イエナプランとは?
イエナプラン教育の発祥は第二次世界大戦の頃のドイツにさかのぼります。
ドイツのイエナ大学のペーター・ペーターセンが考案した教育法でしたが、当時のドイツは戦禍ということもあり普及するには至りませんでした。
その後、スース・フロイデンタール=ルッターがオランダで初めてイエナプラン教育を導入し、オランダ国内で大きく発展していきます。
イエナプラン教育に留まらず、様々なオルタンティブ教育が発展し、普及しているオランダでは「教育の自由」が憲法によって保障されているという背景があります。
教育理念や教育方法に関しての縛りがないため、このような新しい教育法がどんどんと発展していくというわけですね。
イエナプランの成り立ちについてはこの辺にしておいて…
実際イエナプランとはどのような教育法で、どのような特徴があるのかを見ていくことにしましょう。
イエナプランの特徴は?
まずはイエナプランの20の原則というものをみていきましょう。
イエナプランの20の原則
イエナプランの20の原則は「人間について」「社会について」「学校について」の3つの項目から成り立っています。
それぞれ何個かずつみていきましょう。
人間について
どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。
どの人も自分らしく成長するためには、次のようなものと、その人だけにしかない特別の関係を持っています。つまり、ほかの人々との関係、自然や文化について実際に感じたり触れたりすることのできるものとの関係、また、感じたり触れたりすることはできないけれども現実であると認めるものとの関係です。
どの人も、いつも、その人だけに独特のひとまとまりの人格を持った人間として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
社会について
わたしたちはみな、それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重しあう社会を作っていかなくてはなりません。
わたしたちはみな、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会をつくっていかなくてはなりません。
わたしたちはみな、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いやそれぞれの人が成長したり変化したりしていくことを、受け入れる社会をつくっていかなくてはなりません。
学校について
学びの場(学校)とは、そこにかかわっている人たちすべてにとって、独立した、しかも共同して作る組織です。学びの場(学校)は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです。
学びの場(学校)では、教育活動は、教育学的によく考えられた道具を用いて、教育学的によく考えられた環境を用意したうえで行います。
学びの場(学校)では、何かを変えたりより良いものにしたりする、というのは、常日頃からいつでも続けて行わなければならないことです。そのためには、実際にやってみるということと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度を持っていなくてはなりません。
(引用:日本イエナプラン教育協会)
イエナプラン教育の20の原則の内、何個かをピックアップしてみました。
すべてみたいという方は日本イエナプラン教育協会のHPに載っているのでご確認ください。
次からは実際イエナプラン教育では上記の原則をもとにどのような特色の指導を行っているのかを具体的にみていくことにしましょう。
異年齢のグループで学ぶ
まず、イエナプランの最も大きな特徴は3学年の異年齢の子どもたちで学級が編成されていることです。
従来の学校では、学年ごとに別れた学級で学習や生活を進めますが、イエナプランでは学年という概念を取り払って様々な年齢の子どもたちが同じ空間で生活をします。
年齢も個性も異なる多様な子どもたちがいる学級は、いわば実社会の縮小版です。
子どもたちは学習面でもコミュニケーション面でも、年少・年中・年長の立場を自然に経験し、教え合い、助け合いながら学びます。
それぞれのクラスには「グループリーダー」と呼ばれる担任教師がつきますが、通常の学校のように一方的に教える立場ではなく、グループの一員として子どもたちの発達を促す役割を担います。
教室は「リビングルーム」と呼ばれています。
リビングルームは子どもたちにとって安心して過ごす場、居心地のよい場であり、自分たちで作り上げる空間でもあるのです。
4つの基本活動
イエナプランの学校では、科目による区切りもありません。
これには筆者自身かなり驚きました…
算数・国語・理科みたいな科目がないんです。
じゃあ何を学ぶの?って思いますよね。
イエナプランでは子どもたちは「対話・遊び・仕事(学習)・催し」という4つの基本活動を循環させながら学びます。
イエナプランでは「対話・遊び・仕事(学習)・催し」の4つの活動がリズミックに循環するように企画されています。
イエナプランにおいてはこれら4つの活動は、人間の日々の生活にとってどれも欠かせない要素であるとされています。
子どもたちが輪になって、クラスのルールやその日の出来事などさまざまなことを話し合う「対話」(サークル)、個別・共同の2つの形態で課題を意識してそれを達成するための活動である仕事(学習)、音楽などに合わせて体を動かしたり演劇を作るなどの教育上の効果の期待できる活動をする「遊び」、そして一般的な祝祭などの他に、学校の特別の行事や子供の誕生日などを祝ったり、悲しみの共有する場でも有る「催し」の4つの活動で学習が進められる点もイエナプランの大きな特徴です。
「ブロックアワー」(自立学習・基礎学習)と呼ばれる学習の時間では、子どもたちそれぞれが自分の進度に合わせた計画を立て、自主的に学習を進めます。
グループリーダーから示された「しなければならない課題」と、「子どもたち自身が選んだ課題」を自分で進めていく過程では、年上の子が年下の子に教える様子も見られます。
ワールドオリエンテーション(協働学習・総合学習)
「イエナプランのハート」と呼ばれ、日々の学習の中心となる活動が「ワールドオリエンテーション」(ファミリーグループ活動)です。
ワールドオリエンテーションでは科目の垣根を超えた総合的な学びが進められます。
学校全体で取り組むテーマをもとにして、実際に世界で起こっていること(学校のルールや地域にある会社のような身近なものから、地形や環境など地球規模のことまで)について、グループのメンバーと協力しながら総合的に学んでいきます。
子どもたちは、自分で資料を探し、観察や実験・インタビュー調査などをし、最後にプレゼンテーションを行います。
ワールドオリエンテーションの中で生まれた「問い」を深めるために、自主学習の中で必要な知識を得ていくという循環が生まれ、学びは「意味」のあるものとなっていくのです。
イエナプランではいわゆる教科ごとの学習は、ワールドオリエンテーションにおける探求のためのツールとなるスキルを学ぶためのものであり、反対にワールドオリエンテーションはそれを通して科学的なスキルに意味を与えるものとして位置づけられています。
インクルーシブ教育
学校を現実社会に近いものとしてとらえているイエナプランでは、特別学級を設置していません。
健常者も障がい者もともに、助け合って学びます。
子どもたちは年齢も障がいも関係なく、多様な個性に触れて育っていくことができます。
イエナプランでどんな力が養われる?
イエナプランの学校では、子どもたちが主体となって学びます。
静かに考える時間のなかで、子どもたちは探求心を持って答えのない問いに向かいます。
イエナプランで育つのは、主体性を持った子ども、そして多様な個性を受け入れ、他者と共に生きる協調性を持つ子どもです。
また、大小の異年齢グループが作られるため、どの子どもも、年長としてリーダーの役割を担うことになり、リーダーシップがとれるようになります。
モンテッソーリ教育やシュタイナー教育との違いは?
モンテッソーリ教育では、子どもの自主性と自立心、知的好奇心を育み、社会に貢献する人物となることを目的としています。
モンテッソーリ教育は主に幼児向けとして知られていますが、小学生向けには異年齢の子どもたちを混ぜたクラスで自立的に自由な作業を行います。
一方、シュタイナー教育の特徴は「自由な生き方ができる人間」を育てることです。
自らの意志によって行動できる人間、一貫した自分の考え方を持つ人間を目指します。
日本でもいくつかのシュタイナー学校が作られており、体を動かしたり、芸術に触れたりする時間がたっぷりと取られています。
モンテッソーリ教育とシュタイナー教育に共通するのは、自由と自立を重視している点であり、イエナプランにも通じる部分があります。
しかし、大きく違う点は異なる個性を持った子どもたちと積極的にかかわる「共生(協調性)」の仕組みです。
個性を大切にするモンテッソーリ教育やシュタイナー教育では十分に伸ばせない「協調性」が育まれるのがイエナプランの大きな特徴の一つだといえるでしょう。
イエナプランの他にも今、日本で注目を集めているオルタナティブ教育には多くの種類が存在します。
でも実際のところ、どれもカタカナで長い名前…何がなんだかって感じですよね(笑)
だからといって1つひとつ調べるのも大変…
そんな方に向けてこの記事も作成した筆者がこれらの教育法について、体系的にまとめた
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日本にもある!イエナプランの学校とは?
大日向小学校(長野県佐久穂町)
日本初のイエナプランスクールである、私立の大日向小学校は2019年4月、人口11,000人の自然豊かな町に誕生しました。
廃校となっていた小学校をリノベーションし、教室や廊下、エントランスなどに子どもたちの好奇心を刺激する仕掛けがいくつも施されています。
ランチルームは地域の食堂としても使われており、地域全体で子どもたちの学びと成長を見守っています。
川や森、畑や果樹園、水田など学校の周りの環境すべてが、学びの場です。
大日向小学校では、オランダの教育をそのまま導入するのではなく、日本の学習指導要領とイエナプランを融合させたカリキュラムを作成しています。
オランダで3ヶ月のイエナプラン教育専門の教員養成研修を受けてきた数名の先生をはじめとして、公立小学校でいろいろな実践を重ねてきた経験豊富な先生たちが子どもたちに寄り添っています。
大日向小学校の1日体験入学プログラムでは、四季折々に異なる表情を見せる佐久穂町の自然を感じながら、イエナプランの教育を体験できます。
(2022年7月現在新型コロナウイルスの関係で見学会などの開始はしていません※オンライン説明会は実施中)
詳細や今後の予定について知りたい方は、大日向小学校HPでご確認ください。
福山市立常石ともに学園(広島県福山市)
また、私立の大日向小学校に次いで、公立小学校としては初めて、福山市立常石ともに学園でもイエナプランを取り入れます。
少子高齢化の進む常石地区に小学校がなくなってしまうのを防ぐため、地元企業や市と県の教育委員会などが協力して、町の外から子どもたちを呼び込めるイエナプランスクールを作ることになったのです。
今年2022年4月に開校しました。
詳細や今後の予定について知りたい方は、常石ともに学園HPでご確認ください。
これからこれらの学校を皮切りに、日本国内でもイエナプラン教育を実施する学校が増えていくかと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「イエナプラン」の知名度や普及度は日本ではまだまだ低いというのが現状ではありますが、オランダを始めとして海外では一般的な教育法のひとつとなっています。
上記2つの学校を先駆けとして日本国内でもこれからどんどんとイエナプラン教育が広がって行くことかと思います。
また、日本の社会そのものも転換期に差し掛かっており、これからの子どもたちには一人ひとりの多様性を尊重し、主体性と協調性を身につけていくことが求められています。
イエナプランはそんな社会の流れに合った教育理念だといえるでしょう。
大日向小学校や常石小学校などの取り組みに、これからますます目が離せなくなりそうです。