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「簡単な問題だけやりなさい」は、絶対に効かない

2026/6/8

言ったことがあるはずだ。

テスト結果を見て、正答率の低い難問はそこそこ正解しているのに、正答率の高い基本問題を落としている。親としては当然こう言いたくなる。「難しい問題はいいから、簡単な問題を確実に取りなさい」と。

合理的に聞こえる。正しいアドバイスのように聞こえる。

でも10年間、毎年全員に言い続けてきて分かったことがある。この言葉は、絶対に効かない。一人も変わらない。

なぜ子どもは難しい問題に飛びつくのか

テストが始まった瞬間、子どもの視線はどこに向かうか。

前から順番に解き始める子は、実はそれほど多くない。特に男子は、問題用紙が配られた瞬間に後ろのページをめくる。大問5、大問6。難しそうな問題を確認する。そして心の中でこう決める。「あの問題、時間をかけて解きたい」。

その結果、前半の基本問題を早く片付けようとする。丁寧に解く気がそもそもない。難しい問題に使う時間を確保するために、基本問題を消化試合にしてしまう。

これは性格の問題でも、注意力の問題でもない。難しい問題を解きたいという知的な欲求が、テスト戦略を狂わせている構造的な問題だ。だから「簡単な問題をやれ」という言葉は、その欲求を外から抑えようとしているに過ぎない。抑えられるわけがない。

「言っても治らない」の正体

僕がこの現象を「治らない」と表現するのには理由がある。

意志の力でどうにかなる問題ではないからだ。

子どもにとって難しい問題は、本質的に魅力的だ。それはパズルであり、挑戦であり、解けたときの達成感が基本問題の比ではない。その引力に抗って「簡単な問題を丁寧にやれ」と言い聞かせることは、大人が思う以上に難しいことを子どもに要求している。

しかも、テストという緊張した場面でそれをやれと言っている。平常時でさえ難しいことを、最もプレッシャーがかかる状況でやれというのだ。

10年間で一人も変わらなかったのは、そういう理由だ。これは指導力の問題でも、子どもの素直さの問題でもない。構造的に無理なのだ。

コースを一つ上げると何が起きるか

では有効な手は何か。

逆張りになるが、難しい問題を解けるようにしてあげることだ。

四谷大塚系のテストで言えば、Bコースの子どもにCコース相当の問題に慣れさせる。すると何が起きるか。

テストが始まった瞬間の景色が変わる。後ろのページを見ても、「あ、これはCコースの問題だな。難しくない」と感じるようになる。未知の怪物ではなく、見知った問題に見える。すると前半の基本問題に全力を向けられる心理的な余裕が生まれる。

基本問題のミスを減らしたければ、基本問題の練習量を増やすのではない。難しい問題への対策を積んで、今の難問を「簡単」に感じさせることだ。

BコースとCコースで何が変わるか

具体的な話をする。

BコースとCコースの問題は、実はそれほど変わらない。大半は同じ問題で、後半にCコース専用の問題がほんの少し加わっているだけだ。

にもかかわらず、Bコース満点近い点数を取っていた子がCコースに上がった瞬間、40点台を取る現象が頻繁に起きる。

原因はさっきの話だ。Cコースという環境に来た途端、後半の問題が気になって仕方なくなる。「難しそうだ、時間を使わないといけない」という感覚が発動する。結果として前半の問題を雑に処理して、今まで取れていた問題を落とす。

点数が下がったのは能力が落ちたからではない。環境が変わったことで、テスト中の注意配分が崩れたからだ。

これを根本から解決するには、後半の問題を「難しくない」と感じさせるしかない。そのための練習が、一つ上のコース対策だ。

できる子のテストの終わり方

高得点を安定して取る子のテスト行動には、共通したパターンがある。

制限時間の残り10分前後に全問解き終わる。そして残りの時間で見直しをする。

なぜそれができるか。前半の基本問題を「楽勝」と感じているからだ。考えるまでもなく手が動く。詰まらない。時間を食われない。その分、後半の難問にも落ち着いて取り組める。

この状態を作るのは、精神論ではない。「楽勝」と感じられるだけの問題経験を積んでいることが前提にある。難しい問題に慣れた子は、相対的に基本問題が簡単に見える。それだけのことだ。

「難しい問題をやらせる」への保護者の反応

ここまで読んで、こう感じた保護者がいると思う。「今でも宿題が終わらないのに、さらに難しい問題をやらせるのか」と。

その懸念は正当だ。ただ、難しい問題の練習を増やすことと、勉強時間を増やすことは必ずしもイコールではない。

一つは作業スピードの問題だ。計算・読字・筆算・図形を書く速度が上がれば、同じ時間で処理できる問題数が増える。もう一つは反復の質の問題だ。同じ問題を3周すれば、初見で30分かかっていたものが10分で終わるようになる。

量を増やすのではなく、密度を上げる方向で考えてほしい。

「簡単な問題をやれ」と言い続けた10年間で、一人も変わらなかった。

でも難しい問題を一緒に片付けた生徒は、気づいたら基本問題を雑に解かなくなっていた。本人は何も意識していない。ただ、難問が怖くなくなったから、急ぐ理由がなくなっただけだ。

原因を取り除く方が、症状を抑えるより早い。

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