【中学受験算数】 大手塾のテキストとその特性について
2025/4/20
生徒さんの特徴によって「合う」テキストと「合わない」テキストがあるなということは、中学受験を長年指導されている先生方は感じられているところかと思います。一方で、初めて中学受験にチャレンジするという生徒さんやご家庭にとっては「何となく合う・合わないがあるは分かるけれども、具体的にどういう違いがあるのかまでは分からない」という方がほとんどではないでしょうか。今回は、大手塾で採用されているテキストのうち、「サピックステキスト」、「予習シリーズ(四谷大塚)」、「中学受験新演習(日本教材出版)」について、その特徴と違いについて感じるところをお話いたします。
【サピックステキスト】
サピックスの算数は、基本的には「授業を受ける」→「お家で復習する」というサイクルを想定しています。授業時に小冊子型のテキスト(デイリーサピックス・デイリーサポートなど)が配布され、それについて初回授業で解説を受けて、その後自分で復習していくという形で、その他に各種計算問題や定着確認のための小テストなどが併用されます。テキストの形式については学年によって若干の違いがあり、学年が上がるにしたがってテキスト量も増えていきます。
テキストや問題のレベルは基本的内容から比較的高レベルの問題までそろっており、副教材やテストまで含めると内容・学習量的にもかなりのものとなりますので、きちんと全部こなせる生徒さんにとっては自身の力を大きく引き上げてくれる可能性のあるテキストだと思います。
一方で、テキストの解説等はそれほど丁寧な記載がなく、解説についてはSAPIXの先生による授業内解説で補っていく形であるため、授業を休んでしまったり、内容を理解できずについていけなくなってしまうと復習や挽回が大変というデメリットもあるかと思います。もっとも、解答の解説は比較的丁寧に書かれているため、解答をじっくり読んで自分で理解しながら進めることができる生徒さんであれば、多少授業に遅れたとしても後に少しずつ挽回していくことは可能です。ですが、自学自習のスタイルがまだ身についていない生徒さんや、解答の読解力がそれほどついていない生徒さんなど、まだまだ先生やご家庭のかなり手厚いサポートが必要な状態である場合には、使いこなすのが大変なテキストとなります。よく言われるところではありますが、ある意味使う生徒さんを選ぶテキストとシステムであるように思います。
【予習シリーズ(四谷大塚)】
四谷大塚系列のテキストとしては予習シリーズがあります。昔からある有名テキストで、たびたびアップデートされていますが、算数については比較的難しい問題が配置されているテキストです。メインテキストである『予習シリーズ』では、各単元が「解説パート(解説・例題・類題)」、「基本問題」、「練習問題」などで構成されており、解説パートの説明も比較的丁寧であるため、まずは解説をよく読んで例題や類題にチャレンジし、その後基本問題や練習問題にチャレンジするといった形で、自分でステップを踏んで学習することが可能です。また、各単元とあわせた形での各種問題集(演習問題集・最難関問題集など)もあり、これらを併用することでより高いレベルの学力を身につけることができます。こちらも地力がある生徒さんにとっては大変優れたテキストであると思います。また、個人で購入が可能なことも魅力の一つです。
デメリットとしては、上述の通り、問題自体が比較的難しい問題ぞろいであることや、各種問題集もあわせて進めると膨大な演習量となるため、生徒さんによっては消化不良を起こしてしまう可能性があること、通常はメインテキストとあわせて各種問題集を消化することが期待されるため、1冊1冊は比較的お求めやすいのですが、まとめて購入すると案外値がはることなどが挙げられます。(5年上の場合:予習シリーズ2,200円、演習問題集1,760円、最難関問題集1,760円)また、教える側として使ってみると、時々全体の構成として少し疑問を感じるところはあります。(算数で「比」を学習する前に、理科で「てこと輪軸」が出てくるなど。正直、教える側としては生徒さんが「比」を理解している方が「てこと輪軸」は教えやすいのです。)
使用感としては、メインテキストである『予習シリーズ』の基本問題はまず解けるけれども、練習問題で数題(1題~3題)間違えるというレベルで進めることができるお子さんであれば、問題なく消化できるかと思いますが、解説パートや例題・類題の部分で大きく苦しんでいるという場合には、お子様の現状の学力とテキストにミスマッチがあると判断して良いかと思います。いわゆる難関中学を目指すレベルとなりますと、少なくとも「メインテキストはまずこなせる、演習問題集も問題なくこなせるが実践演習で数題躓き、最難関問題集にもチャレンジできる」という状態を作る必要があるように思います。こちらも、使う生徒さんをある程度選ぶテキストかなという感じがします。
【中学受験新演習(日本教材出版)】
栄光ゼミナール系列で使用されているテキストとしては「中学受験新演習シリーズ」があります。こちらもテキストの構成は四谷大塚の「予習シリーズ」と似ていて、単元ごとに「解説パート(解説・例題・類題)」、「基本問題」、「練習問題」、「チャレンジ問題」に分かれており、解説パートの説明も比較的丁寧であるため、まずは解説をよく読んで例題や類題にチャレンジし、その後基本問題や練習問題にチャレンジするといった形で、自分でステップを踏んで学習することが可能です。また、単元ごとに付録の「確認テスト」もついています。
問題レベルについては、「予習シリーズ」と比べたときにやや難度が下がる問題が並んでいるように感じます。そのため、サピックステキストや予習シリーズと比べると、自学自習を進めていて消化不良に陥る可能性はそこまで高くないように思います。「サピックス、早稲アカなどの授業についていけない」、「成績が伸びなくて困っている」というケースについておすすめすることが多い教材です。中堅校を目指すお子様にとっては非常に優れたテキストであると感じます。
デメリットとしては、算数については併用する問題集の内容・問題量ともにサピックステキストや予習シリーズと比べるとやや軽めのため、「新演習」単体だけだと四谷の80偏差値で60を超えてくる難関校受験には正直心もとないというところがあります。四谷の80偏差値で60までの学校向けのテキストとして使用するのであれば問題ないでしょう。また、塾専用教材であるために個人での購入ができず、塾などにより代理購入してもらう必要がある点もデメリットかと思います。(おそらく、個人でも「塾です」と言えば購入できなくはないと思うのですが、その場合、電話や訪問などの塾向けの営業がかかるのでおすすめしません[笑]。)
3つのテキストについてご紹介してきましたが、最初にもお話しした通り、どのテキストにも長所・短所があり、お使いになる生徒さんに合わせて適切に使用することが大切であるように思います。サピックステキストであればサピックスの授業を前提として使用するとか、予習シリーズの問題にどんどん挑戦していける力がある場合には予習シリーズを、サピックステキストや予習シリーズについていくのが難しい時には新演習でまず基礎の理解を整え、成績の向上や状況に合わせて予習シリーズの演習問題集や最難関問題集を併用するなど、状況に合わせて使用されるのが良いかと思います。
また、どのテキストを用いるにしても、一番大切なことは、きちんとした理解の上に1冊をしっかりとやりこむことです。どの問題集も内容的には非常にしっかりしたものですので、それらをきちんと理解し、1冊仕上げることができれば自然と力はついてきます。テキスト選びももちろん大切ですが、「理解して、解いてみて、見直して、反復して、定着する」という黄金のサイクルを大切にして学習することが、学力向上のためには一番必要なことです。みなさんの日々の学習の一助になれば幸いです。ぜひ、目標にむかって頑張ってください!
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