後半に1問だけ手を伸ばす。この「1問だけ」の調整が、成績を動かすいちばん小さな単位です。
週テストや組分けテストの直前は、この仕分けを特に厳しくしてください。テスト前の1週間に「やらない」の箱の問題に手を出すのは、試験会場の外で道に迷うようなものです。
家庭教師の本当の仕事は、ミスマッチを防ぐこと
ここまで書くと、家庭教師という仕事の意味がはっきりしてきます。
解き方を教えることは、もちろん仕事の一部です。しかし本当に価値があるのは、いまのその子にとってどの問題が「1歩先」なのかを毎週見極め、課題を仕分けることです。極論すれば、このミスマッチを防ぐために家庭教師は存在している、と言っても過言ではないと僕は考えています。
親子でこれをやるのが難しいのには理由があります。保護者の方は、わが子の答案をどうしても期待というフィルター越しに見てしまう。できてほしい問題は「もう少しでできそう」に見え、不安な単元は実際より遠くに見える。距離を測る目盛りが、愛情で少しずつ歪むのです。これは保護者として正常なことで、責める話ではありません。ただ、目盛りが歪んだまま仕分けをすると、3つのミスマッチのどれかに必ず落ちます。
予習シリーズを1ページ残らず解き切ることを目標にしているご家庭は、教材を作る側から見れば大変ありがたいお客様でしょう。ただ、合格最低点はそのページ数に一切興味を示しません。
明日、保護者の方にお願いしたい非情な決断はひとつです。演習問題集を開き、いまのお子さんにとって「やらない」問題に、鉛筆で小さく印をつけてください。全部やらせたい気持ちを、印1つ分だけ手放す。そこからしか、正しい教材は効き始めません。
予習シリーズが難しすぎると感じたときに見直すべきは、教材そのものではなく、問題とお子さんの今の実力との距離です。その距離を答案から測り、毎週の課題を仕分けるところから一緒に始めたい方は、僕のマナリンクのプロフィールにある「中学受験プロによる予習シリーズ専門の算数サポート」をご覧ください。
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