場合の数が苦手な原因|頭で解く癖を捨てる
場合の数が苦手で、わかったはずの問題を毎回どこかで落とす。この悩みの正体は、センスでも根気でもなく「頭の中で完結させようとする癖」であることがほとんどです。
先日の授業でも、ある生徒が約数の個数や並べ方の問題を、途中まで暗算で進めて止まる場面がありました。僕が止めたのは、答えの正誤ではありません。「書き出す前に、頭で片づけようとしたこと」です。
なぜ場合の数は、頭で解くほど落とすのか
場合の数は、公式を当てはめる単元に見えて、実は「数え漏れと数えすぎを管理する単元」です。管理に必要なのは記憶力ではなく、記録です。頭の中の作業スペースは小さく、条件が2つ3つ重なると、最初に置いた条件から順に溶けていきます。
特に失点が多いのは次の場面です。
0を数に入れるかどうかの判断が、途中で曖昧になる
「AもBも端にならない」のような否定の条件が、立式の途中で抜け落ちる
答えが出た直後に、足し算や掛け算で1段ずれる
どれも「難しい発想が足りない」のではなく、「記録せずに進んだ」ことが原因です。偏差値40台から50台で足踏みしている子ほど、解法は知っているのに、この管理で点を逃しています。予習シリーズや新演習の例題で解き直しをしても同じ型で落ちるなら、解法の再学習ではなく、手順の追加が必要です。
精神論の「注意してやる」は、手順にならない
ミスをした子に「次は注意しようね」と言う家庭は多いのですが、これは戦略として機能しません。注意は、意識が向いた瞬間にしか働かないからです。試験本番では、時間と緊張で最初に消えるのが注意力です。
僕は授業で、「1回で正解するには、何をどの順でやるか」を、本人の言葉で文章にしてもらうことがあります。条件は一つ。「気をつける」「集中する」「丁寧にやる」は禁止です。残るのは、鉛筆で実行できる動作だけになります。
場合の数を落とさない3つの手順
僕が場合の数の演習で固定している手順は、次の3つです。
問題文に先に線を引く。条件、数の範囲、「〜でない」の部分に引く。
小さい数で書き出してから、大きい数の式を立てる。
答えが出たら、別の道で確かめてから次へ進む。
一つずつ見ていきます。
手順1:条件の部分に線を引いてから、手を動かす
並べ方の問題で、読み飛ばしが起きるのは「端にならない」「隣り合わない」といった否定や限定の部分です。ここに先に線を引くだけで、立式のときに条件が目に入ります。線を引く作業は5秒です。5秒を惜しんで、2〜3点を落とす。この取引は、冷静に見ると割に合いません。
手順2:6人の問題を、いきなり6人で解かない
たとえば、6人が横一列に並ぶとき、AさんもBさんも両端にならない並び方は何通りか、という問題があります。
頭の中で6人分を処理しようとした瞬間に、条件が溶けます。そこで人数を4人に落とします。A、B、C、Dの4人で、AとBが両端にならない並びを書き出すと、次の4通りになります。
C A B D/C B A D/D A B C/D B A C
この4通りを見ると、構造が見えます。両端はCとDの2人で埋まり、中の2か所をAとBが入れ替わる。つまり、先に両端、次に中、という順序で決めればいい。
この構造を6人に戻します。両端以外の4か所のうち、AとBが入る場所の選び方は4×3=12通り。残りの4人が残りの4か所に並ぶ方法は4×3×2×1=24通り。合わせて12×24=288通りです。
大きい数字をいきなり扱わず、小さい数字で型を見つけてから、式で拡張する。これが、書き出しの本当の役目です。書き出しは「遅い解き方」ではなく、「式を立てるための調査」なのです。
手順3:答えが出たら、別の道で確かめる
288という答えが出たら、そこで終わらせません。全体から引く方法でも解いてみます。
全体の並び方は6×5×4×3×2×1=720通り。Aが端になる並びは、端の選び方2通り、残り5人の並びが120通りで240通り。Bが端になる並びも同じく240通りです。AもBも端になる並びは、2×24=48通り。少なくとも一方が端になるのは、240+240−48=432通りですから、720−432=288通り。一致しました。
ここまでやる時間があるのか、と思うかもしれません。ありません。だから、全問でやる必要はありません。やるのは、配点が高い大問の最後の小問だけで構いません。得点設計とは、確認に時間を使う問題と使わない問題を、先に決めておくことです。
約数の個数でも、同じ型がそのまま使える
約数の個数の問題でも、構造は同じです。素因数分解してから、各素数の指数に1を足して掛ける、というのが解法の核ですが、これを暗記の公式として覚えると、条件が変わった瞬間に崩れます。
たとえば12を素因数分解すると、2×2×3です。約数は1、2、3、4、6、12の6個。これを「2の指数が2、3の指数が1だから、(2+1)×(1+1)=6」と対応させて確認する。すると、約数が6個になる最小の数が12になる理由も、わかります。個数の6は、6×1と3×2の2通りに分けられます。6×1なら2の5乗で32、3×2なら2の2乗×3で12。小さいのは12です。
また、約数の個数が奇数個になる数は、同じ数を2回掛けた形、つまり平方数です。36の約数は1、2、3、4、6、9、12、18、36の9個。ペアにならない6が1個余るので、奇数になります。この種の「なぜそうなるか」は、一度、小さい数で書き出した子だけが、本番で再現できます。
親ができる、たった一つの介入
家庭学習で、親が介入するなら一点だけです。間違えた問題について、「なぜ間違えたか」を聞かないこと。代わりに、「次はどの順番でやる?」と聞くこと。理由の追及は反省会になり、手順の確認は設計会議になります。反省会は子どもを萎縮させ、設計会議は次の得点を作ります。
そして、メモは一行で構いません。「条件に線、小さい数で書き出す、答えを別の道で確認」。これを解き直しノートの冒頭に書かせる。綺麗なノートより、再現できるノート。これが、偏差値の壁を越える子のノートです。
結論
場合の数が苦手な子に足りないのは、才能でも気合いでもありません。足りないのは、頭の外に出すための手順です。「注意する」という言葉は、今日で卒業していただきましょう。明日から、鉛筆が動く言葉に置き換える。それが、親にしかできない非情で合理的な決断です。
この考え方をさらに先の単元まで広げたい方には、僕のプロフィールにある「中学受験プロによる予習シリーズ専門の算数サポート」コースがあります。無料の相談もありますので、気になる方は、お子さんの解き直しノートを1冊、手元に置いて、お声がけください。
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