夏休み、親子で頑張るほど空回りすることもある ――「学力を伸ばしたい親」と「充電したい子」の間で、家庭教師が考えていること
夏休みには、保護者さまの方から、この夏休みで遅れを取り戻したい、苦手を克服したい、2学期からはもっと成績を上げてほしい、というご相談をよくいただきます。
そのお気持ちは、私自身も一人の親としてよく分かります。
私は25年間、教員として多くの生徒たちと接してきました。現在は家庭教師として、保護者の方と生徒さんの間に立っています。
だからこそ、夏休みに頑張ることはとても大切だと思う一方で、夏休みだから何でもできると考えすぎないことも大切だと感じています。
夏休みに賭けるご家庭も少なくありません
特に難関校や国立大学への進学を考えているご家庭では、夏休みを大きな転機として捉えることがあります。
この夏で一気に伸ばしたい。苦手分野をなくしたい。英語を完成させたい。
その熱意は、本当に素晴らしいものです。
そして、実際にその熱意が大きな力になるご家庭もあります。
事前に現在の学力を客観的なデータで把握し、優先順位をつけ、計画的に取り組む。保護者の方がお子さんのことをよく見ていて、模試や学校の成績、苦手分野まで把握している。
教材を用意し、学習スケジュールを考え、必要であれば塾や家庭教師などの力も借りる。
愛情と客観的なデータ、そして戦略。
この3つがそろったとき、家庭の力は本当に大きなものになります。
保護者の方がプロ級のアシスト役となり、お子さんの学習をうまく支えているご家庭もあります。
ただし、親の熱量と子どもの熱量は同じとは限りません
ここが、夏休みの難しいところです。
保護者の方は今やらなければと思っている。でも、お子さんは少し休みたいと思っている。
中学生・高校生は、1学期だけでもかなりのエネルギーを使っています。
学校の勉強、定期テスト、部活動、人間関係など、大人が思っている以上にさまざまなことを抱えています。
そのため、夏休みに入った途端、さあ勉強しようと言われても、本人はまず少し休ませてほしいと感じていることがあります。
この場合、子どもの感覚のほうが正しいこともあります。
夏休みを勉強する期間ではなく、まず充電する期間と捉えたほうがよい子もいるのです。
親の片思いになってしまうとき
一方で、保護者の方にも、この夏に賭けたいという事情があります。
受験が近い。成績を上げたい。このままでは志望校に届かない。
もっとできるはずなのに、と思うのは、子どもの可能性が見えているからこそです。
ただ、教育では時々、この愛情が片思いになってしまうことがあります。
親は一生懸命、教材を探し、予定を立て、勉強を促している。でも、本人の気持ちがまだ追いついていない。
すると、これだけやっているのになぜやらないの、という親の苦しさと、自分のことなのに自分で決められない、という子どもの苦しさが生まれます。
親子がお互いに頑張っているのに、なぜか前に進まない。夏休みによく見られる光景の一つです。
だからこそ、家庭教師の役割がある
私は、ここに家庭教師の役割があると考えています。
家庭教師は、親か子どちらかの味方になる仕事ではありません。
親の熱量を理解しながら、子どもの現在地も客観的に見る。
そして、今この子には何が必要なのかを一緒に考えます。
例えば、夏休みの最初から大量の課題を与えるのではなく、まず1週間は生活リズムを整える、この単元だけは夏休み中にできるようにする、毎日30分だけ英語に触れる、といったように、本人が動き出せるところまで目標を小さくする。
逆に、本人に十分な体力と意欲があるのであれば、この夏でここまでやり切ろうと、しっかり負荷をかける。
大切なのは、全員に同じ夏休みを過ごさせないことです。
努力は、すぐに結果にならない
夏休みに一生懸命勉強したのに、9月のテストでは思ったほど点数が上がらないこともあります。
でも、そこで焦らないでほしいと思います。
学力は、努力した翌日に必ず数字になるものではありません。
私はよく、学力を漬物のようなものだと思っています。
材料を入れたからといって、すぐに味が染みるわけではない。時間を置いて、ある日ふと、前より分かるようになったと感じる瞬間が来ることがあります。
夏休みに身につけた知識や勉強習慣が、秋になってから効いてくることもあります。
親子のエネルギーを、少しだけ方向転換する
子どもが、うるさいな、今はやりたくない、という態度を見せていても、親が自分のことを真剣に考えてくれていることは、意外と分かっています。
だから、親子のエネルギーは決して無駄ではありません。
ただし、そのエネルギーをそのままぶつけるのではなく、少しだけ方向を変える。
勉強しなさい、ではなく、
今、何が一番大変?
夏休みが終わるまでに、これだけはできるようになりたいことはある?
先生と一緒に作戦を考えてみようか。
そんな言葉に変えるだけでも、子どもの受け止め方は変わります。
夏休みは「勝負の季節」であり「回復の季節」
25年間の教員経験と、一人の親としての経験、そして現在、家庭教師として多くの親子と向き合う中で、私は、親の伸ばしてあげたいという思いと、子どもの自分も頑張ってみようかなという気持ちをつなぐ橋渡しをしたいと考えています。
夏休みは、必ずしも追い込む季節でなくてもいい。
必要な子には、しっかり充電する時間を。
頑張れる子には、しっかり伸ばす時間を。
まだ本人のエンジンがかかっていない子には、エンジンがかかるまで少し待つ時間を。
そして、親子だけでは難しいところがあれば、第三者の力を借りてみる。
夏休みの成果は、テストの点数だけではありません。
9月に少し前向きになった。自分から机に向かうようになった。以前なら分からなかった問題を、自分で考えられるようになった。
そんな小さな変化も、立派な成果です。
親子の頑張りは、すぐに結果にならなくても、決して消えません。
夏に仕込んだものが、秋に、冬に、そしてその先に、じわじわと効いてくる。
教育とは、案外そんな漬物のようなところがあるのかもしれません。
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