第一志望は最後まで貫くべき? 夏の終わりに考える志望校の選び方
2025/8/18
今年の夏も終わろうとしています。夏の間に「思った通りの学習を進められた」という人はおそらく少数派です。やってもやっても追いつかない、もっとやれることはあったはずと考える人の方が多いのではないでしょうか。
ですが、実際には自分に「サボった」という実感がないのであれば、それは大きな問題ではありません。自分の理想通りの状態を常に達成できる人などはそう多くはないのですから、自分が行った努力の軌跡を素直に誇りましょう。ただ、もし「遊びまくってしまった」と感じるのであれば、それはこれから発奮して頑張りましょう。
夏の終わりから秋にかけては、各予備校の様々な模試が続く時期です。共通テスト模試や記述模試の第2回、第3回や冠模試に該当する模試が立て続けに行われます。そして、それらの成績は9月~11月頃にかけて一斉に自分の手元へと戻ってきます。その結果が満足のいくものであれば良いのですが、自分に厳しい人ほど「こんな成績ではだめだ」、「これでは第一志望に届かない」など思い悩み、第一志望を変更しようと考える人が現れます。
第一志望を変えること自体は決して「悪いこと」でも「逃げ」でもないのですが、様々な理由から、できるだけ「第一志望だけは揺らさない方が良い」と私は考えています。特に、積極的な理由からの変更でない場合には、2学期以降の第一志望の変更は満足のいく結果につながることは少ないように感じます。今回は、第一志望を直前に変えることによるデメリットや、それでも第一志望の変更を考えた方が良い場合などについてお話をしていきたいと思います。
【なぜ受験直前に第一志望を変えるのは好ましくないのか】
1.モチベーションの維持
:まずは、何といってもモチベーションが違うからです。人が継続して努力できる原動力は「こうなりたい」、「こうしたい」という望みを達成しようとする力です。第一志望校への強い憧れや目標があるからこそ、受験勉強の長い道のりにおいて疑問を抱くことなく勉強を続けることができます。モチベーションが揺らがなければ、つらい時期でも踏ん張る力になるのです。
それを、本当は「自分が望んでいない」、「十分に満足できない」目標に変えてしまうことは、自分自身を支えるモチベーションを削ってしまうことにつながります。また、「一歩引いた」という受け身の意識や負い目がどこかに残ってしまうこともあります。受験はメンタルが大きく作用するものでもありますので、こうした面からも第一志望は「基本的に攻めの姿勢」で維持した方が良いように思います。
2.安全策は第2志望以下で調整することもできる
:また、第一志望を変える根拠として「成績がとてもではないけど届かなくて…」ということを理由にする人がいます。もちろん、不安になる気持ちもわかるのですが、本当に「とてもではないけど届かない」のかどうかは冷静に考えてみる必要があるでしょう。また、「第一志望を変える=その学校を受けない」ということは、その学校に合格する可能性は「ゼロ」です。いくらかは残されている合格への可能性を、自ら「ゼロ」にするからには、それなりの覚悟と分析が必要となると思います。
もし、「今年どうしても合格して大学生になりたい」ということであれば、様々な事情で複数の大学を受験できない場合を除き、第2志望や第3志望で調整して安全策を取ることを考えてみてはどうでしょうか。また、今は共通テスト利用の学校なども多くありますので、そうしたところで「ここはよほどのことがあってもとれる」ということを抑えにしておけば、第一志望の合否が「大学生になる・ならない」という選択に直結することはありません。複数の大学を受験できる場合、第一志望は自分の最終目標としてしっかり置いておいて、安全策は別のところで講じる方が理にかなっています。
3.よりレベルの高い問題に触れることによる底上げ
:多くの場合、第一志望の学校の方がそれ以外の併願校よりも難しい問題が出題されます。以前にもお書きしたかもしれませんが、人は100を目標に掲げても達成できるのは80もあればかなり良いところ、実際には60~70で止まってしまうことも少なくありません。
第一志望を変更して、自分が「簡単だ」と考える学校に目標を変えてしまうと、油断にもつながりますし、またハードルを下げたことにより学習や努力の質が低下し、結局変更した先の学校にも学力が届かなかったということになりかねません。第一志望を自分の目標としてしっかり設定して、それに向かって頑張ることは、自分の学力を底上げすることにつながり、結果的に併願校も含めて合格への道を、より確かなものにしてくれるかもしれません。
4.受験戦略に余計な力を使わなくてすむ
:第一志望を「ここにしよう」、「あそこにしよう」と揺れていると、様々な情報に惑わされてそれに振り回されるということが起こります。受験は情報戦ともいわれ、志望校についての情報・受験形式・出題傾向をつかむことが大切なことは確かです。ですが、それは情報が多ければ多いほど良いというわけではありません。
情報というのは、自分の目的に合わせて集め、活用したときに初めて力を発揮します。ですから、まずは第一志望をしっかりと定め、それに合わせて受験に関する様々な情報収集を行う方が、より情報の価値を引き出すことができるはずです。何より、情報を集めることに腐心して、肝心の準備や勉強がおろそかになってしまったというのでは本末転倒です。志望校がある程度固まっていれば、情報収集にかかる労力は最小限で済みますし、「志望校のために進めていた対策が全くの無駄になってしまった」という事態も避けられます。
5.受験後の納得感が違う
:個人差もあるかとは思いますが、自分が定めた本当の目標と正面から向き合って、その目標を達成するために努力した結果であれば、その結果がどのようなものであれ「それが自分の選択だ」と納得がいくものになるでしょう。不本意な形で志望校の変更を迫られた場合、仮にその目標を達成できたとしても「本当はあそこを受けたかったのに、挑戦することすらできなかった」ということがしこりのように残ってしまうかもしれません。(もっとも、大学受験の結果がどのようなものであれ、それを引きずらずに新しい大学生活でできることと向き合うように気持ちを切り替えることも大切です。)
何より、やはり自分の本当に適えたいこと、達成したいことに正面から向き合って、それを実現できた時の満足感・達成感は何物にも代えがたいものになるでしょう。第一志望に「受かる・受からない」という基準ではなく、自分が受験という事柄に対してどのように向き合うことが自身の「納得」につながるのかをよく考えてみると良いでしょう。
【それでも直前に第一志望を変えた方が良い場合】
第一志望を変えない理由は以上のように多くあるのですが、それでも第一志望を変えた方が良いかもしれないケースというのはいくつか存在します。
1.受験校が極端に少ない
:様々な事情から、「受験できる学校が1校だけ」など受験校が極端に少ない場合には、合格可能性がかなり厳しい大学を第一志望に据えることはよく考えた方が良いと思います。併願校が複数ある場合には、そちらで安全策を講じることができますが、受験校が1校や2校ということになるとそうした安全策を講じることができません。
また、多くの場合、受験校が少ない場合は「絶対現役合格」などの条件が重なっていることが多く、そうした状況下でチャレンジ的要素を盛り込むことは現実に沿いません。仮に、第一志望を動かさないにしても、その場合にはそれなりの覚悟を決め、うまくいかなかったときの次の行動をどうするかまでよく考えておくと良いでしょう。
2.もともと第一志望に思い入れがなかった
:「第一志望を決めた段階が早すぎた」などの理由から、そもそも第一志望にあまり思い入れがなかった場合などは、より自分の希望に沿った大学を新たな目標として設定することに何の問題もありません。そもそも、思い入れの無い大学を第一志望にしたとしてもモチベーションの向上にはつながりません。ぜひ、自分が全力で取り組める大学を新たな第一志望として設定してみましょう。
3.自分の力と目標レベルがあまりにもかけ離れている
:いくら「チャレンジするから」、「頑張るから」といっても、あまりにも目標と自分の学力がかけ離れている場合には、考え直した方が良いかもしれません。特に、志望校のレベルに合わせて勉強していても「チンプンカンプンで入り口のところからさっぱり分からない」と感じるレベルなのであれば、第一志望向けの勉強を積み重ねてもなかなか自分の力にならず、「よりレベルの高い問題に触れることによる底上げ」の効果もあまり期待できません。「がんばって背伸びをすれば届くかもしれない」というレベルであれば構いませんが、「どうやってたどり着いたらいいのか道筋すら見えない」というくらい離れているのであれば、検討し直しても良いでしょう。
その際、判断の根拠として模試の成績や判定を持ち出すのは避けましょう。模試の成績や判定は、あくまでも現時点での力を示したものですし、試験の成績自体もかなり上下があるものです。特に、現役生の場合には継続した努力の成果が出て大きく学力が伸びるのは受験直前であることも少なくありません。現在の成績をもとに、先の成長の機会を無駄にしてしまうことはもったいないことだと思います。
では、何を判断の基準にすれば良いかというと、「自分の実感」です。「今はこの問題は解けないけれど、こういう努力を続けていけばきっとできるようになる」、「これまで勉強が十分でなかったから覚えていないことがたくさんあるけれども、勉強した箇所は理解できるし、知識も蓄積されている」など、普段の自分の学習についての実感をもとに判断して、「間に合うかは分からないけれども、届かない目標ではない」という気持ちを持てるのであれば、仮に成績がE判定だったとしても第一志望は動かす必要はないように思います。
4.消極的理由ではなく積極的理由から第一志望の変更を考えている
:仮に難易度が今の第一志望よりも簡単になる場合でも、「これまでの自分が見つけられなかった明確な目標が見つかった」、「今の第一志望にはない○○という特徴が新しい第一志望にはあり、その特徴こそが今の自分が最も求めるものだ」など、より積極的な理由から第一志望を変えたい場合には、変更も良いでしょう。先にもお書きした通り、その目標変更が自分の満足感や納得感をより高める方向へと働くのであれば、それは望ましいものだと考えてよいものだと思います。
ここで注意しておきたいことは2点。
ひとつ目は、その変更が心から自分の求めるのもであるかどうかをしっかり確認しましょう。前向きな理由を掲げて、その実「逃げ」になっていないかどうかということについてはよく考える必要があります。自分が単に安易な道を選ぼうとしているだけと感じるのであれば、それは避けた方が良いと思います。
ふたつ目は、合格した後に本当にそれでよかったと自信を持って言えるかをよく考えましょう。特に、元の第一志望校よりも新しい第一志望校の難易度が極端に低い場合などは注意が必要です。難易度が高い大学、人気の高い大学には「それなりの理由」があります。同様に、新しく第一志望に設定した大学の難易度が低く、人気が集まっていない場合には、「それなりの理由」があるかもしれません。そうした様々な理由を加味しても変更したいと思うかどうかについてはよく考えてみた方が良いでしょう。
【最後に】
色々とお話してきましたが、大学受験において第一志望を「安易に揺らすこと」はできるだけ避けた方が良いでしょう。模試の結果に不安を覚える気持ちはよく分かりますが、それだけを理由に動揺することは好ましくありません。第一志望は学習の大きな支えであり、モチベーションの維持や学力向上、受験戦略の明確化、さらには受験後の納得感にも直結します。
ただし、受験校が極端に少ない場合や、第一志望に思い入れがない場合、あるいは学力があまりにかけ離れている場合には、変更を検討する余地もあります。いずれにしても、消極的な理由ではなく、積極的に納得できる理由をもって志望校を見直すことが重要です。そうした積極的な理由が見いだせれば、新しい目標についても前向きに取り組むことができるでしょう。
また、大学受験は決して自分一人で進めるものではありません。「○○大学以外は認めない」などの偏った意見には必ずしも付き合う必要はありませんが、真摯に皆さんを支えてくれる人たちとはよく意見を交換して、より納得のいく状態で受験に臨めるようにする方が、普段の学習にも受験本番にも全力を注ぐことができると思います。いずれにしても、対話は大事です。
夏の終わりの時期は、夏に自分が注いできた努力と向き合って第一志望への思いを新たにするにはとても良い時期です。目標達成のために、揺るがぬ気持ちを育めると良いですね。
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