勉強のやる気スイッチはいつ入る?
中学受験の指導をしていると、
「勉強へのやる気はどうしたらでるんでしょうか?」
と保護者の方からご相談をいただくことがあります。
模試の結果が思うようにいかなくても、親が心配しているほど本人は気にしていなかったり
遊びや楽しいことを優先して勉強に身が入らなかったり。
そんな姿をそばで見ていると、
「何かきっかけさえあれば、やる気のスイッチが入るのでは」
と思うのも自然なことだと思います。
では、その「やる気スイッチ」は、いつ、何をきっかけに入るのでしょうか。
あまり参考にならないかもしれませんが私自身の経験談をお話したいと思います。
実は私自身、小学生の頃はいわゆる「勉強が苦手な子」でした。
公立小学校のテストでも60点くらいを取ることがあり、
塾の模試では偏差値50に届かないことも珍しくありませんでした。
そんな私にも、振り返ってみると「少し勉強してみよう」と思うようになった大きなきっかけが二つありました。
一つ目は、小学生のとき、理科の通知表で「5」をもらったことです。
テストの点数が良かったわけではありません。けれど、ヘチマの観察日記にとても真面目に取り組んでいたという理由で、その頑張りも含めて「5」をつけてもらいました。
当時の私は、まさか自分が通知表で「5」をもらえるなんて思っていませんでした。
だから、とにかく嬉しかった。そして単純に「次も5が欲しい」と思いました。
そこから、以前より少し勉強するようになりました。
「勉強の大切さに気づいた」とか、「理科の素晴らしさに目覚めた」とか、そんな立派な話ではないんです。ただ、自分には縁がないと思っていた「5」という数字を一度もらえたことが嬉しくて、もう一度欲しくなった。それが私にとって小さなきっかけでした。
もう一つ、大きく変わったのは中学3年生のときです。
私立中学に進学した私は、小学生の頃に比べれば「そこそこ」勉強のできる子にはなっていました。とはいえ、学内の定期テストの成績によるクラス分けでは、いつも下位のクラス。それでも当時の私は、そのことを特に気にしていませんでした。中高一貫校だったので、とにかく毎日遅刻せずに学校へ行きさえすれば高校に上がれる環境だったからです。
ところが家庭の事情で、高校受験をすることになりました。
それが中学3年生の夏。あと半年ほどで、高校受験ができるレベルまで学力を引き上げなければならないという、今考えてもなかなかヘビーな状況です。そのとき、親から「志望校は自分で決めなさい」と言われました。
そこでたまたま見つけた学校が、当時の私にとってはかなり高い偏差値の学校でした。
でもパンフレットを見れば見るほど行きたい気持ちが大きくなりました。
では、なぜそこに行きたかったのかというと、
「校則がない」
「私服でおしゃれができる」
「髪を染めてもいいし、ピアスもできる」
「校舎がきれい」
……今、自分の子供が口にしたら「そんなことで志望校を決めるもんじゃないよ」と苦言を呈したくなるような理由でした(笑)
「この学校の教育理念に共感した」とか、
「将来の夢をかなえるために、この学校で学びたい」とか、
そんな立派な理由ではまったくなかったのです。
でも、中学生だった私には、「ピアスが開けられる」がものすごく魅力的に見えました。
思いたったその日に本屋に行き、10冊ほど参考書を買い込みました。
残り半年で塾に通うという選択肢はなく、週に2回家庭教師の先生に来ていただいて(当時はオンラインという便利なものはなく、また田舎だったので、国公立大学を出た近所の知り合いの主婦の方が教えてくださいました)、残りの時間は一人で部屋にこもってひたすら勉強しました。ピアスを開けたいために…。
そして、それまで学内ですら下位クラスにいた私が、半年間勉強してその学校に合格することができました。でもなぜ私が急に勉強する気になったか、親は全く見当も付かなかったと思います。
今、子どもたちを教える立場になって、この二つの経験を時々思い出します。
なぜなら、子どものやる気がどこから生まれるのかは、大人が思っている以上に分からないと、自分自身の経験から知っているからです。
頑張りを認めてもらったことかもしれない。
一問解けたことかもしれない。
模試の点数が上がったことかもしれない。
友達に負けたくない、かもしれない。
制服がかわいい、校舎がきれい、文化祭が楽しそう、かもしれない。
大人から見れば「そんな理由で?」と思うようなことが、本人にとっては大きな原動力になることもあります。だから私は、子どものやる気の理由に、必ずしも大人が納得するような立派な意味を求めなくてもいいのではないかと思っています。
もちろん、志望校を見つけた瞬間にすべての子が勉強を始めるわけではありません。
日々いろいろなお子さんを見ていると、そもそもやる気というものは、ある日突然スイッチのように「ON」になるものばかりではないとも感じます。
昨日できなかった問題が、今日は一人で解けた。
ずっと苦手だった単元が、少し分かるようになった。
模試で以前より点数が取れた。
先生や家族から「できるようになったね」と言われた。
そんな小さな出来事が積み重なって、「自分にもできるかもしれない」という気持ちが生まれ、少しずつ勉強に向かう姿勢が変わっていく子もいます。
ただし、「いつか本人のやる気が出るまで、何もしないで待っていればいい」とも私は思いません。中学受験には期限がありますので、やる気が十分ではない日にも塾には行かなければいけません。決められた範囲の宿題には取り組む必要もあります。
そうした最低限の学習は、気持ちとは別に、ある程度淡々と続けていく必要があります。
なぜなら、「やる気が出たから勉強する」だけではなく、勉強したから少し分かる。
分かるようになったから褒められた。 褒められたから、もう少しやってみようと思う、という「ヘチマの観察日記」パターンもあるからです。
私が最初に理科で「5」をもらったときも、先にあったのは「勉強を頑張ろう」という強い意志ではありませんでした。たまたま真面目に取り組んだことを評価してもらい、それが嬉しかったから、次につながりました。
一方、高校受験のときには、「この学校に行きたい」という非常に分かりやすい(よこしまな)欲求が先にありました。同じ一人の人間でさえ、やる気が生まれる理由はその時々で違います。
だから、大人が一生懸命になって「この子のやる気スイッチはどこだろう」と探しても、こちらの思った場所にはないのかもしれません。
だからといって、諦めてしまう必要もないと思います。
スイッチを無理に探して押そうとするよりも、本人が何かをきっかけに「ちょっとやってみようかな」と思ったときに、そこから動き出せる状態を作っておく。
今はまだ受験がどこか他人事に見える子でも、昨日より一問多くできるようにしておく。
苦手な単元を一つずつ減らしておく。
勉強する習慣そのものは、できる範囲で途切れさせない。
そうして積み重ねてきたものがあれば、本人の中で何かが変わったとき、ゼロからのスタートにはなりません。
そして最後まで、分かりやすい「スイッチ」が入らない子だっていると思います。
それでも、毎日やるべきことを少しずつ続けて、気づけば以前よりできることが増えていた。
それも十分、一つの成長の形ではないでしょうか。
自分自身の経験と、日々子どもたちを見ている中で、私はそんなふうに感じています。
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