オンライン家庭教師マナリンク

綺麗な解法を見せる授業ほど危ない

2026/5/29

塾の体験授業を見学したことがある保護者の方から、こういう感想をよく聞く。

「先生の解説がすごく分かりやすくて、子供も理解できたみたいです」

その感想が出た時点で、僕は少し心配になる。

分かりやすい解説を聞いて理解した気になることと、試験会場でその問題が解けることは、まったく別の話だからだ。むしろこの2つは、ある意味で反比例する。

「理解した気」という最も危険な状態

以前、ある塾の研修で、ベテラン講師の授業を生で見る機会があった。難しい問題を前にすると、本当に鮮やかな解法を展開する先生だった。見ている側が思わず唸るような手順で、式がすっきり並び、答えへの道筋が美しく照らされていく。

授業後、生徒たちの顔には満足感があった。保護者の方も「なるほど」という表情をしていた。

問題は翌週にある。

同じタイプの問題が出たとき、その満足感はほぼ再現されない。

なぜか。あの鮮やかな解法は、長年の指導経験を積んだ講師が、問題の構造を深部まで把握した上で選択した「最適解の提示」だからだ。見ている側は「分かった」と感じるが、実際には「分かりやすく見せてもらった」に過ぎない。その解法を試験本番で自力再現できる小学生は、ほぼ存在しない。

僕はこれを「池上彰現象」と呼んでいる。池上さんのニュース解説は本当に分かりやすい。でも翌日には何も覚えていない。あの「分かった感」は、理解の深さではなく、提示の巧みさから来ている。

授業の満足度と、解法の定着率は別物だ。

本番の試験会場で何が起きているか

中学受験の算数の試験を、正面から見てきた経験から言う。

難関校の最後の数問を除けば、上位合格者の多くは、実は「綺麗な解法」で解いていない。

制限時間の中で、条件を整理して、数字を当てはめて、合わなければ別の方向を試す。図を書いて、線を引いて、泥臭く手を動かしながら答えを探す。エレガントとは程遠い。でもそれが、現場で機能する解法だ。

僕は以前、Sクラスの生徒に解き方を教えていない問題を出したことがある。難関校の過去問の一問だった。次の授業で見ると、その子は正解していた。どうやって解いたか聞くと、「解き方分からなかったから、条件に合う数字を全部当てはめました」と言った。

頭の中で高速に仮の数字を試し、条件に合わないものを排除していく。エレガントではない。でも正確で、速くて、再現性がある。それが試験会場で機能する解法の正体だ。

パワープレイという思想

サッカーにパワープレイという戦術がある。技術的な洗練とは距離を置いて、とにかくボールを前線に蹴り込み、体力と圧力で相手ゴールに迫る。見た目は粗い。でも結果を出す。

僕は算数の指導でこれを意識的にやる。

解き方が分からなくなったら全部書き出す。規則性の問題なら、数を端から書いてパターンを見つける。割合の問題なら、条件を満たすケースを手で確認する。面積比が分からなければ、補助線を引きながら試す。一見遠回りに見えるこの作業が、概念を「頭で理解する」から「手で知っている」状態に変える。

以前担当した成功学院に進んだ男の子がいる。数列の問題を授業中に出したが、終わらなかった。翌日持ってきたノートを開くと、小さな数字が何百個と書いてある。「解き方忘れたから全部書きました」と言った。

その子はその後、似たタイプの問題を出すと、ほぼ瞬時に解法を見つけた。なぜか。全部書いた経験が、数列のパターンを「頭のイメージ」として定着させたからだ。理屈ではなく、手を動かした記憶として残っている。

説明を聞いて理解する速度より、書いて失敗して掴み取る速度の方が遅い。でも定着する深さが根本的に違う。

美しい授業が量産する「上滑り」

「上滑り」という言葉を使うことがある。スキーで斜面を滑るように、表面はきれいに見えるが、雪面との摩擦がない状態だ。

知識の上滑りは、鮮やかな解説を受け続けた生徒に起きやすい。解説を聞くたびに「分かった」という満足感が得られるので、本人も保護者も手応えを感じる。でも次に同じ問題が出ても解けないし、類題に変形されると完全に手が止まる。

なぜか。自分で悩んでいないからだ。

算数の概念が本当に身につく瞬間は、問題と格闘して、行き詰まって、別の方向から試して、それでも詰まって、もう一度ゼロから考えたときにやってくる。その過程で生じた「なぜこの計算をするのか」「なぜこの図を描くのか」という疑問と答えが、解法を血肉にする。

講師が解説で先回りすると、この格闘が消える。格闘なしに与えられた知識は、借り物のまま試験会場に持ち込まれる。そして借り物は、現場のプレッシャーの下でまっさきに崩れる。

僕の授業で説明が少ない理由

体験授業を受けた保護者から「先生、あまり教えてくれないんですね」と言われることがある。

そうです、と答える。

僕の授業のスタイルはこうだ。例題を8割程度の説明で見せる。あとは生徒に解かせる。分からない問題が出ても、すぐ解説しない。「ここまでの数字を出してみて」「この条件でどうなる?」と順番に問いかけて、生徒自身に手を動かさせる。最終的に答えが出たとき、その解法は生徒が自分で探り当てたものになっている。

これは非効率に見える。1時間で教えられる量は確かに減る。

でも翌週に同じタイプの問題を出すと、高い確率で解ける。借り物ではなく、自分で格闘して掴んだものだからだ。

授業の密度と、解法の定着率は、別の軸で測るものだ。

親が明日できること

家庭学習での直しを見るとき、解法を教える前に一度だけ試してほしいことがある。

「この問題、どこまで自分で出せる?」

間違えた問題の条件を整理して、出せる数字だけ出させる。それ以上進めなくなったところで初めて、ヒントを一つだけ出す。全部は教えない。残りをまた考えさせる。

この繰り返しが遅く感じても、翌週に同じ問題を出してみると、解けている確率が上がる。それが定着だ。

分かりやすく教えることと、解けるようにすることは、目指すものが違う。前者は教える側の満足のためにあり、後者は受験生のためにある。

中学受験の算数は、試験会場で一人で解くものだ。そのとき手元にあるのは、自分で格闘して掴み取った武器だけだ。綺麗な解説の記憶は、そこには残っていない。

このブログを書いた先生

このブログに関連するオンライン家庭教師はこちら

中学受験におすすめの指導コース

国語(小学生)の月額コース
中学入試の学力を効率的に上げる国語診断
無料体験あり
中学入試の学力を効率的に上げる国語診断
28,000円/月
1回60分(月4回(週1回目安))
小学4〜6年生
  • 算数は得意だけど、国語は苦手・・・。そんな生徒さんにどう解けばいいか論理的な読解法の一部を伝授します
  • 国語の偏差値を平均値にもっていくための論理の基礎ができているかをチェックします
  • 国語が得意な先生のセンス的なものに頼らない、公式的なものを指導します。
コースの詳細を見る
社会(中学生)の月額コース
【中学受験社会】塾の成績を上げる授業
三者面談あり
無料体験あり
【中学受験社会】塾の成績を上げる授業
20,000円/月
1回60分(月4回(週1回目安))
小学4〜6年生
  • 何を覚えればいいかわからない
  • テストで良い得点をとるためのコツを知りたい
  • できればテストのふり返りも習慣にしたい
コースの詳細を見る
25,000円
60分(全5回)
小学5・6年生
  • 念仏のように単語を暗記しているだけ
  • 実社会でどう使われているのかイメージできない
  • 最難関まで対応可能
コースの詳細を見る
国語(小学生)の月額コース
なんとなくで終わらせない記述のトレーニング 中学受験国語
三者面談あり
無料体験あり
なんとなくで終わらせない記述のトレーニング 中学受験国語
24,000円/月
1回60分(月4回(週1回目安))
小学4〜6年生
  • 記述の多い中堅・難関校志望の方、得意な国語を安定した得点源にしたい方
  • 国語のテストで、なかなか記述が書けないとお困りの方
  • 帰国生で国語を受験で使うので、特に記述を個別で見てもらいたい方
コースの詳細を見る
理科(中学生)の月額コース
【四谷・早稲アカで伸び悩んでいる方必見!】理科徹底対策コース
三者面談あり
無料体験あり
【四谷・早稲アカで伸び悩んでいる方必見!】理科徹底対策コース
19,600円/月
1回60分(月4回(週1回目安))
小学4〜6年生
  • 「四谷大塚やSAPIXに通っているけれど、なかなか成績が伸びなくて心配…」
  • 「偏差値がなかなか上がらない。このままでは第一志望に間に合わないかも…」
  • 中学受験を経験したことのある先生に教えてもらいたい!
コースの詳細を見る

この先生の他のブログ

ヒロユキの写真

過去問で算数が取れない小6へ|解く前に捨て問を決めよ

2026/10/19
過去問で算数が取れない。小6の秋、保護者から最も多く聞く悩みです。結論から言います。原因は実力不足より先に、「どの問題を解いて、どれを捨てるか」を小学生本人に判断させていることにあります。過去問の算数が取れないのは、実力より設計の問題過去問を解いて点が低いと、親は「まだ力が足りない」と考えます。そし...
続きを読む
ヒロユキの写真

おうぎ形の面積の逆算がわからない子へ|3.14は最後まで残す

2026/10/17
おうぎ形の面積の逆算がわからない。この相談は、小5の秋から小6にかけて、驚くほど規則正しく届きます。公式は言えるのに、「面積が等しい」と書かれた途端に鉛筆が止まる。今日は、その原因と3.14の扱い方を整理します。おうぎ形の面積は言えるのに、なぜ逆算で止まるのかおうぎ形の面積の公式は、半径 × 半径...
続きを読む
ヒロユキの写真

旅人算の比がわからない親子へ|同じなのは時間か距離か

2026/10/16
旅人算の比がわからない。式は立てられるのに、正比なのか逆比なのかで毎回手が止まる。この迷いの正体は、頭の良し悪しではありません。「いま同じなのは、時間か、距離か」という一つの問いを飛ばしているだけです。旅人算で比が使えなくなる本当の理由予習シリーズの5年後期あたりから、旅人算は「速さの比」を前提に進...
続きを読む
ヒロユキの写真

旅人算の比がわからない原因は、1対1の見落とし

2026/10/15
旅人算の比がわからない。そう悩むお子さんの答案を見ていると、比の計算そのものより前に、「いま自分はどの比を置いたのか」が曖昧なまま走り出しているケースがほとんどです。計算力の問題ではありません。比を置く前の一手が抜けている。これが、中学受験の旅人算で偏差値の壁にぶつかる最大の原因だと僕は見ています。...
続きを読む